『歯科衛生学シリーズ』の誕生
全国歯科衛生士教育協議会が監修を行ってきた歯科衛生士養成のための教科書のタイトルを，従来の『最新歯科衛生士教本』から『歯科衛生学シリーズ』に変更させていただくことになりました．2022年度は新たに改訂された教科書2点を，2023年度からはすべての教科書のタイトルを『歯科衛生学シリーズ』とさせていただきます．
全衛協が監修及び編集を行ってきた教科書としては，『歯科衛生士教本』，『新歯科衛生士教本』，『最新歯科衛生士教本』があり，その時代にあわせて改訂・発刊をしてきました．しかし，これまでの『歯科衛生士教本』には「歯科衛生士」という職種名がついていたため，医療他職種からは職業としての「業務マニュアル」を彷彿させると，たびたび指摘されてきました．さらに，一部の歯科医師からは歯科衛生士の教育に学問は必要ないという誤解を生む素地にもなっていたようです．『歯科衛生学シリーズ』というタイトルには，このような指摘・誤解に応えるとともに学問としての【歯科衛生学】を示す目的もあるのです．
『歯科衛生学シリーズ』誕生の背景には，全国歯科衛生士教育協議会の2021年5月の総会で承認された「歯科衛生学の体系化」という歯科衛生士の教育および業務に関する大きな改革案の公開があります．この報告では，「口腔の健康を通して全身の健康の維持・増進をはかり，生活の質の向上に資するためのもの」を「歯科衛生」と定義し，この「歯科衛生」を理論と実践の両面から探求する学問が【歯科衛生学】であるとしました．【歯科衛生学】は基礎歯科衛生学・臨床歯科衛生学・社会歯科衛生学の3つの分野から構成されるとしています．また，令和4年には歯科衛生士国家試験出題基準も改定されたことから，各分野の新しい『歯科衛生学シリーズ』の教科書の編集を順次進めております．
教育年限が3年以上に引き上げられて，短期大学や4年制大学も2桁の数に増加し，「日本歯科衛生教育学会」など【歯科衛生学】の教育に関連する学会も設立され，【歯科衛生学】の体系化も提案された今，自分自身の知識や経験が整理され，視野の広がりは臨床上の疑問を解くための指針ともなり，自分が実践してきた歯科保健・医療・福祉の正当性を検証することも可能となります．日常の身近な問題を見つけ，科学的思考によって自ら問題を解決する能力を養い，歯科衛生業務を展開していくことが令和の時代に求められています．
2023年1月
一般社団法人 全国歯科衛生士教育協議会理事長
眞木吉信
最新歯科衛生士教本の監修にあたって
歯科衛生士教育は，昭和24(1949)年に始まって以来，60年を迎えました．この間，平均寿命と人口構成，疾病構造などの変化，さらには歯科医学・医療技術の発展等を背景に，歯科医療・保健に対する社会的ニーズが高まり，歯科衛生士教育にも質的・量的な充実が要求され，度重なる法制上の整備や改正が行われてきました．平成17(2005)年4月には，今日の少子高齢化の進展，医療の高度化・多様化など教育を取り巻く環境の変化に伴い，さらなる歯科衛生士の資質向上をはかることを目的にして，歯科衛生士養成所指定規則の改正が行われ，平成22(2010)年にすべての養成機関で修業年限が3年制以上となりました．
21世紀を担っていく歯科衛生士には，さまざまな課題が課せられております．今日では，健康志向の高まりや食育の重要性が叫ばれるなか，生活習慣病としての歯周病，全身疾患，摂食・嚥下障害を有した患者や介護を要する高齢者の増加に対し，これまで以上に予防や食べる機能を重視し，口腔と全身の関係を考慮しながら対応していくこと，あるいは他職種との連携が求められています．また，歯周治療の進展や，インプラントなどの技術が広く普及するに伴って患者のニーズが多様化しつつあり，それらの技術に関わるメインテナンス等の新たな知識の習得も必須です．歯科衛生士には，このような，患者のさまざまなニーズに則したよりよい支援ができる視点と能力がますます必要になってきており，そのためには業務の基盤となる知識と技術の習得が基本となります．
全国歯科衛生士教育協議会では，こうした社会的要請に対応すべくこれまで活動の一環として，昭和47(1972)年本協議会最初の編集となる「歯科衛生士教本」，昭和57(1982)年修業年限が2年制化された時期の「改訂歯科衛生士教本」，平成3(1991)年歯科衛生士試験の統一化に対応した「新歯科衛生士教本」を編集しました．そして今回，厚生労働省「歯科衛生士の資質向上に関する検討会」で提示された内容および上記指定規則改正を踏まえ，本協議会監修の全面改訂版「最新歯科衛生士教本」を発刊するに至りました．
