
はじめに発達障害の概念・定義の変遷について概説した.わが国では従来,発達障害の中心的な病態は精神遅滞(知的障害)であり,さらに脳性麻痺など発達期の中枢神経系に生じるさまざまな病態を幅広く含んだ概念であった.2005 年の発達障害者支援法の施行後は,自閉症を代表とする広汎性発達障害,学習障害,注意欠如/多動性障害(attention deficit hyperactivity disorder:AD/HD)が中心となり,法律上の定義が医学の定義をしのぐ状態になっている.各発達障害では認知機能の特性について理解し,対応することが診断治療上重要であるため,本稿では精神遅滞,自閉症,AD/HD,学習障害において注目すべき認知機能のうち,知能,注意,視覚認知,聴覚認知とその生理学的基礎について記載した.自閉症でとくに重要なコミュニケーションにかかわる認知機能のうち,顔認知や音声認知にかかわる脳機能についても,これまでの生理学研究の成果と話題について述べた.

発達障害,認知機能,神経生理学,精神遅滞,自閉性障害,AD/HD