やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 近年の歯科医療において,写真撮影は診療記録の枠を超え,診断,治療計画立案,補綴設計,教育および学術的発信に不可欠な要素として位置づけられるようになっている.とりわけ口腔内,顔貌,補綴装置の情報は,臨床的評価と技工的精度を橋渡しする情報媒体としての役割を担い,歯科医師と歯科技工士双方にとって共通の視覚的言語となり得るものである.
 チェアサイドにおける写真撮影は,治療経過の客観的記録として機能するのみならず,症例分析および治療成果の可視化を通じて,診療の再評価と改善を促すものである.特に,審美的・機能的補綴を行う際には,顔貌と補綴装置との調和,咬合関係,歯列弓形態などを多面的に検討するための基礎資料として欠かせない.また,患者へのカウンセリングにおいても,写真は治療方針の理解と信頼形成を支えるツールとして機能する.さらに,学会発表や論文執筆において高品位な臨床写真は,症例の再現性を保証し,学術的信頼性を高める要素ともなる.
 またラボサイドにおける写真撮影は,技術検証および教育的価値を併せ持つ.製作工程の記録は,補綴設計の再現性や材料特性の理解を深め,自らの技術的進歩を可視化する資料として有用である.さらに,こうした記録は学会発表,専門誌への投稿,後進教育においても高い学術的意義を有する.歯科技工の分野では,写真が「技術の言語化」に代わるものとして,審美的評価と造形的思考を結びつける重要な媒介となっている.
 そしてチェアサイド・ラボサイド両者における写真撮影の意義も極めて重要である.歯科技工士は,臨床現場での患者の顔貌や口腔内を直接観察する機会が限られる場合もある.そのため,写真や動画は患者の審美的特徴,口唇の動き,歯列の露出量などを把握するための不可欠な情報源となる.また補綴装置の製作過程および完成時の写真を記録・共有することにより,両者間のコミュニケーションは質的に向上し,補綴装置の形態的整合性および色調再現性の精度が高まる.特に照明条件や撮影角度を標準化した画像データは,両者間の客観的評価を可能とし,臨床と技工の連携を強化する.
 このようにチェアサイド・ラボサイドにおける写真撮影は,診療の客観性,補綴精度,審美的統一性を高めるための不可欠な手段であり,歯科医療の質的向上に寄与するものである.本書はチェアサイド・ラボサイドにおける撮影法を体系的に整理し,その臨床的・技工的応用を明示することを目的としている.写真撮影の知識と技術を共有することにより,歯科医師と歯科技工士が同一の視覚的基盤の上に協働し,より精緻で再現性の高い補綴治療を実現する一助となれば幸いである.
 岩田 淳
 序文
 目次
 Opening Graph
Chapter 1 デジタルカメラの基礎知識
 規格性があり美しい臨床写真を撮るには(岩田 淳)
 一眼レフカメラとミラーレスカメラの違い(岩田 淳)
 センサーサイズの違い(岩田 淳)
 撮影モード(岩田 淳)
 露出に関わる要素-絞り値,シャッタースピード,ISO感度-(岩田 淳)
 ホワイトバランスの設定(岩田 淳,瓜坂達也)
 色温度とホワイトバランスの設定(瓜坂達也)
 フラッシュ(岩田 淳)
 シャッタースピードとフラッシュとの同調(瓜坂達也)
Chapter 2 撮影の実際
 口腔内写真で使用する機材(岩田 淳)
 口腔内写真の撮影(岩田 淳)
 顔貌,口唇の撮影(岩田 淳)
 シェードテイキングの撮影(岩田 淳)
 ラボサイド目線でのシェードテイキング(瓜坂達也)
 フィルター,コントラスターの使用(岩田 淳)
 望遠マクロレンズ(105mm)と短焦点マクロレンズ(60mm)(岩田 淳)
 マイクロスコープを使用した撮影(岩田 淳)
 プレゼンテーションソフト(Keynote)の応用(岩田 淳)
 顔貌の動画撮影(岩田 淳)
 スマートフォンを使用した撮影(岩田 淳)
 アイスペシャルの活用(瓜坂達也)
Chapter 3 撮影テクニック
 補綴装置,インスツルメントなどの写真撮影(岩田 淳)
 高倍率マクロ撮影(岩田 淳)
 歯のスライス写真(クロス偏光撮影)(岩田 淳)