本シリーズは，歯科衛生士教育の実践に永年携わってこられ，また歯科医療における歯科衛生士の役割等に対し造詣の深い，全国の歯科大学，歯学部，医学部，歯科衛生士養成機関，その他関係機関の第一線で活躍されている先生方に執筆していただき，同時に内容・記述についての吟味を経て，歯科衛生士を目指す学生に理解しやすいような配慮がなされています．本協議会としては，今後の歯科衛生士教育の伸展に向けて本シリーズが教育の現場で十分に活用され，引いては国民の健康およびわが国の歯科医療・保健の向上に大いに寄与することを期待しております．
最後に本シリーズの監修にあたり，多くのご助言とご支援・ご協力をいただいた先生方，ならびに全国の歯科衛生士養成機関の関係者に心より厚く御礼申し上げます．
2010年10月
全国歯科衛生士教育協議会会長
松井恭平
発刊の辞
今日，歯科衛生士は，高齢社会に伴う医療問題の変化と歯科衛生士の働く領域の拡大などの流れのなか，大きな転換期に立たされています．基礎となる教育に求められる内容も変化してきており，社会のニーズに対応できる教育を行う必要性から2005（平成17）年4月に歯科衛生士学校養成所指定規則が改正され，歯科衛生士の修業年限は2年以上から3年以上に引き上げられ，2010年4月からは全校が3年以上となりました．
また，「日本歯科衛生学会」が2006年11月に設立され，歯科衛生士にも学術研究や医療・保健の現場における活躍の成果を発表する場と機会が，飛躍的に拡大しました．さらに，今後ますます変化していく歯科衛生士を取り巻く環境に十分対応しうる歯科衛生士自身のスキルアップが求められています．
「最新歯科衛生士教本」は上記を鑑み，前シリーズである「新歯科衛生士教本」の内容を見直し，現在の歯科衛生士に必要な最新の内容を盛り込むため，2003年に編集委員会が組織されて検討を進めてまいりましたが，発足以来，社会の変化を背景に，多くの読者からの要望が編集委員会に寄せられるようになりました．そこで，この編集委員会の発展継承をはかり，各分野で歯科衛生士教育に関わる委員を迎えて2008年から編集委員の構成を新たにし，改めて編集方針や既刊の教本も含めた内容の再点検を行うことで，発行体制を強化しました．
本シリーズでは「考える歯科衛生士」を育てる一助となるよう，読みやすく理解しやすい教本とすることを心がけました．また，到達目標を明示し，用語解説や歯科衛生士にとって重要な内容を別項として記載するなど，新しい体裁を採用しています．
なお，重要と思われる事項については，他分野の教本と重複して記載してありますが，科目間での整合性をはかるよう努めています．
この「最新歯科衛生士教本」が教育で有効に活用され，歯科衛生士を目指す学生の知識修得，および日頃の臨床・臨地実習のお役に立つことを願ってやみません．
2010年10月
最新歯科衛生士教本編集委員会
松井恭平* 合場千佳子 遠藤圭子 栗原英見 高阪利美
白鳥たかみ 高見佳代子 田村清美 畠中能子 藤原愛子
前田健康 眞木吉信 松田裕子 山田小枝子
（*編集委員長，五十音順）
執筆の序
本書，最新歯科衛生士教本『人体の構造と機能2 栄養と代謝』は，最初に生化学を学びその知識をもとに栄養学を学ぶという，新しいコンセプトでつくられた教科書である．
旧版の新歯科衛生士教本『栄養指導・生化学』では，栄養学を先に学び，生化学はその理解を助けることを目的に栄養学の後に学んでいた．歯科衛生士は口腔という食物の入口から健康を考える専門職であり，職務の1つとして栄養指導を行うことから，栄養学を主体として学ぶことはきわめて自然であった．
しかし，近年，栄養学は急速にその基盤を生化学に求めつつある．食物として摂取した栄養素を，私たちはどのように消化・吸収し，エネルギーを獲得し，必要な物質を合成するのかを理解するためには，生化学の知識がどうしても必要である．さらに，歯科医学が健康科学の一領域として明確に認識された現在では，口腔を専門として扱う歯科衛生士であっても，ヒトという生命全体の形態や機能を理解することが求められている．このような状況のなか，栄養学と生化学の順序を入れ替え，先に生化学を習得し，次いで生化学で得た知識を基盤にして栄養学を習得することは，きわめて自然のことであろう．
本教本では，旧版の目次を刷新し，I編「生命活動の概要」，II編「歯と口の生化学」とし，続いて，III編「栄養の基礎」，IV編「食生活と食品」とした．これによって，生化学で得られる知識を効果的に栄養学の学習へと繋げることが可能になり，高度な内容をより容易に理解できるようになると思われる．
