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肝細胞癌治療のパラダイムシフト−分子標的薬,免疫チェックポイント阻害薬の登場を受けて
273巻13号 2020年6月27日 p.1185-1187
AYUMI 肝細胞癌治療のパラダイムシフト――分子標的薬,免疫チェックポイント阻害薬の登場を受けて はじめに 工藤正俊
  日本の肝細胞癌治療成績は,国単位では世界で最も優れている.日本肝癌研究会第20回全国原発性肝癌追跡調査によれば,日本全国の約600施設において2002〜2009年に登録された65,711例の肝細胞癌患者〔2cm以下単発のvery early stage肝細胞癌から門脈浸潤や遠隔転移を伴う高度進行肝癌(advanced stage)やChild-Pugh C肝癌(terminal stage)に至るまでのすべての症例を含む〕の生存期間中央値は61カ月であり,5年生存率は50.4%,10年生存率は24%である.このように,日本はC型肝炎ウイルス(hepatitis C virus:HCV),B型肝炎ウイルス(hepatitis B virus:HBV)に伴う肝硬変からの肝癌ハイリスク患者を全国レベルで定期的にスクリーニングするシステムが確立しているため,60%以上の症例がいわゆるearly stage(3cm,3個以下,5cm以下単発病変)の状態で発見され,そのほとんどすべての症例が切除やラジオ波などの局所治療を受ける.また,30%程度の症例がintermediate stageでみつかり,肝動脈化学塞栓療法(transcatheter arterial chemoembolization:TACE)を受ける.残りの10%程度の症例が脈管浸潤や遠隔転移を伴う進行肝癌として発見される.この脈管浸潤を伴う進行肝癌に対しては,これまで日本においては肝動注化学療法が積極的に行われてきた.このように,日本におけるサーベイランスはほぼ完成形といってもよいくらいに整備されており,また切除,局所治療,TACEなどの治療成績向上への取り組みが積極的に行われてきた結果,その治療成績は行きつくとこまで行った感がある.
 一方,2009年にはじめて進行肝細胞癌に生存延長効果を示す分子標的薬ソラフェニブが日本で承認となった.世界的には,SHARP試験やAsia Pacific試験の結果を受けて日本よりも2年早く2007年にソラフェニブは承認された.それ以来,phase IIIの分子標的薬の臨床試験は多数行われてきた.しかし,2007〜2016年までの10年間はそのすべての臨床試験(一次治療薬8試験,二次治療薬8試験)がすべて失敗に終わり,肝細胞癌の新薬開発は暗黒の時代が続いた.しかし,2017年の二次治療薬のレゴラフェニブ,2018年の一次治療薬レンバチニブ,2019年のラムシルマブの臨床試験の成功の結果,これらが承認されるに至り,日本でも一次治療薬2剤,二次治療薬2剤の計4剤が使用できる状態となった.これらにより肝癌治療のパラダイムが大きく変わろうとしている.
 なかでも現在,最もパラダイムチェンジが起ころうとしているのは中等度進行肝細胞癌(intermediate stage肝癌)と進行肝細胞癌である.Intermediate stage肝癌は,基本的に4個以上の多発肝癌および5cm以上の大型肝癌と定義されるが,これに対する世界のガイドラインの標準治療はTACEのみであった.一方,2017年版の日本肝臓学会の肝癌診療ガイドラインでは,4個以上の多発肝癌や大型の肝細胞癌に対する推奨治療はTACEに加え,切除や肝動注化学療法,分子標的治療なども含まれている.とくに,2011年に世界に先がけて日本で“TACE不応の概念”が提唱されたことは画期的である.この後,またたく間にTACE不応の概念は世界に広がることとなり,台湾においては当初,進行肝細胞癌にしかソラフェニブの適応は認められていなかったが,日本の“コンセンサスに基づく肝癌診療ガイドライン”にTACE不応の概念が明記されたことにより,台湾の保険制度まで変えることになったことは画期的なことである.
 このTACE不応基準を用いることにより,“TACEが効かなくなった時点で速やかに分子標的薬に切り替えた患者群”が“効果がなくなったTACEを漫然と繰り返す患者群”よりも生存延長効果があることが2つのretrospectiveな臨床研究から明らかとなった.また,そのretrospectiveな臨床研究の結果を検証する目的で世界で行われた非介入前向き試験であるOPTIMIS試験においても,同様にTACE不応時点で分子標的薬に切り替えるほうが生存延長効果が得られることが明確に示されたため,この“TACE不応の概念とその時点での分子標的治療への早期移行”はほぼグローバルコンセンサスとなっている.
