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271巻2号 2019年10月12日
腫瘍免疫研究の最近の進歩
はじめに
AYUMI 腫瘍免疫研究の最近の進歩 はじめに 河上裕
  臨床で診断されるがんは,免疫防御システムから逃避しており,免疫療法によるがん細胞排除については長年議論されていた.しかし近年,CD8T細胞を主要エフェクター細胞とする免疫療法(免疫チェックポイント阻害薬や培養T細胞養子免疫療法)は,複数のがん種で標準治療抵抗性の進行がんに対しても持続的な腫瘍縮小効果を示す場合があることが明らかになった.2018年ノーベル生理学・医学賞は「Discovery of cancer therapy by inhibition of negative immune regulation」として,PD-1とCTLA4の先駆的研究を行った京都大学の本庶佑博士とテキサス州立大学MDアンダーソンがんセンターのJames P Allison博士が受賞された.もともとがん治療開発を目的としていなかったT細胞調節機構の基礎研究が重要な創薬につながった.一方,免疫チェックポイント阻害薬単独投与の奏効率は多くのがんで10〜20%程度であり,その効果は,がん細胞の遺伝子異常(ジェネティック,エピジェネティック)を主要因として,患者遺伝子多型による免疫応答体質,喫煙・腸内細菌叢などの環境因子などに規定されるがん免疫状態に左右される.明確な効果を示す免疫チェックポイント阻害薬治療症例検体を用いたリバーストランスレーショナル研究による免疫病態の機序解析は,T cell inflamedやT cell non-inflamed状態とそれぞれに対応するadaptive and primary immune resistance,さらに,いったん免疫療法が効いた後の再発に関与するacquired immune resistanceなどの免疫によるがん細胞排除機構および免疫抵抗性機構の解明を可能にし,腫瘍免疫学は大幅な進展をみせている.
 ヒトがん免疫病態の解析や新規がん免疫療法の開発においては,新技術を駆使することが非常に重要であり,実際,新技術を用いた多くの新知見が得られつつある.がん免疫研究の成果は,近年『Cell』『Nature』『Science』などの一流科学雑誌に多数掲載され,がん免疫関連雑誌のインパクトファクターは非常に高くなっている.新技術として,ゲノムDNA,mRNA,miRNA,蛋白質,シグナル伝達,代謝物などの網羅的なマルチオミックス解析は,ヒトがん免疫病態の解析を大きく促進させた.T細胞標的としてのパッセンジャーDNA突然変異(ミスセンス,フレイムシフトなど)由来変異ペプチド(ネオ抗原)の重要性と,その原因となる環境因子(喫煙,紫外線など)や,DNA修復関連分子の異常(hMLH1遺伝子サイレンシングや,DNAミスマッチ修復酵素遺伝子変異,POLE/DやBRAC1/2などの変異など),T細胞誘導系に関与するケモカイン,サイトカイン,抗原処理提示関連分子の欠失,ドライバー変異を含めたがん遺伝子活性化や染色体異常(aneuploidy)による免疫抵抗性・抑制性の作動,獲得免疫抵抗性の2大原因となるがん細胞のMHCクラスI欠失(β2-ミクログロブリン変異など)とがん細胞のIFN-γ反応性の消失(JAK1/2変異など)などのがん免疫病態の分子機構が明らかにされた.また,免疫応答体質を規定するHLAタイプや免疫関連遺伝子の多型(SNP),がん免疫病態と関係する腸内細菌叢(樹状細胞活性化を介した抗腫瘍T細胞誘導など),がん細胞や免疫細胞の代謝異常〔エネルギー,糖,アミノ酸(グルタミン,アルギニン,トリプトファン),脂質(プロスタグランジン,コレステロール,脂肪酸),核酸(細胞外ATP,アデノシン)など〕によるがん微小環境の免疫抑制状態なども明らかになった.そして,がん種ごと,同じがんでもサブタイプごと,さらに症例ごとに異なるがん免疫病態が明らかになり,がん種共通の機序とユニークな機序があることもわかってきた.