具体的には，I編では生化学の概要，すなわち，私たちの身体をつくっている各種構造物の分子レベルでの理解から，体内の動的な活動としてのエネルギー代謝や物質代謝，そして遺伝子や細胞内の情報伝達の働きまでを学び，II編では，口腔に特徴的な歯，歯周組織，唾液，プラークを対象とし，その構成成分やそこで生ずる現象，特にう蝕と歯周病を生化学的に学ぶ．次いで，III編では栄養の基礎，すなわち，豊かに食糧が供給されているなかでなぜ栄養学を学ばなければならないのか，という基本を理解し，次いで日本人の食生活・栄養素摂取状況の良否，栄養素の消化吸収，日本人の食事摂取基準，各種栄養素の栄養的働きをを学ぶ．IV編では，実際の食生活に関連する事項である，望ましい食生活，国民の健康と栄養の実態，調理とライフスタイル，各種食品の成分と分類・物性などを学ぶ．
生化学，栄養学とも，発展が急速で著しい．本教本では，基本的な事項を中心に平易な文章で記載し，新しい知見やわかりにくい用語については，用語解説欄で個別に解説するなど，学生が自らの理解度に応じて学べるように工夫した．さらに，イラストやCoffee Break（コラム）を加えることにより，習得すべき項目の単なる羅列ではなく，各項目が有機的に連関した「読みごたえのある教科書」となることを目指した．また，本教本は，1人の先生が通論として使用するだけではなく，前半を生化学担当の先生が，後半を栄養学の先生が使用するなど，教育カリキュラムに応じて使用することが可能である．
本教本が，歯科衛生士を志す学生諸君にとってはもちろんのこと，第一線の歯科衛生士として活躍している方がたの「学びの道標」となることを期待したい．
2010年10月
執筆者代表
髙橋信博
江指隆年
全国歯科衛生士教育協議会が監修を行ってきた歯科衛生士養成のための教科書のタイトルを，従来の『最新歯科衛生士教本』から『歯科衛生学シリーズ』に変更させていただくことになりました．2022年度は新たに改訂された教科書2点を，2023年度からはすべての教科書のタイトルを『歯科衛生学シリーズ』とさせていただきます．
全衛協が監修及び編集を行ってきた教科書としては，『歯科衛生士教本』，『新歯科衛生士教本』，『最新歯科衛生士教本』があり，その時代にあわせて改訂・発刊をしてきました．しかし，これまでの『歯科衛生士教本』には「歯科衛生士」という職種名がついていたため，医療他職種からは職業としての「業務マニュアル」を彷彿させると，たびたび指摘されてきました．さらに，一部の歯科医師からは歯科衛生士の教育に学問は必要ないという誤解を生む素地にもなっていたようです．『歯科衛生学シリーズ』というタイトルには，このような指摘・誤解に応えるとともに学問としての【歯科衛生学】を示す目的もあるのです．
『歯科衛生学シリーズ』誕生の背景には，全国歯科衛生士教育協議会の2021年5月の総会で承認された「歯科衛生学の体系化」という歯科衛生士の教育および業務に関する大きな改革案の公開があります．この報告では，「口腔の健康を通して全身の健康の維持・増進をはかり，生活の質の向上に資するためのもの」を「歯科衛生」と定義し，この「歯科衛生」を理論と実践の両面から探求する学問が【歯科衛生学】であるとしました．【歯科衛生学】は基礎歯科衛生学・臨床歯科衛生学・社会歯科衛生学の3つの分野から構成されるとしています．また，令和4年には歯科衛生士国家試験出題基準も改定されたことから，各分野の新しい『歯科衛生学シリーズ』の教科書の編集を順次進めております．
教育年限が3年以上に引き上げられて，短期大学や4年制大学も2桁の数に増加し，「日本歯科衛生教育学会」など【歯科衛生学】の教育に関連する学会も設立され，【歯科衛生学】の体系化も提案された今，自分自身の知識や経験が整理され，視野の広がりは臨床上の疑問を解くための指針ともなり，自分が実践してきた歯科保健・医療・福祉の正当性を検証することも可能となります．日常の身近な問題を見つけ，科学的思考によって自ら問題を解決する能力を養い，歯科衛生業務を展開していくことが令和の時代に求められています．
2023年1月
一般社団法人 全国歯科衛生士教育協議会理事長
眞木吉信
最新歯科衛生士教本の監修にあたって
歯科衛生士教育は，昭和24(1949)年に始まって以来，60年を迎えました．この間，平均寿命と人口構成，疾病構造などの変化，さらには歯科医学・医療技術の発展等を背景に，歯科医療・保健に対する社会的ニーズが高まり，歯科衛生士教育にも質的・量的な充実が要求され，度重なる法制上の整備や改正が行われてきました．平成17(2005)年4月には，今日の少子高齢化の進展，医療の高度化・多様化など教育を取り巻く環境の変化に伴い，さらなる歯科衛生士の資質向上をはかることを目的にして，歯科衛生士養成所指定規則の改正が行われ，平成22(2010)年にすべての養成機関で修業年限が3年制以上となりました．
