はじめに
看護学研究倫理をめぐっては,1996年にICN(国際看護師協会)が「看護学研究の倫理指針(Ethical Guidelines for Nursing Research)」を策定し,その後2003年に改正 ※1が行われ,各国の看護協会による翻訳版が出版されました.看護学分野では,この指針や「ヘルシンキ宣言」,その他国内の人を対象とする研究の指針や法律の改正などにも対応し,看護系の各学会もそれぞれ自律的に研究倫理指針を策定し,社会の変化に応じて学会の倫理指針の改定も行っています.そのなかで,看護学研究者は倫理的な配慮のもと研究活動を行ってきました.
このような研究倫理に関する指針が周知されていることや,看護研究の倫理審査も比較的厳しく行われてきたことからか,看護学研究者は,一般的には研究倫理,被験者(研究対象者/研究参加者)保護に関する意識は高いと実感しています.そして,今では多くの看護学研究を行う教育機関や医療機関等で,研究倫理の教育にも積極的に取り組むようになってきたと思います.しかしながら,筆者らが行ったこれまでの調査により,看護学研究は医科学研究に比べ,研究倫理の教育や倫理審査が適切にかつ十分に行われていないということもわかっています.研究倫理に関する指針,たとえば「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」や個人情報保護法の改正が定期的に行われ,新たな用語や規定が増えるため,それらを理解したうえで各機関が倫理審査に関する規定の見直しや体制整備等に対応したり,研究者が指針を理解するのは容易ではありません.
看護学研究者の悩みも尽きることはなく,倫理審査を受けるのにも心身ともに疲弊してしまうこともあります.それは,審査の手続きが複雑で時間がかかるといったようなことだけではなく,看護学研究の特性や意義が理解されない,審査委員会の指摘が納得できないというような心情的な負担によるものも多いようです.そのような状況のなかで,研究者らから研究倫理教育と相談窓口を求める声がひっきりなしに届いています.このままでは,不当とも思えるような理由で研究が制限されたり,看護学研究者が委縮してしまい,研究者の研究への意欲が減退するだけでなく,倫理審査委員会の委員や研究者,委員会事務局スタッフ等,関係者らの信頼関係の崩壊,研究のミスコンダクトや研究に参加する人をリスクに晒すことにもつながりかねないと思いました.
そのような現状を何とかしたい,看護学研究者らの声にこたえたいという思いから,筆者らは研究活動の一環として,オンラインによる「看護学研究倫理コンサルテーション」を開設しました.これまでこのコンサルテーション窓口には多くの悩みや疑問が届いています.コンサルテーションを通して寄せられた看護学研究者や看護職の方の悩みや疑問とそれらに対する解説を含めたアドバイスを多くの人に共有し役立てていただきたいと思い,本書を企画・作成しました.
本書は,序章と1~6章で構成されています.それぞれの章には,複数のCaseと筆者らによる解説が行われています.これらのCaseは,筆者らが運営している「看護学研究倫理コンサルテーション」に寄せられた相談内容のほか,これまでの研究倫理に関する研究や教育,支援の実践のなかで研究者らから受けたよくある質問を基に作成しました.看護学研究の特徴をふまえ,看護分野で比較的多く行われる研究とその研究に関連したよくある疑問や押さえておくべき倫理的配慮など,実際に研究計画を立案する際や,研究倫理教育や指導を行う際に役立つと思われる内容を含めています.
看護学研究者が疑問に思うこと,不安なことは多岐にわたり,研究場所,研究対象者,研究方法等,研究者の数,研究の数だけ異なる疑問や不安がありますので,すべての疑問に答えられているわけではありません.よって,皆様が抱えているケースをすべて取り扱うことはできませんが,できるだけヒントになるような情報が得られるように配慮しました.
本書の序章や各Caseの解説等の記載は,「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」や個人情報保護法,その他現行の関連法規制等に基づいた内容となっています.よって,将来それらの関連法規制等が改正されるなどした場合,本書の内容(用語の定義も含め)とは異なる可能性もありますが,その時々で混乱がないように,どの時点の資料のどの部分を根拠とした記述か,丁寧に注釈をつけています.また,看護学研究の分野はその方法や倫理的な配慮の見解が研究者や機関によって異なる場合もあり,本書の解説のみが唯一正しいものではありません.今後も多くの研究者や倫理審査委員会の委員の皆様,事務局の皆様等と交流を重ね,研究倫理に関する視野や知識を深め,より適正なものにしていきたいと思います.
