序
ここ20年における歯内療法分野の発展は著しいものがあり,マイクロスコープやCBCT,NiTiファイル,さらにはバイオセラミック系材料などの導入によって,治療の精度と選択肢はかつてないほどに広がっています.これらの技術革新は臨床を支える強力な武器であり,従来では対応が困難であった症例も救済する道を拓きました.
一方で,日本の現状を振り返ると,必ずしも楽観できるものではありません.政府統計における麻酔抜髄と感染根管処置の保険診療請求回数は,過去20年近くほぼ横ばいで推移しており,しかも常に感染根管処置が麻酔抜髄を上回っています.すなわち,器具・器材の進歩に比して,歯内療法全体の治療構造は大きく変化していないようにみえるのです.
このギャップこそが,私たちが直視すべき課題といえます.いかに優れた器具や材料を手にしても,それを使いこなす術者自身の「知識」と「考え方」が伴わなければ,真の成果は得られません.根管治療の本質は,感染源を的確に除去し,歯とその周囲組織に健全な環境を再構築することにあり,そのためには検査・診断に基づいた精緻な治療計画,解剖学的理解,無菌的操作の徹底といった基本原則を堅持する姿勢が不可欠となります.器具はあくまで手段であり,目的を見失った操作はむしろ治療成功を妨げる要因となり得るのです.したがって,新たな技術や器材に目を奪われる前に,「なぜこの操作が必要なのか」「この症例において最も適切なアプローチは何か」を常に問い続ける必要があるのではないでしょうか.器具の進化は臨床の可能性を広げますが,その価値を最大限に引き出すのは術者自身の理念と判断力であるといえるでしょう.
本書『根管治療のクリニカルメソッド』の“メソッド“とは,単なる手順や操作の羅列を意味しません.検査・診断から治療計画,実際の手技に至るまで,一貫して患者の歯を守るための体系的かつ科学的な臨床アプローチをさします.すなわち,「考え方」「流れ」「実践」を包括的に結びつけた方法論こそが,本書の提示する「クリニカルメソッド」なのです.この一冊を通じて,若手の先生方には“適切な根管治療の第一歩”を,経験豊富な臨床家の方々には“明日からの診療をさらに確かなものにする視点”を構築する一助となり,多くの患者の歯を守る力となれば幸いです.
2025年8月 長谷川智哉
ここ20年における歯内療法分野の発展は著しいものがあり,マイクロスコープやCBCT,NiTiファイル,さらにはバイオセラミック系材料などの導入によって,治療の精度と選択肢はかつてないほどに広がっています.これらの技術革新は臨床を支える強力な武器であり,従来では対応が困難であった症例も救済する道を拓きました.
一方で,日本の現状を振り返ると,必ずしも楽観できるものではありません.政府統計における麻酔抜髄と感染根管処置の保険診療請求回数は,過去20年近くほぼ横ばいで推移しており,しかも常に感染根管処置が麻酔抜髄を上回っています.すなわち,器具・器材の進歩に比して,歯内療法全体の治療構造は大きく変化していないようにみえるのです.
このギャップこそが,私たちが直視すべき課題といえます.いかに優れた器具や材料を手にしても,それを使いこなす術者自身の「知識」と「考え方」が伴わなければ,真の成果は得られません.根管治療の本質は,感染源を的確に除去し,歯とその周囲組織に健全な環境を再構築することにあり,そのためには検査・診断に基づいた精緻な治療計画,解剖学的理解,無菌的操作の徹底といった基本原則を堅持する姿勢が不可欠となります.器具はあくまで手段であり,目的を見失った操作はむしろ治療成功を妨げる要因となり得るのです.したがって,新たな技術や器材に目を奪われる前に,「なぜこの操作が必要なのか」「この症例において最も適切なアプローチは何か」を常に問い続ける必要があるのではないでしょうか.器具の進化は臨床の可能性を広げますが,その価値を最大限に引き出すのは術者自身の理念と判断力であるといえるでしょう.
本書『根管治療のクリニカルメソッド』の“メソッド“とは,単なる手順や操作の羅列を意味しません.検査・診断から治療計画,実際の手技に至るまで,一貫して患者の歯を守るための体系的かつ科学的な臨床アプローチをさします.すなわち,「考え方」「流れ」「実践」を包括的に結びつけた方法論こそが,本書の提示する「クリニカルメソッド」なのです.この一冊を通じて,若手の先生方には“適切な根管治療の第一歩”を,経験豊富な臨床家の方々には“明日からの診療をさらに確かなものにする視点”を構築する一助となり,多くの患者の歯を守る力となれば幸いです.