21世紀を担っていく歯科衛生士には，さまざまな課題が課せられております．今日では，健康志向の高まりや食育の重要性が叫ばれるなか，生活習慣病としての歯周病，全身疾患，摂食・嚥下障害を有した患者や介護を要する高齢者の増加に対し，これまで以上に予防や食べる機能を重視し，口腔と全身の関係を考慮しながら対応していくこと，あるいは他職種との連携が求められています．また，歯周治療の進展や，インプラントなどの技術が広く普及するに伴って患者のニーズが多様化しつつあり，それらの技術に関わるメインテナンス等の新たな知識の習得も必須です．歯科衛生士には，このような，患者のさまざまなニーズに則したよりよい支援ができる視点と能力がますます必要になってきており，そのためには業務の基盤となる知識と技術の習得が基本となります．
全国歯科衛生士教育協議会では，こうした社会的要請に対応すべくこれまで活動の一環として，昭和47(1972)年本協議会最初の編集となる「歯科衛生士教本」，昭和57(1982)年修業年限が2年制化された時期の「改訂歯科衛生士教本」，平成3(1991)年歯科衛生士試験の統一化に対応した「新歯科衛生士教本」を編集しました．そして今回，厚生労働省「歯科衛生士の資質向上に関する検討会」で提示された内容および上記指定規則改正を踏まえ，本協議会監修の全面改訂版「最新歯科衛生士教本」を発刊するに至りました．
本シリーズは，歯科衛生士教育の実践に永年携わってこられ，また歯科医療における歯科衛生士の役割等に対し造詣の深い，全国の歯科大学，歯学部，医学部，歯科衛生士養成機関，その他関係機関の第一線で活躍されている先生方に執筆していただき，同時に内容・記述についての吟味を経て，歯科衛生士を目指す学生に理解しやすいような配慮がなされています．本協議会としては，今後の歯科衛生士教育の伸展に向けて本シリーズが教育の現場で十分に活用され，引いては国民の健康およびわが国の歯科医療・保健の向上に大いに寄与することを期待しております．
最後に本シリーズの監修にあたり，多くのご助言とご支援・ご協力をいただいた先生方，ならびに全国の歯科衛生士養成機関の関係者に心より厚く御礼申し上げます．
2010年10月
全国歯科衛生士教育協議会会長
松井恭平
発刊の辞
今日，歯科衛生士は，高齢社会に伴う医療問題の変化と歯科衛生士の働く領域の拡大などの流れのなか，大きな転換期に立たされています．基礎となる教育に求められる内容も変化してきており，社会のニーズに対応できる教育を行う必要性から2005（平成17）年4月に歯科衛生士学校養成所指定規則が改正され，歯科衛生士の修業年限は2年以上から3年以上に引き上げられ，2010年4月からは全校が3年以上となりました．
また，「日本歯科衛生学会」が2006年11月に設立され，歯科衛生士にも学術研究や医療・保健の現場における活躍の成果を発表する場と機会が，飛躍的に拡大しました．さらに，今後ますます変化していく歯科衛生士を取り巻く環境に十分対応しうる歯科衛生士自身のスキルアップが求められています．
「最新歯科衛生士教本」は上記を鑑み，前シリーズである「新歯科衛生士教本」の内容を見直し，現在の歯科衛生士に必要な最新の内容を盛り込むため，2003年に編集委員会が組織されて検討を進めてまいりましたが，発足以来，社会の変化を背景に，多くの読者からの要望が編集委員会に寄せられるようになりました．そこで，この編集委員会の発展継承をはかり，各分野で歯科衛生士教育に関わる委員を迎えて2008年から編集委員の構成を新たにし，改めて編集方針や既刊の教本も含めた内容の再点検を行うことで，発行体制を強化しました．
本シリーズでは「考える歯科衛生士」を育てる一助となるよう，読みやすく理解しやすい教本とすることを心がけました．また，到達目標を明示し，用語解説や歯科衛生士にとって重要な内容を別項として記載するなど，新しい体裁を採用しています．
なお，重要と思われる事項については，他分野の教本と重複して記載してありますが，科目間での整合性をはかるよう努めています．
この「最新歯科衛生士教本」が教育で有効に活用され，歯科衛生士を目指す学生の知識修得，および日頃の臨床・臨地実習のお役に立つことを願ってやみません．
2010年10月
最新歯科衛生士教本編集委員会
松井恭平* 合場千佳子 遠藤圭子 栗原英見 高阪利美
白鳥たかみ 高見佳代子 田村清美 畠中能子 藤原愛子
前田健康 眞木吉信 松田裕子 山田小枝子
（*編集委員長，五十音順）
執筆の序
本書，最新歯科衛生士教本『人体の構造と機能2 栄養と代謝』は，最初に生化学を学びその知識をもとに栄養学を学ぶという，新しいコンセプトでつくられた教科書である．
旧版の新歯科衛生士教本『栄養指導・生化学』では，栄養学を先に学び，生化学はその理解を助けることを目的に栄養学の後に学んでいた．歯科衛生士は口腔という食物の入口から健康を考える専門職であり，職務の1つとして栄養指導を行うことから，栄養学を主体として学ぶことはきわめて自然であった．