 一方で最近,“TACE不適の概念”というものも出現してきている.“TACE不適の概念”とは,@TACE不応になりやすい病態,ATACEにより肝予備能がChild-Pugh Bに移行しやすい病態,BTACEにもともと抵抗性の病態,の3つの病態を指す.TACE不応になりやすい病態,あるいはChild-Pugh Bに移行しやすい病態の典型例としてup-to-seven基準外の症例がある.このような症例に対してはレンバチニブを先行投与することにより,@腫瘍壊死を誘導し,ダウンステージングを達成,A先行投与によりTACEによるhypoxia誘導性VEGF(vascular endothelial growth factor)などの放出を抑え浸潤・転移を抑制する,B腫瘍血管を正常化させてTACEの効果をより高める,などの3つの効果が期待できる.実際LEN-TACE sequential治療はTACEに比べてもup-to-seven基準外の症例においてはTACE単独よりも予後延長効果があることが示され,次第に日本のなかではこのLEN-TACE sequential治療がTACE不適症例に対しては一般的なアプローチ方法となりつつある.
 さらに最近のもうひとつの大きな関心事は,免疫チェックポイント阻害薬の開発の動向であろう.残念ながら,一次治療薬としてのニボルマブ,二次治療薬としてのペムブロリズマブ単剤の臨床試験は失敗に終わった.しかし,PD-L1抗体であるアテゾリズマブおよびVEGF抗体であるベバシズマブのコンビネーションの臨床試験が成功し,2019年11月にESMO-Asiaで発表された.ベバシズマブはVEGFが誘導する免疫抑制的微小環境〔制御性T細胞(regulatory T cell:Treg),腫瘍関連マクロファージ(tumor-associated macrophages:TAM),骨髄由来免疫抑制細胞(myeloid derived suppressor cells:MDSC)などのupregulation〕を免疫応答性微小環境に変えることによりCD8陽性細胞を活性化させ,癌細胞を効率的に攻撃するという仮説のもとに行われた臨床試験であった.そして見事に理論通りにその仮説を証明し,この12年間一度もどの薬剤もソラフェニブに優越性を示すことができなかった生存延長効果をあっさりと第1回目の中間解析で証明した.おそらく,このアテゾリズマブ+ベバシズマブの併用療法が承認された場合には今後,進行肝癌治療の一次治療薬として確立されていくものと考えられる.まさに肝癌治療のパラダイムシフトが起ころうとしている.同時にこれまでの一次治療薬(ソラフェニブ,レンバチニブ)が二次治療薬に,これまでの二次治療薬(レゴラフェニブ,ラムシルマブ)が三次治療薬に順次治療ラインが繰り下がっていくものと思われる.
 さらには現在,early stageの肝癌を対象に切除,ラジオ波治療後のアジュバント試験が進行中であり,intermediate stageでもTACEと免疫チェックポイント阻害薬単剤やTACEと免疫チェックポイント阻害薬+VEGF抗体との併用の臨床試験が多数進行している.もちろん進行肝癌においても免疫チェックポイント阻害薬単剤や免疫チェックポイント阻害薬同士(PD-1,PD-L1抗体とCTLA-4抗体)との併用試験およびPD-1抗体とTKIとの併用試験がphase IIIとして進行中である.すなわち肝細胞癌のすべてのステージで免疫チェックポイント阻害薬の臨床試験が進行中である.これらがもし成功すると本当の意味でのパラダイムチェンジが起こり,日本の肝癌治療の成績はさらに向上するであろう.
 最後にもう一度,強調しておきたい点はこのような有効な薬剤が次々と生まれてくるとこれまでintermediate stage肝癌に対しての唯一無二の治療法であったTACEによって“いたずらに肝予備能を落とさない”ようにすることが今後さらに求められてくるであろう.Intermediate stage肝癌に対する治療の重要なポイントは肝予備能を温存し,奏効を得ることにつきる.その意味でTACE不適と判断される病態に対してはTACEに固執せずに奏効のよい薬剤を使って病勢制御あるいはダウンステージ後に後から“肝予備能を落とさない”選択的TACEを追加で行い根治をめざすことは重要な点である.進行癌についても肝予備能の温存は重要であり,intermediate stageで“TACEをやりすぎない”ことが肝要である.いずれにしてもこれからの肝細胞癌治療の最も重要なキーワードは“肝予備能の温存”である.“肝機能を温存”しながらいかに“ベストなタイミングでベストな対象患者にベストな治療法を選択していくのか”ということがこれからの肝癌診療の大きなポイントである.
 本特集では,この分野のエキスパートの先生方にこのあたりの点について詳細に解説いただいている.本特集が多くの読者の今後の診療の一助となれば幸いである.
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肝細胞癌治療のパラダイムシフト
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