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医学のあゆみ
296巻9号
社会的ストレスに関わる神経系の制御

定価 1,705円 (本体 1,550円+税10%)
  • 総頁数:70頁
  • 判型:B5判
  • 発行年月:2026年2月
  • 注文コード:929609
  • 雑誌コード:20474-2/28

内容紹介

・ヒトは社会的な動物である.社会的ストレスで感じる負の感情は短期的には社会を構成させる行動を促すこともあり,長期的には身体的負荷の結果,死亡率が上がるが,生物学的機構の詳細は不明である.
・一方で,近年,遺伝子工学的ツールを用いたニューロン活動の計測と操作法,および機械学習を用いた行動の定量化とを組み合わせた神経機構の探索が進んでいる.
・本特集では,独自の動物実験系を組み立てるなど最前線で研究を行うエキスパートたちが,社会的ストレスの神経機構の現状を紹介する.

序文

はじめに
 尾仲達史
 自治医科大学医学部生理学講座神経脳生理学部門
 人は社会的な動物である.それは集団でいることが進化の過程で生存に有利であったからである.困っている人がいれば相手の気持ちを理解し,何とか力になりたいと思う.さらに,相手の感情と意図を理解して協力する.集団でいることで互いに足りないところを補い合い,1人ではできなかったことが達成できる.また,怖がっている個体がいると自身も不安になる(情動伝染).これにより実際に身に危険が降りかかる前にあらかじめ危険に備えることができる.これと協力は,自身が属する集団の縄張りの防御に役立ち,さらに拡大という点でも有利となる.また,手のかかる子育てにおいても協力する(共同保育)ことは次世代の育成に役立つ.集団でいることで高揚したり,心が折れかかったりしたときに仲間がいることで慰められ,落ち着く(社会的緩衝)こともあろう.幼若期に優しく撫でられたり抱擁されたりするといった接触体験は,愛着を増強し絆形成を促す.
 感情のうえでも生物学的にも社会を構成する動物にとって,社会から離れて1人で生きていくことは至難である.社会を構成する動物は社会的孤独の状況で負の感情を体験し,その状況を避ける行動をとる.一方,社会を維持するのはそう簡単なことではない.食べ物,住居,生殖活動といった資源をめぐるライバルが近くにいると争いが生じる.さらに資源享受の優先順位に直結する社会的な階級をめぐる競争も生じよう.自分のものと信じているものが侵される危険も増える.そういう事態になれば,怒りを感じ攻撃的になる.すなわち,社会的動物は集団から離れても集団のなかにいても負の感情を感じうる.これにより結果的に社会を構成する方向の行動を促しうる.
 本特集では,特に社会的ストレスに焦点を当てている.社会的ストレスで感じる負の感情は,短期的には社会を構成させる行動を促すこともあるが,これが長期となると身体的負荷の結果,死亡率を上げる.しかし,その生物学的機構の詳細は不明である.近年,遺伝子工学的ツールを用いたニューロン活動の計測と操作法,および機械学習を用いた行動の定量化とを組み合わせた神経機構の探索が進んだ.本特集ではそれぞれ独自の動物実験系を組み立て,最前線を開拓している研究者に,社会的ストレスの神経機構の現状を紹介していただいている.

目次

特集 社会的ストレスに関わる神経系の制御
 はじめに(尾仲達史)
 社会的ストレスに対する自律生理反応と行動反応の神経基盤(片岡直也・中村和弘)
 ストレスレジリエンスの脳内メカニズム(内田周作)
 社会的ストレス下における攻撃行動の生物学的基盤(高橋阿貴)
 恐怖反応を緩和する安寧フェロモン(清川泰志)
 社会的孤独の惹起と社会的孤独が心血管疾患を惹起するメカニズム─オキシトシン神経系の変容(吉田匡秀)
 慢性ストレスによる血球動態の変化と疾患増悪機構(北岡志保)
 社会的ストレスによる依存性薬物に対する欲求増強の神経機構(金田勝幸)

TOPICS
 細胞生物学 ミトコンドリアにおけるタンパク質合成異常による貧血発症のメカニズム(森嶋達也・滝澤 仁)
 その他 医療現場でのカスタマーハラスメント対応:厚生労働省告示および改正労働施策総合推進法(石川英里・前田正一)

連載
医師の働き方改革─取り組みの現状と課題(17)
 地域医療構想と医師の働き方改革:2040年に向けて(冨田善彦)

医療における生成AIとDX(9)
 生成AIを活用した医療現場の文書作成業務効率化:実証事例に基づく働き方改革への貢献と今後の展望(折茂圭介)

医療にいかす行動経済学(6)
 行動経済学が拓く実装科学の新展開─エビデンスを現場に根づかせるために(島津太一)

FORUM
 人間社会の未来─専門家が予見する人類の行方(13) 健康的な食・栄養とは:現状と展望(津金昌一郎)

 次号の特集予告