しかし，近年，栄養学は急速にその基盤を生化学に求めつつある．食物として摂取した栄養素を，私たちはどのように消化・吸収し，エネルギーを獲得し，必要な物質を合成するのかを理解するためには，生化学の知識がどうしても必要である．さらに，歯科医学が健康科学の一領域として明確に認識された現在では，口腔を専門として扱う歯科衛生士であっても，ヒトという生命全体の形態や機能を理解することが求められている．このような状況のなか，栄養学と生化学の順序を入れ替え，先に生化学を習得し，次いで生化学で得た知識を基盤にして栄養学を習得することは，きわめて自然のことであろう．
本教本では，旧版の目次を刷新し，I編「生命活動の概要」，II編「歯と口の生化学」とし，続いて，III編「栄養の基礎」，IV編「食生活と食品」とした．これによって，生化学で得られる知識を効果的に栄養学の学習へと繋げることが可能になり，高度な内容をより容易に理解できるようになると思われる．
具体的には，I編では生化学の概要，すなわち，私たちの身体をつくっている各種構造物の分子レベルでの理解から，体内の動的な活動としてのエネルギー代謝や物質代謝，そして遺伝子や細胞内の情報伝達の働きまでを学び，II編では，口腔に特徴的な歯，歯周組織，唾液，プラークを対象とし，その構成成分やそこで生ずる現象，特にう蝕と歯周病を生化学的に学ぶ．次いで，III編では栄養の基礎，すなわち，豊かに食糧が供給されているなかでなぜ栄養学を学ばなければならないのか，という基本を理解し，次いで日本人の食生活・栄養素摂取状況の良否，栄養素の消化吸収，日本人の食事摂取基準，各種栄養素の栄養的働きをを学ぶ．IV編では，実際の食生活に関連する事項である，望ましい食生活，国民の健康と栄養の実態，調理とライフスタイル，各種食品の成分と分類・物性などを学ぶ．
生化学，栄養学とも，発展が急速で著しい．本教本では，基本的な事項を中心に平易な文章で記載し，新しい知見やわかりにくい用語については，用語解説欄で個別に解説するなど，学生が自らの理解度に応じて学べるように工夫した．さらに，イラストやCoffee Break（コラム）を加えることにより，習得すべき項目の単なる羅列ではなく，各項目が有機的に連関した「読みごたえのある教科書」となることを目指した．また，本教本は，1人の先生が通論として使用するだけではなく，前半を生化学担当の先生が，後半を栄養学の先生が使用するなど，教育カリキュラムに応じて使用することが可能である．
本教本が，歯科衛生士を志す学生諸君にとってはもちろんのこと，第一線の歯科衛生士として活躍している方がたの「学びの道標」となることを期待したい．
2010年10月
執筆者代表
髙橋信博
江指隆年
序章 栄養と代謝―生化学で学ぶこと・栄養学で学ぶこと―
1―生化学と栄養学
2―歯科衛生士が生化学・栄養学を学ぶ意義
I編 生命活動の概要
1章 生体の構成要素
1―細胞の役割
1．細胞の大きさと構造
2．情報伝達
3．細胞の分化
2―生体における水
1．生体中の水の分布
Coffee Break クローン技術と生命倫理
2．水の性質
3．水の解離と水素イオン濃度
4．酸とアルカリ（塩基）
5．緩衝作用と緩衝液
3―生体構成成分と栄養素
1．私たちの体を構成する成分と化学反応
Coffee Break 太陽と地球と海と生命
2．糖質の構造と種類
3．脂質の構造と種類
Coffee Break 糖質の構造
4．タンパク質の構造と役割
5．ビタミン
6．ミネラル（無機質）
Coffee Break ビタミンの発見と名前の由来
2章 生体における化学反応
1―消化と吸収
1．糖質の消化と吸収
2．脂質の消化と吸収
3．タンパク質の消化と吸収
2―酸素の運搬と二酸化炭素の排出
3―代謝
1．酵素の役割
2．エネルギー代謝とアデノシン三リン酸（ATP）
Coffee Break メタボに注意
3章 糖質と脂質の代謝―主要なエネルギー基質―
1―エネルギー代謝の全体像
2―糖質の代謝とエネルギーの生成
1．解糖
2．グリコーゲンの合成と分解
3．ピルビン酸からのアセチルCoAの産生とクエン酸回路
Coffee Break 酸化と還元
4．電子伝達系
Coffee Break 名前にみる生化学研究の歴史―解糖とクエン酸回路―
5．糖質の代謝によって得られるエネルギー量
Coffee Break 動物と植物と地球温暖化
Coffee Break 飢餓対応型の人類とダイエット
3―脂質の代謝とエネルギーの生成
1．脂肪酸の酸化（β酸化）
Coffee Break 生命はなぜ温かい?
