過去数十年にわたって歯科の専門家が直面してきた大きな問題は,う蝕の病因とその予防であった.工業化された国々のほとんどにおいて,以前はう蝕の罹患率は非常に高く,事実上すべての人が少なくともある程度はう蝕に罹患していた.しかしながら,破壊された歯質を充填材で置き換えただけでは,新しいう蝕が生じるリスクが高いため,真の改善は決して得られるものではないということが,はっきりしてきた.そして,徐々にプラーク,フッ化物,砂糖の役割,唾液など,予防に関する知見が得られるようになり,多くの国々で,総合的な予防プログラムや口腔健康の教育プログラムが実施され,口腔の健康が改善された.しかしながら,それでもある人々は高いう蝕活動性を示した.そこで個人のう蝕のリスクを予測するためのさらに高度なプログラムの必要性が認識されるようになった.このような研究が強化され,個人のリスクファクターを分析するいくつかの方法が開発され,専門家が利用できるようになった.これが先進諸国におけ骰。日の状況である.すなわち,いくつかの臨床的な闥iや方法が利用可能である,しかし「最も有効にこれらを使用する方法は?」「データの評価の仕方は?」「どのような予防的行動をとるべきか?」などの重要な疑問が残されている.しかし歯科疾患の多因子性のために,これらの疑問に,いつもはっきりと答えることは必ずしも容易ではない. このような背景を考えたとき,此度熊谷崇先生が著した“C1inicalCariology'’は素晴らしい業績である.この本は日本や他の多くの国々にとってまさにふさわしい時期に出版されると言える.私は熊谷崇先生と数年前に初めてお会いする機会があり,熊谷先生のう蝕疾患の病因に対する理解や解釈の仕方,そしてそのような情報をはっきりとしたメッセージや行動プログラムに変える行動力に深く感銘を受けた.熊谷崇先生の診療室を訪れる機会を得たとき,患者のための医療に対する先生のアプローチが国際的に模範となるべき質の高いものであるということを確信した.そのため,現在熊谷崇先生が彼の仲間と共有している知識を私たちすべてに与え彼の経験から学ぶ機会を提供して下さることは非常に意義深いことだと考える.膨大な臨床データを築き上げ,この重要な本を完成させた時間とその努力に対して,私は熊谷崇先生に心から感謝を申し上げるとともに,この時期にこのような本を出版する出版社の賢明さに敬意を表する.本書が成功を収め,現在および将来の患者が,今日提供できる最も優れた歯科医療を受ける機会を得ることになることを望んでいる. Douglas Bratthall