
ゲノム変異における重要なクラスのひとつに,スプライシングの異常を引き起こすものがある.そのなかで主要なものとしては,イントロンの両端二塩基(GT-AG)における変異であり,この部位における変異によりスプライシング因子の結合に影響が生じ,転写異常が起こることが知られている.しかしながら,GT-AG以外でも,ゲノム変異によってスプライシング異常が生じる例が遺伝性疾患などの解析により数多く知られている.しかし,がんゲノムにおいて,スプライシング変異の正確な全体像の解明は進んでいなかった.本稿では,ゲノムデータとトランスクリプトームデータを統合的用いてスプライシング変異を網羅的に同定する統計的方法論,また,この方法を用いたがん種横断的な大規模解析の結果を紹介する.本解析の結果,GT-AGにおける変異のみならずエクソンの最後の塩基やイントロンの5番目の塩基においてスプライシング変異の集積がみられたこと.また深部イントロンにおいて新規の偽エクソンを生じさせる変異とAlu配列との関連性についての一端などが明らかになった.