2．脂肪酸の酸化によって得られるエネルギー量
3．脂肪の合成
4章 タンパク質とアミノ酸の代謝―多様な機能をもつ生体分子―
1―タンパク質の加水分解
2―アミノ酸の代謝分解
1．脱アミノ反応
2．脱炭酸反応
Coffee Break フェニルケトン尿症という先天性代謝異常症
3―タンパク質の合成
Coffee Break アンモニア処理工場としての尿素回路
1．DNAと遺伝子
2．タンパク質の合成
5章 生体における恒常性の維持
1―恒常性（ホメオスタシス）とは
1．血液の緩衝能
2．血糖値
2―ホルモン系と自律神経系
Coffee Break 糖質代謝障害―糖尿病―
II編 歯と口の生化学
1章 歯と歯周組織の生化学
1―歯と歯周組織
2―結合組織
1．結合組織の組成と機能
2．線維状タンパク質
Coffee Break エラスチン結合ミクロフィブリル
3．プロテオグリカン
4．接着性タンパク質
5．コラーゲンの合成
6．細胞外マトリックスの分解
3―歯
1．歯の組成
2．歯の無機成分
Coffee Break 吸着イオン層と水和層
3．歯の有機成分
2章 硬組織の生化学
1―血清中のカルシウムとリン酸
2―石灰化の仕組み
1．基質小胞によるコラーゲン性石灰化
Coffee Break 飽和・過飽和
2．歯と骨の石灰化の特徴
Coffee Break 石灰化の仕組み―押し上げ説と核形成説―
3―骨の生成と吸収
1．骨芽細胞と破骨細胞
Coffee Break 破骨細胞活性化機構
2．血清カルシウム調節ホルモン
4―歯の脱灰と再石灰化
1．歯の脱灰とキレート作用
3章 唾液の生化学
1―唾液の組成と機能
1．無機質
Coffee Break 「むし歯は夜つくられる」ってホント?
2．有機質
Coffee Break 血液型活性ってなに?