2025年8月 長谷川智哉
CHAPTER 0 歯内療法のコンセプト
Introduction
根尖性歯周炎の原因と歯内療法のコンセプト
イニシャルトリートメントの重要性
CHAPTER 1 歯内療法における検査・診断
STEP 1 歯内療法における検査
検査の流れ
医療面接・口腔内検査(視診)
歯髄検査
根尖部周囲組織検査
画像検査
STEP 2 歯髄・根尖部周囲組織の臨床診断
臨床診断と病理組織学的診断
歯髄診断
根尖部周囲組織診断
待機的診断
CHAPTER 2 無菌的処置環境の整備
STEP 1 無菌的処置環境とは
無菌的処置とは
無菌的処置環境の構成要素
STEP 2 隔壁の作製
隔壁に用いる材料選択
隔壁作製までの流れ
STEP 3 ラバーダム防湿と術野の清掃・消毒
ラバーダム防湿に用いる器材と選択
ラバーダム防湿の手順
コーキング
術野の清掃・消毒
CHAPTER 3 根管内細菌の減少または除去
STEP 1 根管治療における「根管内細菌の減少または除去」
根管内細菌の減少または除去とは
根管系の封鎖との関係
STEP 2 根管の機械的清掃(1)~根管拡大・形成前処置~
アクセス窩洞形成
ストレートラインアクセス
ネゴシエーション
STEP 3 根管の機械的清掃(2)~根管拡大・形成~
どこまで根管拡大・形成すればよいか?
NiTiファイルの出現
根管拡大・形成
湾曲根管への対応
仕上げ形成
STEP 4 根管洗浄
根管洗浄液の選択
根管洗浄方法の選択
洗浄時の注意点
臨床手順
STEP 5 根管貼薬と仮封
根管貼薬の目的と必要性
根管貼薬剤の選択
水酸化カルシウムを用いた根管貼薬の実際
仮封の必要性
仮封材の選択
仮封の実際
CHAPTER 4 根管系の封鎖
STEP 1 根管治療における「根管系の封鎖」の位置づけ
根管系の封鎖とは
根管系の封鎖の目的
STEP 2 根管充填法と材料特性
根管充填の方法と材料
根管充填材の特性
STEP 3 根管充填の実際
症例に応じた根管充填法の選択
根管充填における共通事項
側方加圧根管充填法
垂直加圧根管充填法(CWCT)
Hydraulic Condensation Technique
MTAセメントによる根管充填法
STEP 4 歯冠修復
根管治療歯の特性
根管治療後の歯冠修復処置
支台築造体とポスト
直接支台築造の使用器材と術式
COLUMN
検査の検知能力と精度
なぜ歯髄炎で根尖部に炎症が起こるのか
Introduction
根尖性歯周炎の原因と歯内療法のコンセプト
イニシャルトリートメントの重要性
CHAPTER 1 歯内療法における検査・診断
STEP 1 歯内療法における検査
検査の流れ
医療面接・口腔内検査(視診)
歯髄検査
根尖部周囲組織検査
画像検査
STEP 2 歯髄・根尖部周囲組織の臨床診断
臨床診断と病理組織学的診断
歯髄診断
根尖部周囲組織診断
待機的診断
CHAPTER 2 無菌的処置環境の整備
STEP 1 無菌的処置環境とは
無菌的処置とは
無菌的処置環境の構成要素
STEP 2 隔壁の作製
隔壁に用いる材料選択
隔壁作製までの流れ
STEP 3 ラバーダム防湿と術野の清掃・消毒
ラバーダム防湿に用いる器材と選択
ラバーダム防湿の手順
コーキング
術野の清掃・消毒
CHAPTER 3 根管内細菌の減少または除去
STEP 1 根管治療における「根管内細菌の減少または除去」
根管内細菌の減少または除去とは
根管系の封鎖との関係
STEP 2 根管の機械的清掃(1)~根管拡大・形成前処置~
アクセス窩洞形成
ストレートラインアクセス
ネゴシエーション
STEP 3 根管の機械的清掃(2)~根管拡大・形成~
どこまで根管拡大・形成すればよいか?
NiTiファイルの出現
根管拡大・形成
湾曲根管への対応
仕上げ形成
STEP 4 根管洗浄
根管洗浄液の選択
根管洗浄方法の選択
洗浄時の注意点
臨床手順
STEP 5 根管貼薬と仮封
根管貼薬の目的と必要性
根管貼薬剤の選択
水酸化カルシウムを用いた根管貼薬の実際
仮封の必要性
仮封材の選択
仮封の実際
CHAPTER 4 根管系の封鎖
STEP 1 根管治療における「根管系の封鎖」の位置づけ
根管系の封鎖とは
根管系の封鎖の目的
STEP 2 根管充填法と材料特性
根管充填の方法と材料
根管充填材の特性
STEP 3 根管充填の実際
症例に応じた根管充填法の選択
根管充填における共通事項
側方加圧根管充填法
垂直加圧根管充填法(CWCT)
Hydraulic Condensation Technique
MTAセメントによる根管充填法
STEP 4 歯冠修復
根管治療歯の特性
根管治療後の歯冠修復処置
支台築造体とポスト
直接支台築造の使用器材と術式
COLUMN
検査の検知能力と精度
なぜ歯髄炎で根尖部に炎症が起こるのか














