てんかんは,脳神経系の代表的なcommon diseaseであり,わが国には人口の約0.8%にあたる約100万人の患者がいる.その原因は多岐にわたり,小児期発症の特有なてんかん症候群のほか,周産期脳障害,海馬硬化症,皮質形成異常,腫瘍,感染,頭部外傷,遺伝性のチャネル病などが知られてきた.てんかんは,従来は小児に多い疾患と捉えられていたが,超高齢社会となり高齢発症のてんかんが急増し,発病率は小児と高齢者に二峰性のピークをもつU字型に変容した.高齢発症のてんかんでは,脳卒中や認知症が原因で大脳皮質細胞が障害され症候性部分(焦点)てんかんが発症するが,依然約半数は原因が不明である. 2010年代から自己免疫介在性の部分(焦点)てんかんの存在が明らかとなり,国際抗てんかん連盟(ILAE)の新てんかん症候群分類(2017)でも,てんかんの病因のひとつに“免疫(immune)”がはじめて取り上げられ,免疫療法で治療できる病態として注目される. 診断面の進歩としては,デジタル脳波計を用いた持続脳波モニタリングの発展や,発作時脳波変化の体系化から意識障害患者のなかに紛れ込む,けいれんを伴わない“非けいれん性”てんかん重積状態の診断が迅速に可能となり,神経救急現場での抗てんかん薬の静脈注射による治療が進んだ. 令和元年(2019)の現在,20世紀から使用できた,いわゆる従来薬に加え,21世紀に入り上市された新規抗てんかん薬が多数使用できる時代になり,最新のてんかん診療ガイドライン2018では,薬剤治療の第一選択肢として取り上げられる薬剤も出てきた.このような内科治療で,約7割の患者は発作が抑制されるが,残り約3割は薬剤抵抗性の難治性てんかんと位置づけられる.近年,てんかん専門診療施設が整備され,最新の生理・画像検査を取り入れた術前評価から,てんかん焦点摘出術やデバイスを用いた緩和療法といったてんかん外科治療が積極的に行われるようになってきた. 今回の特集では,令和元年を迎えた現在のてんかんの診断と治療のstate of the artを,日本を代表する臨床・研究の第一線の先生方にお願いした.本特集が読者の皆様のてんかん診療の参考になれば幸いである.