
古くから,がんはその原発部位により転移しやすい臓器が異なることが知られていたが,がん転移の臓器特異性を決定する因子やそのメカニズムは不明であった.近年,がんの転移と再発には,がん細胞と宿主由来細胞との細胞間相互作用とそれによって形成されるがん転移微小環境(転移ニッチ)の重要性が明らかになってきた.本稿ではがんの肺と骨における転移ニッチに焦点を絞り,臓器特異性を決定する転移ニッチ調節因子について紹介する.がん細胞が転移するのに先立って,原発巣の腫瘍から転移前ニッチ調節因子(S100A8,SAA3,CCL2,LOXなど)が産生され,これら因子によりあらかじめ転移予定先の肺などにCD11b
+骨髄由来細胞が動員され,がん細胞の転移と増殖を支持する転移前ニッチが形成される.一方,少数のがん幹細胞が肺や骨などの標的臓器に到達後,転移後ニッチ調節因子(VCAM-1,TGF-β,PGE
2,ペリオスチンなど)が産生され,がん細胞の休眠状態での生存や再発ならびに骨においては骨病変形成に適した転移後ニッチが形成される.がんの転移の臓器特異性はこれら転移ニッチ調節因子によって決定されることが解明されつつある.今後はこれら転移ニッチ調節因子を標的とする分子標的薬の開発を行い,転移ニッチを阻害してがんの転移と再発を防ぐ治療薬の臨床応用が望まれる.

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