 フローサイトメトリーを超えて,single cell RNA-seq,マスサイトメトリー,マルチカラー免疫染色などの単一免疫細胞解析は,PD-1/PD-L1抗体投与前後の免疫サブセットの詳細な動態解析を可能にし,PD-1/PD-L1抗体投与時に実際に起こっていることは,単純に腫瘍浸潤エフェクターCD8T細胞が再活性化されてがん細胞を排除するのではなく,腫瘍組織中の部分疲弊T細胞(pTex),完全疲弊T細胞(BATFTIM3 cTex),レジデント様メモリーT細胞(CD103Trm),メモリー様T細胞(TCF7Tmen),さらにリンパ組織でのTmenなど,各種CD8T細胞サブセットの活性化・増殖・分化を介して,がん細胞が排除されることが解明されつつある.また,ヘルパーT細胞や制御性T細胞などのCD4T細胞,樹状細胞やマクロファージなどの骨髄系細胞群,NK細胞などのがん免疫病態への関与も解明されつつある.がん細胞認識機構の解明には自家がん細胞を用いた実験が重要であるが,効率的な自家がん細胞培養を可能にするオルガノイド技術も用いられている.ヒト免疫応答のin vivo実験のためにNOGやNSGなどの免疫不全マウスを基盤として,ヒト遺伝子の導入やマウス遺伝子のノックアウトにより各種免疫系ヒト化マウスも作製され,ヒトがん免疫応答解析用のPDXマウスモデルの作製が試みられている.CRISPR/Cas9などのゲノム編集技術やiPS細胞を用いた遺伝子改変免疫細胞を用いて,単純ながん抗原認識TCR/CAR遺伝子の導入だけでなく,多様な遺伝子操作による抗腫瘍T細胞の改良が進んでいる.
 これらの腫瘍免疫学の進歩は,臨床的には,治療効果予測や治療法選択のためのバイオマーカーの同定や複合がん免疫療法における治療標的の同定など,新しい個別化・複合がん免疫療法の開発につながる.また,免疫のネガティブフィードバック機構を解除する免疫チェックポイント阻害薬で起こる自己免疫性有害事象(immune related adverse effect:irAE)の機序解明は抗腫瘍免疫応答の機序解明よりは少し遅れているが,各臓器のirAEについて,細胞分子機構の解明も進んでいる.がんサブタイプやHLAタイプや腸内細菌叢の違いから明らかなように,遺伝的・環境的背景の違いを考えると,これらの研究を,産官学連携強化により,日本で進めることがたいへん重要であり,日本のがん免疫研究はこれからが正念場である.本特集では,それぞれの分野の第一線の研究者により,腫瘍免疫学の最新知見と今後の展望について議論していただいた.さらなる腫瘍免疫学とがん免疫療法の発展に向けて,読者の今後の活躍を期待している.
目 次
がん免疫応答の多角的・総合的評価──Immunogram解析と今後の展望……串原義啓・垣見和宏
遺伝子変異由来ネオアンチゲンを標的とした特異的免疫療法……紅露拓・笹田哲朗
免疫チェックポイント阻害薬の効果に影響を与えるゲノム異常……片岡圭亮
シングルセル解析による抗腫瘍免疫応答の解明……大多茂樹・河上裕
免疫代謝とがん免疫治療……波多江龍亮・茶本健司
腸内細菌叢とがん免疫応答……福岡聖大・西川博嘉 詳細
遺伝子改変T細胞を用いた養子免疫療法……後藤駿介・玉田耕治
TOPICS
【腎臓内科学】
KAT5を介したポドサイトDNA修復と慢性腎臓病(CKD)……林香 
【免疫学】
再生免疫療法の実用化に向けて――iPS細胞から抗がんキラーT細胞を産生する……南川淳隆・金子新 
【神経内科学】
特定の虫歯菌(Cnm陽性ミュータンス菌)を保有する人は脳出血リスクが上昇する……猪原匡史 
連載
【医学・医療におけるシミュレータの進歩と普及】
32.内視鏡手術シミュレータ……長尾吉泰・他 
【健康寿命延伸に寄与する体力医学】
20.身体活動促進のポピュレーション戦略――エビデンスとその実際……鎌田真光 
【地域医療の将来展望】
5.地域医療にかかわる医師育成──多様なニーズに対応できる柔軟な医師育成……松村正巳 
フォーラム
後期高齢者医療保険による保健事業に関する分析――S県後期高齢者医療広域連合の健康診査への取り組み……里村一成
【パリから見えるこの世界】
84.哲学者ミシェル・セール,あるいは「橋を架ける」ということ……矢倉英隆 
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