
匂いの知覚は,空気中の匂い分子が鼻腔の嗅上皮にある嗅覚受容体(OR)に結合することによりはじまる.ヒトゲノム中にはOR機能遺伝子が約400個もあり,活性化されたORの組合せが複雑な匂いの知覚を生み出す.特定の匂いを感知できない嗅盲の存在は,OR遺伝子の多型によってある程度説明できる.ORは嗅上皮以外のさまざまな組織でも発現しており,精子の化学走性などの機能に関与している.OR遺伝子数は生物種間で大きく異なり,その数はマウスで約1,100個,ゾウでは約2,000個にも及ぶ.また,OR遺伝子ファミリーの特徴として,進化の過程における遺伝子の重複・欠失が頻繁に起こっていることがあげられる.その進化的な“個性”を調べることによって,ORの多様な機能に対する示唆を与えることができるかもしれない.