やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 吉田 博
 東京慈恵会医科大学附属柏病院病院長
 冠動脈疾患をはじめとした動脈硬化性心血管疾患(atherosclerotic cardiovascular disease:ASCVD)は,いまだにわが国も含め先進諸国の死因として高い割合になっているとともに,ASCVD発症後のリハビリテーションや再発予防などもあって,本来のQOL(生活の質)を取り戻すことは容易なことでない.これまでにASCVDのリスク要因に関する調査・研究の成果は数多く集積され,なかでもLDL-C(low-density lipoprotein cholesterol;低比重リポタンパクコレステロール)高値は重要な治療標的として位置づけられている.
 そうしたなか,高LDL-C血症に対するLDL低下薬の発展により,ASCVDの初発予防および再発予防がさらに進歩したが,それでも残余リスクの課題はいまだ十分に解決できていない.現在,スタチン,エゼチミブ,フィブラート系薬や選択的PPARαモジュレーターに加えて,PCSK9(proprotein convertase subtilisin/kexin type 9)の発見とそれをターゲットとした抗体薬や各種核酸医薬の開発などが進み,2025年にはわが国においてもベムペド酸が上市されたが,今後も残余リスクへの対応はASCVD予防に重要である.
 「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版」では,「動脈硬化性疾患予防のための包括的リスク評価」内にある「ASCVDの高リスク病態」あるいは「その他の考慮すべき危険因子・マーカー」の項で,残余リスクに関連する項目が言及されている.
 本特集ではLDL以外の血清脂質に関連した因子として,画期的な低下薬の開発が進行中であるリポタンパク(a)〔Lp(a)〕,トリグリセライドとその関連因子やsmall-dense LDLにフォーカスするほか,脂質以外では炎症やmiRNA(microRNA)とASCVDとの関係,また最近,ASCVDとの関連性が注目されている脂肪性肝疾患(MASLDなど)の最新情報などを紹介する.さらに,環境要因のなかにASCVDリスクへの影響が懸念される事態も注目されていることから,環境問題のなかでマイクロ・ナノプラスチックとPFAS(ペルフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物)について,トピックスとして新しいASCVDリスク要因の話題が提供されている.
 本特集では,ASCVDの解決すべき残余リスクとさらなる新しいリスク要因に関するナレッジの共有を目的とする.本誌を多くの方々にご活用していただき,教育,研究や診療の一助となれば,編者にとってこの上ない喜びである.
特集 動脈硬化性疾患のリスク 解決すべき残余リスクとさらなる新しいリスク要因
 はじめに(吉田 博)
 Lp(a)と動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)リスクの概要(吉田 博)
 Lp(a)国際標準化の重要性とメリット(三井田 孝)
 HDL機能の将来展望(遠藤康弘・小倉正恒)
 Small dense LDLコレステロールと動脈硬化性心血管疾患リスク(木庭新治)
 食後高脂血症,レムナントリポタンパク,アポB-48とASCVDリスク(増田大作)
 脂肪性肝疾患とASCVDリスク(小関正博)
 動脈硬化性疾患における炎症と遺伝的背景─残余リスクの理解と新規治療戦略(小室一成)
 microRNA-33は動脈硬化性疾患の予防・治療標的となりうる(尾野 亘)
 マイクロ・ナノプラスチックとASCVD─新たな環境リスク因子(曾和裕之)
 新たな環境汚染物質PFAS曝露と動脈硬化性疾患リスクとの関連─これまでの知見(原田浩二・原田真理子)

TOPICS
 糖尿病・内分泌代謝学 ウォルフラム症候群における糖尿病の発症機構─膵β細胞の可塑性と脱分化(田部勝也・西村 渉)
 救急・集中治療医学 敗血症のバイオマーカー(志馬伸朗)

連載
医療にいかす行動経済学(18)
 アレルギー性疾患の治療における行動経済学的課題─ステロイド忌避へのナッジ戦略(大塚篤司)
 知っておくと役に立つ!臨床医のための臨床検査医学講座(6) 呼吸機能検査(東條尚子)

FORUM
 分子生物学の臨床応用 “分子“から“疾患・患者”へ(5) 新たなてんかん治療標的分子Synaptic vesicle glycoprotein 2Aの機能解析(徳留健太郎・他)

 次号の特集予告