やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 大塚篤司
 近畿大学医学部皮膚科学教室
 アトピー性皮膚炎(atopic dermatitis:AD)は,皮膚バリア機能の異常,免疫応答の破綻,そして痒みという3つの要素が複雑に絡み合い発症・増悪する慢性炎症性皮膚疾患である.本特集ではAD治療の多岐にわたる側面を網羅し,最新知見に基づく治療戦略を提示する.
 長年,AD治療の中心はステロイド外用剤であった.しかし,長期使用による皮膚萎縮などの副作用が懸念され,適切な使用法(finger tip unit,プロアクティブ療法)の習得と,副作用への丁寧な対応が必要とされる.近年,非ステロイド系外用剤の開発が進み,タクロリムス軟膏やデルゴシチニブ軟膏が登場した.これらの薬剤はステロイド外用剤とは異なる作用機序を有し,長期使用が可能である点が大きなメリットである.さらに,新たな作用機序を持つホスホジエステラーゼ4(phosphodiesterase 4:PDE4)阻害薬であるジファミラスト軟膏も登場し,治療の選択肢は広がりつつある.
 既存治療で効果不十分な中等症以上のADに対しては,全身療法が選択肢となる.シクロスポリンは強力な免疫抑制剤であるが,長期使用に伴う副作用に注意が必要である.近年,生物学的製剤であるデュピルマブ,トラロキヌマブ,レブリキズマブ,そしてネモリズマブが開発された.これらの薬剤は特定のサイトカインを標的とすることで,ADの病態に直接作用し,高い効果を発揮する.また,経口JAK(Janus kinase;ヤヌスキナーゼ)阻害薬であるバリシチニブ,ウパダシチニブ,アブロシチニブも登場し,治療の選択肢はさらに広がっている.
 外用療法や全身療法に加えて,光線療法もAD治療において重要な役割を果たす.ナローバンドUVB(ultraviolet B)療法は有効性が高く,副作用が比較的少ない治療法である.
 漢方薬も有用な選択肢となりうる.消風散や補中益気湯など,ADの症状や体質に合わせて適切な漢方薬を選択することで,西洋医学的治療の効果を高めることができる.
 AD患者は皮疹色素沈着,脱毛などの見た目で悩むことが多く,QOLが低下する.美容医療はこれらの問題点に対して,レーザー治療やケミカルピーリング,薬剤導入など,さまざまな治療法を提供することで,患者のQOL向上に貢献できる.ただし,ADの病態を悪化させないよう,慎重な治療計画と丁寧な施術が必要となる.
 以上,各章をエキスパートの先生におまとめいただいた.本特集が明日からの診療に役立てば幸いである.
 はじめに(大塚篤司)
ステロイド外用剤
 (大塚篤司)
意外と知らない“保湿“,基本の“キ”
 (佐治なぎさ)
アトピー性皮膚炎に対する漢方治療
 (栁原茂人)
抗ヒスタミン薬
 (千貫祐子)
タクロリムス軟膏
 (内田修輔)
デルゴシチニブ軟膏
 (中嶋千紗)
ジファミラスト軟膏
 (本田哲也)
アトピー性皮膚炎に対する光線療法
 (加藤麻衣子)
分子標的薬時代のアトピー性皮膚炎治療におけるシクロスポリンのポジショニング
 (花房崇明)
デュピルマブ
 (益田浩司)
トラロキヌマブの有用性
 (小寺雅也)
レブリキズマブ
 (乃村俊史)
ネモリズマブ
 (今井聡子・石氏陽三)
中等症~重症アトピー性皮膚炎に対するウパダシチニブ治療のresponderを予測する
 (萩野哲平・神田奈緒子)
アブロシチニブ
 (川上民裕)
バリシチニブによるアトピー性皮膚炎治療
 (茂木精一郎)
アトピー性皮膚炎の美容問題
 (日野亮介)

 次号の特集予告

 サイドメモ
  アドヒアランス重視
  漢方薬の副作用
  IGAスコア
  EASI
  薬物血中濃度モニタリング(TDM)とは
  IL-31
  ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