3．低分子量成分
Coffee Break コルチゾールとストレス
4章 プラークの生化学
1―プラークの生物活性
1．プラークの種類
2．プラークの形成
3．プラークによる糖からの酸産生
Coffee Break プラークとバイオフィルム
Coffee Break プラークpH測定法
2―プラークによるう蝕発症機構―多因子性疾患としてのう蝕―
1．糖
2．プラーク
3．歯
4．唾液
5．食生活
6．う蝕予防法
Coffee Break ツルク・シュガー・スタディ（Turku sugar study）
3―プラークによる口臭発症機構
4―プラークによる歯周疾患発症機構
1．細菌活性
2．生体防御機構と炎症反応
3．リポ多糖（LPS）
Coffee Break 破骨細胞による骨吸収の仕組み
Coffee Break 成熟コラーゲンの生物学的半減期と骨のリモデリング
III編 栄養の基礎
1章 栄養の基礎知識
1―食生活と栄養
1．栄養の知識を学ぶ理由
2．日本人の栄養摂取状況
2―栄養素の消化・吸収
1．消化作用の種類
2．消化作用の仕組み
3．栄養素の消化
4．栄養素の吸収
5．栄養素の役割
Coffee Break タンパク質の役割
2章 食事摂取基準
1―食物のエネルギー
2―基礎代謝
1．基礎代謝量
2．基礎代謝量に影響する因子
3―エネルギー必要量
1．個人の推定エネルギー必要量の求め方
2．脂肪エネルギー比率について
3．付加運動によるエネルギー消費量の増加
4―日本人の食事摂取基準
1．「日本人の食事摂取基準」の意義
2．「日本人の食事摂取基準」の基本的な活用方法
3．「日本人の食事摂取基準」の使用にあたっての留意点
3章 栄養素の働き
1―糖質の栄養的意味
1．糖質の種類
2．糖質の栄養的意味
2―タンパク質の栄養的意味
1．タンパク質の種類
2．タンパク質の栄養的意味
3―脂質の栄養的意味
1．脂質の種類
2．脂質の栄養的意味
4―ビタミンの栄養的意味
1．ビタミンの種類
2．ビタミンの栄養的意味
5―ミネラルの栄養的意味
1．ミネラルの種類
Coffee Break ビタミンKとワーファリン
2．ミネラルの作用と欠乏・過剰症
6―水の栄養的意味
1．水の働きと代謝
Coffee Break 日本人におけるフッ化物摂取基準（案）
2．水の必要量と給源
7―食物繊維の栄養的意味
1．食物繊維の働き
2．食物繊維の摂取量と給源
IV編 食生活と食品
1章 食生活と健康
1―国民の健康と栄養の現状
1．食生活の変遷と疾病構造の変化
2．国民栄養の現状と課題
2―望ましい食生活
1．国民健康づくりにおける食生活改善の取り組み
Coffee Break 噛ミング30
2．食事環境
3．食事計画
3―ライフステージ別の栄養と調理
1．成長期における栄養と調理の特性
2．成人期における栄養と調理の特性
3．高齢期における栄養と調理の特性
Coffee Break 栄養補給法
2章 食べ物と健康
1―食品の成分と分類
1．食品成分表
2．食事計画に用いる食品分類
2―食べ物の物性
1．食べ物のおいしさ
2．食べ物の物性・テクスチャー
日本人の食事摂取基準（2015年版）
1―生化学と栄養学
2―歯科衛生士が生化学・栄養学を学ぶ意義
I編 生命活動の概要
1章 生体の構成要素
1―細胞の役割
1．細胞の大きさと構造
2．情報伝達
3．細胞の分化
2―生体における水
1．生体中の水の分布
Coffee Break クローン技術と生命倫理
2．水の性質
3．水の解離と水素イオン濃度
4．酸とアルカリ（塩基）
5．緩衝作用と緩衝液
3―生体構成成分と栄養素
1．私たちの体を構成する成分と化学反応
Coffee Break 太陽と地球と海と生命
2．糖質の構造と種類
3．脂質の構造と種類
Coffee Break 糖質の構造
4．タンパク質の構造と役割
5．ビタミン
6．ミネラル（無機質）
Coffee Break ビタミンの発見と名前の由来
2章 生体における化学反応
1―消化と吸収
1．糖質の消化と吸収
2．脂質の消化と吸収
3．タンパク質の消化と吸収
2―酸素の運搬と二酸化炭素の排出
3―代謝
1．酵素の役割
2．エネルギー代謝とアデノシン三リン酸（ATP）
Coffee Break メタボに注意
3章 糖質と脂質の代謝―主要なエネルギー基質―
1―エネルギー代謝の全体像
2―糖質の代謝とエネルギーの生成
1．解糖
2．グリコーゲンの合成と分解
3．ピルビン酸からのアセチルCoAの産生とクエン酸回路
Coffee Break 酸化と還元
4．電子伝達系
Coffee Break 名前にみる生化学研究の歴史―解糖とクエン酸回路―
5．糖質の代謝によって得られるエネルギー量
Coffee Break 動物と植物と地球温暖化
Coffee Break 飢餓対応型の人類とダイエット
3―脂質の代謝とエネルギーの生成
1．脂肪酸の酸化（β酸化）
Coffee Break 生命はなぜ温かい?
