Adventures─さあ,咬合を紐解く冒険に繰り出そう─
髙井基普
本書籍は,2016年から2021年までの間に企画された歯界展望座談会シリーズ,「補綴と矯正の境界線」「補綴と矯正の融合」「補綴と矯正の転遷」「補綴と矯正の趨勢」の4編を再編したものになります.もともと本シリーズは,『歯の位置と形態の重要性を再考する』というテーマですが,より臨床的にイメージしやすくするために,あえて『補綴と矯正』という言葉を用いました.
一方で,本シリーズが歯界展望に掲載されていくなかで,なぜ『補綴と矯正』をテーマにしたのかという質問を受けることもありました.その問い掛けに対する答えは以下のようになります.
<理由1>
歯科臨床家として40歳を過ぎたあたりから,矯正に興味をもつ機会が増えると言われています.その理由の一つに,その年齢あたりから「自分の家族や友達に矯正治療が必要なケースが増えてくること」があります.そしてもう一つは,「修復・補綴のみでは奏功しない,術後が不安定な難症例と向き合わなくてはならない機会が増えてくること」だと思います.したがって,環境として40歳を過ぎたあたりから矯正に興味をもつ一般開業医が増えてくるのではないでしょうか.
<理由2>
私は若い頃から『咬合学』に大変興味がありました.そして,咬合・補綴の恩師である本多正明先生にこのような言葉をいただいたことがあります.
「歯科領域で咬合治療ができる分野は,『補綴』と『矯正』である」
20歳代後半にこの言葉を聴き,おぼろげに『補綴』と『矯正』には他分野にはない深い関係性があるのだろうと感じていました.
<理由3>
一般臨床歯科医(GP)が矯正専門医と話をする際,同じ歯学でありながら目に見えない壁が存在しているように感じていました.それが専門用語なのか,セファロ分析や顎運動解析なのか,この『補綴と矯正』という領域に入る場合,それなりの知識と経験と覚悟がいるように感じていたのです.「包括歯科 最後の砦」といったイメージです.そして,一般開業医に「矯正に対するアレルギーのようなものがある」といった声があまりにも多いことも現実のようです.
この「包括歯科 最後の砦」である『補綴と矯正』は,日常臨床で積極的に推進していくものではないようにも思います.むしろ避けることができれば避けて通りたい… しかし,多様性のある病態を示す患者の,生涯にわたる歯科との向き合い方のなかで,『補綴と矯正』が必要になってしまうことが,ある一定数存在してくるのも確かです.
たとえば,
<昔矯正していたが,経過が不安定で後戻りも観られる患者に,修復・補綴が多数必要となってきた場合>
<もともと修復・補綴が多く施されている患者に,審美的理由からいわゆる成人矯正が始まる場合>
<歯の欠損を放置したことによる病的歯牙移動をきたしている複雑な症例>
など,これらには『補綴』と『矯正』の知識と技術を総動員することが,自ずと求められてきます.
実際,臨床家として経験を積み,その傾向が見えてくるなかで,もがき苦しむ仲間や後輩から相談されることが顕著に増え始めていました.その流れから,筆者は自分のなかでも曖昧であった『矯正』に向き合うという冒険(ADVENTURE)に繰り出すことにしました.
本連載は,筆者の考える『補綴と矯正』のキー・パーソンに順を追って対談をさせていただく形になっています.実は,この連載のシリーズ化は,最初から計画されていたものではありませんでした.第1弾「補綴と矯正の境界線」だけで終わる企画でした.ところが,座談会の校正が進んでいくなかで新たな視点や課題のようなものを見出し,それぞれのキー・パーソンの話を聴かねば本質は解決できないとわかり,追加して企画され続けて4回シリーズに至ったのです.
今回の座談会は,どれも決して治療プロトコールなどが系統立って説明された教科書的な内容にはなっていません.しかし,対談のなかには多くのエッセンスが散りばめられています.そして,私自身もこのADVENTUREを通して『補綴・矯正』への造詣が深まっていった気がします.何度も繰り返し読むなかで,ご登壇いただいた先生方の言葉に共感し,その重みや深みに幾度となく感動できています.ご登壇いただいている先生方の姿を見ていただきながら,言葉にできない不思議な世界観に浸り読み進んでいただけると嬉しく思います.
なお,矯正専門医であり,筆者とインターディシプリナリーアプローチを実践していただいている任 剛一先生をファシリテーターとしてすべての会にお招きしています.2011年から多くの症例をともに携わっていただくなかで,任先生の知識と技術は自分の臨床を安定的で豊かでものにすることができたと痛感しています.本シリーズにおいても,大変重要な役割を担っていただけております.この場を借りて,感謝をお伝えさせていただきます.
では,順を追って4回の座談会,ADVENTUREに繰り出すように読み進めていくことにしましょう.
歯科医学における補綴歯科と矯正歯科を,本書籍では『補綴』と『矯正』として進めさせていただきます.
髙井基普
本書籍は,2016年から2021年までの間に企画された歯界展望座談会シリーズ,「補綴と矯正の境界線」「補綴と矯正の融合」「補綴と矯正の転遷」「補綴と矯正の趨勢」の4編を再編したものになります.もともと本シリーズは,『歯の位置と形態の重要性を再考する』というテーマですが,より臨床的にイメージしやすくするために,あえて『補綴と矯正』という言葉を用いました.
一方で,本シリーズが歯界展望に掲載されていくなかで,なぜ『補綴と矯正』をテーマにしたのかという質問を受けることもありました.その問い掛けに対する答えは以下のようになります.
