
生体は緊急時に闘争や逃避を可能とすべく意識・覚醒レベルを高め,心拍数の上昇や散瞳,筋緊張を高める交感神経系など自律機能を変化させると同時に,外界からの刺激の受容を取捨選択する.とくに痛みは運動機能を低下させるなど闘争や逃避行動に不利なため完全に抑制され,対照的に視覚や嗅覚の受容は増強される.脳幹はこの緊急時の痛みの選択的な抑制に重要な役割を果たしている.青斑核や縫線核など脳幹に豊富に存在するモノアミン作動性ニューロン群は意識・覚醒レベルの調節にも関与するが,下行性に脊髄に投射し痛みの伝達を抑制する.最近の研究から,この抑制系の変調が慢性疼痛の発症に関与するものとして注目されている.本来,精神状態や感情の変化に伴って作動するこれら脳幹を起始核とする内因性の痛覚抑制系を,オピオイドや鎮痛補助薬は利用している.

下行性痛覚抑制,セロトニン,ノルアドレナリン,オピオイド,鎮痛