
バゾプレシン分泌過剰症(SIADH)はバゾプレシン(AVP)の過剰分泌から体液貯留を生じ,希釈性の低Na血症をきたす症候群である.急性では脳浮腫による意識障害を呈するが,慢性では無症状のことも多い.原因として頭蓋内疾患,肺炎,異所性AVP産生腫瘍,薬剤などがある.検査所見としては,低Na血症,尿中Na排泄亢進,尿浸透圧>血漿浸透圧,血清尿酸低値などを認める.低浸透圧血症にもかかわらず,血漿AVPは抑制されていない.中枢性塩類喪失症候群との鑑別が重要であるが,臨床の場での体液量の正確な評価は難しく,実際には鑑別困難な場合が多い.治療は急性で意識障害を呈する場合は高張食塩水を投与して速やかに血清Naを上昇させる.ただし,浸透圧性脱髄症候群の発症を避けるため,24時間の血清Naの上昇は10mEq/L以内に抑える.慢性低Na血症の場合は水分制限とNa補給が基本となる.異所性AVP産生腫瘍ではV2受容体拮抗薬であるモザバプタンが保険適用となっている.