<理由1>
歯科臨床家として40歳を過ぎたあたりから,矯正に興味をもつ機会が増えると言われています.その理由の一つに,その年齢あたりから「自分の家族や友達に矯正治療が必要なケースが増えてくること」があります.そしてもう一つは,「修復・補綴のみでは奏功しない,術後が不安定な難症例と向き合わなくてはならない機会が増えてくること」だと思います.したがって,環境として40歳を過ぎたあたりから矯正に興味をもつ一般開業医が増えてくるのではないでしょうか.
<理由2>
私は若い頃から『咬合学』に大変興味がありました.そして,咬合・補綴の恩師である本多正明先生にこのような言葉をいただいたことがあります.
「歯科領域で咬合治療ができる分野は,『補綴』と『矯正』である」
20歳代後半にこの言葉を聴き,おぼろげに『補綴』と『矯正』には他分野にはない深い関係性があるのだろうと感じていました.
<理由3>
一般臨床歯科医(GP)が矯正専門医と話をする際,同じ歯学でありながら目に見えない壁が存在しているように感じていました.それが専門用語なのか,セファロ分析や顎運動解析なのか,この『補綴と矯正』という領域に入る場合,それなりの知識と経験と覚悟がいるように感じていたのです.「包括歯科 最後の砦」といったイメージです.そして,一般開業医に「矯正に対するアレルギーのようなものがある」といった声があまりにも多いことも現実のようです.
この「包括歯科 最後の砦」である『補綴と矯正』は,日常臨床で積極的に推進していくものではないようにも思います.むしろ避けることができれば避けて通りたい… しかし,多様性のある病態を示す患者の,生涯にわたる歯科との向き合い方のなかで,『補綴と矯正』が必要になってしまうことが,ある一定数存在してくるのも確かです.
たとえば,
<昔矯正していたが,経過が不安定で後戻りも観られる患者に,修復・補綴が多数必要となってきた場合>
<もともと修復・補綴が多く施されている患者に,審美的理由からいわゆる成人矯正が始まる場合>
<歯の欠損を放置したことによる病的歯牙移動をきたしている複雑な症例>
など,これらには『補綴』と『矯正』の知識と技術を総動員することが,自ずと求められてきます.
実際,臨床家として経験を積み,その傾向が見えてくるなかで,もがき苦しむ仲間や後輩から相談されることが顕著に増え始めていました.その流れから,筆者は自分のなかでも曖昧であった『矯正』に向き合うという冒険(ADVENTURE)に繰り出すことにしました.
本連載は,筆者の考える『補綴と矯正』のキー・パーソンに順を追って対談をさせていただく形になっています.実は,この連載のシリーズ化は,最初から計画されていたものではありませんでした.第1弾「補綴と矯正の境界線」だけで終わる企画でした.ところが,座談会の校正が進んでいくなかで新たな視点や課題のようなものを見出し,それぞれのキー・パーソンの話を聴かねば本質は解決できないとわかり,追加して企画され続けて4回シリーズに至ったのです.
今回の座談会は,どれも決して治療プロトコールなどが系統立って説明された教科書的な内容にはなっていません.しかし,対談のなかには多くのエッセンスが散りばめられています.そして,私自身もこのADVENTUREを通して『補綴・矯正』への造詣が深まっていった気がします.何度も繰り返し読むなかで,ご登壇いただいた先生方の言葉に共感し,その重みや深みに幾度となく感動できています.ご登壇いただいている先生方の姿を見ていただきながら,言葉にできない不思議な世界観に浸り読み進んでいただけると嬉しく思います.
なお,矯正専門医であり,筆者とインターディシプリナリーアプローチを実践していただいている任 剛一先生をファシリテーターとしてすべての会にお招きしています.2011年から多くの症例をともに携わっていただくなかで,任先生の知識と技術は自分の臨床を安定的で豊かでものにすることができたと痛感しています.本シリーズにおいても,大変重要な役割を担っていただけております.この場を借りて,感謝をお伝えさせていただきます.
では,順を追って4回の座談会,ADVENTUREに繰り出すように読み進めていくことにしましょう.
歯科医学における補綴歯科と矯正歯科を,本書籍では『補綴』と『矯正』として進めさせていただきます.
Introduction
(本多正明,米澤大地,髙井基普)
Chapter 1 補綴と矯正の境界線
(米澤大地.大森有樹,任 剛一,髙井基普)
(コラム:長尾龍典,田中一茂)
Chapter 2 補綴と矯正の融合
(西井 康,村松裕之,野寺義典,任 剛一,髙井基普)
Chapter 3 補綴と矯正の転遷
(本多正明,古賀正忠,任 剛一,髙井基普)
Chapter 4 補綴と矯正の趨勢
(西井 康,須田直人,山口徹太郎,任 剛一,髙井基普)
(本多正明,米澤大地,髙井基普)
Chapter 1 補綴と矯正の境界線
(米澤大地.大森有樹,任 剛一,髙井基普)
(コラム:長尾龍典,田中一茂)
Chapter 2 補綴と矯正の融合
(西井 康,村松裕之,野寺義典,任 剛一,髙井基普)
Chapter 3 補綴と矯正の転遷
(本多正明,古賀正忠,任 剛一,髙井基普)
Chapter 4 補綴と矯正の趨勢
(西井 康,須田直人,山口徹太郎,任 剛一,髙井基普)