2．脂肪酸の酸化によって得られるエネルギー量
3．脂肪の合成
4章 タンパク質とアミノ酸の代謝―多様な機能をもつ生体分子―
1―タンパク質の加水分解
2―アミノ酸の代謝分解
1．脱アミノ反応
2．脱炭酸反応
Coffee Break フェニルケトン尿症という先天性代謝異常症
3―タンパク質の合成
Coffee Break アンモニア処理工場としての尿素回路
1．DNAと遺伝子
2．タンパク質の合成
5章 生体における恒常性の維持
1―恒常性（ホメオスタシス）とは
1．血液の緩衝能
2．血糖値
2―ホルモン系と自律神経系
Coffee Break 糖質代謝障害―糖尿病―
II編 歯と口の生化学
1章 歯と歯周組織の生化学
1―歯と歯周組織
2―結合組織
1．結合組織の組成と機能
2．線維状タンパク質
Coffee Break エラスチン結合ミクロフィブリル
3．プロテオグリカン
4．接着性タンパク質
5．コラーゲンの合成
6．細胞外マトリックスの分解
3―歯
1．歯の組成
2．歯の無機成分
Coffee Break 吸着イオン層と水和層
3．歯の有機成分
2章 硬組織の生化学
1―血清中のカルシウムとリン酸
2―石灰化の仕組み
1．基質小胞によるコラーゲン性石灰化
Coffee Break 飽和・過飽和
2．歯と骨の石灰化の特徴
Coffee Break 石灰化の仕組み―押し上げ説と核形成説―
3―骨の生成と吸収
1．骨芽細胞と破骨細胞
Coffee Break 破骨細胞活性化機構
2．血清カルシウム調節ホルモン
4―歯の脱灰と再石灰化
1．歯の脱灰とキレート作用
3章 唾液の生化学
1―唾液の組成と機能
1．無機質
Coffee Break 「むし歯は夜つくられる」ってホント?
2．有機質
Coffee Break 血液型活性ってなに?
3．低分子量成分
Coffee Break コルチゾールとストレス
4章 プラークの生化学
1―プラークの生物活性
1．プラークの種類
2．プラークの形成
3．プラークによる糖からの酸産生
Coffee Break プラークとバイオフィルム
Coffee Break プラークpH測定法
2―プラークによるう蝕発症機構―多因子性疾患としてのう蝕―
1．糖
2．プラーク
3．歯
4．唾液
5．食生活
6．う蝕予防法
Coffee Break ツルク・シュガー・スタディ（Turku sugar study）
3―プラークによる口臭発症機構
4―プラークによる歯周疾患発症機構
1．細菌活性
2．生体防御機構と炎症反応
3．リポ多糖（LPS）
Coffee Break 破骨細胞による骨吸収の仕組み
Coffee Break 成熟コラーゲンの生物学的半減期と骨のリモデリング
III編 栄養の基礎
1章 栄養の基礎知識
1―食生活と栄養
1．栄養の知識を学ぶ理由
2．日本人の栄養摂取状況
2―栄養素の消化・吸収
1．消化作用の種類
2．消化作用の仕組み
3．栄養素の消化
4．栄養素の吸収
5．栄養素の役割
Coffee Break タンパク質の役割
2章 食事摂取基準
1―食物のエネルギー
2―基礎代謝
1．基礎代謝量
2．基礎代謝量に影響する因子
3―エネルギー必要量
1．個人の推定エネルギー必要量の求め方
2．脂肪エネルギー比率について
3．付加運動によるエネルギー消費量の増加
4―日本人の食事摂取基準
1．「日本人の食事摂取基準」の意義
2．「日本人の食事摂取基準」の基本的な活用方法
3．「日本人の食事摂取基準」の使用にあたっての留意点
3章 栄養素の働き
1―糖質の栄養的意味
1．糖質の種類
2．糖質の栄養的意味
2―タンパク質の栄養的意味
1．タンパク質の種類
2．タンパク質の栄養的意味
3―脂質の栄養的意味
1．脂質の種類
2．脂質の栄養的意味
4―ビタミンの栄養的意味
1．ビタミンの種類
2．ビタミンの栄養的意味
5―ミネラルの栄養的意味
1．ミネラルの種類
Coffee Break ビタミンKとワーファリン
2．ミネラルの作用と欠乏・過剰症
6―水の栄養的意味
1．水の働きと代謝
Coffee Break 日本人におけるフッ化物摂取基準（案）
2．水の必要量と給源
7―食物繊維の栄養的意味
1．食物繊維の働き
2．食物繊維の摂取量と給源
IV編 食生活と食品
1章 食生活と健康
1―国民の健康と栄養の現状
1．食生活の変遷と疾病構造の変化
2．国民栄養の現状と課題
2―望ましい食生活
1．国民健康づくりにおける食生活改善の取り組み
Coffee Break 噛ミング30
2．食事環境
3．食事計画
3―ライフステージ別の栄養と調理
1．成長期における栄養と調理の特性
2．成人期における栄養と調理の特性
3．高齢期における栄養と調理の特性
Coffee Break 栄養補給法
2章 食べ物と健康
1―食品の成分と分類
1．食品成分表
2．食事計画に用いる食品分類
2―食べ物の物性
1．食べ物のおいしさ
2．食べ物の物性・テクスチャー
日本人の食事摂取基準（2015年版）
