
個体発生過程において,組織は時空間的に制御された変形を繰り返すことで最終的な形態を獲得する.この組織形態形成を理解するためには,力を出す主体としての細胞の挙動を観察し,細胞内の分子の働きを組織全体の形状変化を促進する機械的な力に結びつける必要がある.しかし,現状では生体組織における力の測定手法は確立されていない.そこで著者らは,細胞に作用する力の釣り合い方程式を考慮し,ベイズ統計学の枠組みを適用することで,細胞の画像データから目にみえない“力”を推定する手法を開発した.この力推定法は組織全体にわたって単一細胞スケールの解像度で力を定量できるので,化学情報(分子の活性や細胞内局在)と物理情報(力,応力)を直接比較することを可能にする.本稿では,力推定法の“データに潜む重要情報を引き出す技術”というデータ科学的な側面に重きをおいて,その原理と妥当性の検証について説明する.

ベイズ推定,tissue mechanics,形態形成