はじめに
五十嵐 隆
国立成育医療研究センター総長・理事長
わが国では,国際的に使用されているワクチンが使用できなかったり,定期接種になっていないために接種率が低いなどの問題があった(ワクチンギャップ).このワクチンギャップを改善すべく最近になって国も学会も努力した結果,一部ではあるが成果がみられている.実際に,子どもの細菌性髄膜炎の原因として重要なインフルエンザ菌b,肺炎球菌に対するワクチン,子宮頸癌などの原因となるヒトパピローマウイルスに対するワクチンが実質的に定期接種並みになった.また,より安全性の高いワクチンとして導入が望まれていた不活化ポリオワクチンも2012年秋に導入された.さらに,水痘ワクチンが2014年10月に定期接種化された.
現在,保育園に入所している子どもは平均で11時間も保育園ですごしており,その数は217万人に増加している.さらに,0歳児の入所者数も10万人を超えている.集団生活をする子どもにとってインフルエンザ菌bと肺炎球菌に対するワクチン接種は,重篤な後遺症リスクの高い細菌性髄膜炎の予防となるだけでなく,難治性中耳炎のリスクをも減らす効果が期待される.
しかし,おたふくかぜ(ムンプス),B型肝炎ウイルスに対するワクチンは現在も任意接種のため,ムンプスワクチンの接種率は3割程度で,B型肝炎ウイルスワクチンの接種率は1%程度でしかない.2012年3月に実施された日本医師会,日本小児科学会,日本小児科医会による合同調査で,ムンプスによる脳炎・脳症が少なくないこと,さらにムンプスによる難聴は小児だけでなく成人にも生じることが明らかとなった.また,世界的にもB型肝炎は現在,性感染症と理解され,すべての子どもが予防接種の対象になっている.
さらにわが国では,ワクチンの混合製剤が欧米のように整備されていないため,接種回数が多くなり,子どもへの負担が大きい.また,ワクチンの接種間隔についての現行ルールはその根拠が不明確で,今後適切な対応が必要である.
本特集ではわが国の予防接種についての最新の状況を専門家にわかりやすく解説していただいた.今後,わが国の予防接種体制が国際標準をクリアしたものになることと,頻度の高い感染症と予防接種に関する正しい知識をすべての国民がもつことのできる教育を期待する.