
アルコールの健康への害は洋の東西を問わず昔から知られているが,医学・医療面からの研究や対策の開始は,1900年代半ば以降のことである.世界大戦後の社会的安定と経済復興期の1960年代から世界的に飲酒人口が増加した.さらにアメリカでは,1970〜1980年代の世界情勢に関連し社会問題が複雑化したことで,アルコールと薬物依存が急増し,健康および社会的に重大な問題となった.そのためNIHの一部門としてアルコールおよび依存性薬物の研究部門(NIAAA)が急いで新設され,研究が急速に展開した.NIAAAでは,本問題の解決には“科学的研究の推進が最重要”という理念が掲げられ,その資金支援により世界中で激しい研究競争が展開された.その成果が医学・医療,社会や行政による対策の確立につながった.日本ではアメリカの強い影響により,70年代後期より研究と医療対策が新展開し,厚生省(当時)によるアル中問題への行政対策がはじまり,小規模ながら日本のNIAAAをめざし国立久里浜アルコール症センターが設立された.アルコール問題は政治や経済的社会情勢もかかわる複雑系であり,対策と解決には広い領域の学術的連携協力がきわめて重要であることを日本の近年の歴史は語っている.

アルコール研究,アルコール・アセトアルデヒド代謝,毒性