
抗うつ薬は精神科臨床に欠かせない治療薬であることには疑いがないが,最近になって抗うつ薬によって自殺関連事象や攻撃性が増強する可能性が指摘され,とくに若年者にあってはその危険性が高いと国内外の行政当局より注意が喚起されている.抗うつ薬は本来,気分をもち上げ,意欲を増す作用をもつので,それが中途半端に作用すれば,焦燥,攻撃性,衝動性などが増強しかねないことは古くから指摘されてきた.とくに鎮静作用を有しない SSRI,SNRI などの新規抗うつ薬はそのような可能性が高いのかもしれない.一方で,それらの作用は総体としては比較的まれな副作用であり,過剰にこれを問題視すれば,抗うつ薬の有効性が証明されている疾患の治療可能性を減じることになり,逆に自殺リスクを高める可能性にも留意すべきである.もっとも大切なのは薬物適応を可能なかぎり厳密なものとすること,抗うつ薬の効果と限界を考慮し,精神療法にも配慮した臨床姿勢であろう.

抗うつ薬,副作用,自殺,攻撃性,activation syndrome