看護の研究を行っている方をはじめ,看護研究倫理教育や指導に携わる方,倫理審査委員会の委員,倫理審査委員会事務局のスタッフ,これから研究を始めようとしている看護師や学生の皆様にも本書を参考にしていただければと思います.皆様の研究に関する悩みや疑問を解決する糸口を見つけたり,看護学研究倫理の基本的な学習の参考とするなど,さまざまな目的で本書を活用していただければ幸いです.
執筆者一同を代表して
有江文栄
※1:Holzemer WL(2003):Ethical Guidelines for Nursing Research.International Council of Nurses,ICN.
本書は,令和4年度科学研究費助成事業(学術研究助成基金助成金)基盤(C)(一般)課題番号:22K10650,研究課題名:「看護研究倫理コンサルテーションを活用した研究倫理教材の作成及び教育の実施と評価(研究代表者:有江文栄)」における研究活動の成果の一部です.
看護学研究倫理をめぐっては,1996年にICN(国際看護師協会)が「看護学研究の倫理指針(Ethical Guidelines for Nursing Research)」を策定し,その後2003年に改正 ※1が行われ,各国の看護協会による翻訳版が出版されました.看護学分野では,この指針や「ヘルシンキ宣言」,その他国内の人を対象とする研究の指針や法律の改正などにも対応し,看護系の各学会もそれぞれ自律的に研究倫理指針を策定し,社会の変化に応じて学会の倫理指針の改定も行っています.そのなかで,看護学研究者は倫理的な配慮のもと研究活動を行ってきました.
このような研究倫理に関する指針が周知されていることや,看護研究の倫理審査も比較的厳しく行われてきたことからか,看護学研究者は,一般的には研究倫理,被験者(研究対象者/研究参加者)保護に関する意識は高いと実感しています.そして,今では多くの看護学研究を行う教育機関や医療機関等で,研究倫理の教育にも積極的に取り組むようになってきたと思います.しかしながら,筆者らが行ったこれまでの調査により,看護学研究は医科学研究に比べ,研究倫理の教育や倫理審査が適切にかつ十分に行われていないということもわかっています.研究倫理に関する指針,たとえば「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」や個人情報保護法の改正が定期的に行われ,新たな用語や規定が増えるため,それらを理解したうえで各機関が倫理審査に関する規定の見直しや体制整備等に対応したり,研究者が指針を理解するのは容易ではありません.
看護学研究者の悩みも尽きることはなく,倫理審査を受けるのにも心身ともに疲弊してしまうこともあります.それは,審査の手続きが複雑で時間がかかるといったようなことだけではなく,看護学研究の特性や意義が理解されない,審査委員会の指摘が納得できないというような心情的な負担によるものも多いようです.そのような状況のなかで,研究者らから研究倫理教育と相談窓口を求める声がひっきりなしに届いています.このままでは,不当とも思えるような理由で研究が制限されたり,看護学研究者が委縮してしまい,研究者の研究への意欲が減退するだけでなく,倫理審査委員会の委員や研究者,委員会事務局スタッフ等,関係者らの信頼関係の崩壊,研究のミスコンダクトや研究に参加する人をリスクに晒すことにもつながりかねないと思いました.
そのような現状を何とかしたい,看護学研究者らの声にこたえたいという思いから,筆者らは研究活動の一環として,オンラインによる「看護学研究倫理コンサルテーション」を開設しました.これまでこのコンサルテーション窓口には多くの悩みや疑問が届いています.コンサルテーションを通して寄せられた看護学研究者や看護職の方の悩みや疑問とそれらに対する解説を含めたアドバイスを多くの人に共有し役立てていただきたいと思い,本書を企画・作成しました.
本書は,序章と1~6章で構成されています.それぞれの章には,複数のCaseと筆者らによる解説が行われています.これらのCaseは,筆者らが運営している「看護学研究倫理コンサルテーション」に寄せられた相談内容のほか,これまでの研究倫理に関する研究や教育,支援の実践のなかで研究者らから受けたよくある質問を基に作成しました.看護学研究の特徴をふまえ,看護分野で比較的多く行われる研究とその研究に関連したよくある疑問や押さえておくべき倫理的配慮など,実際に研究計画を立案する際や,研究倫理教育や指導を行う際に役立つと思われる内容を含めています.
看護学研究者が疑問に思うこと,不安なことは多岐にわたり,研究場所,研究対象者,研究方法等,研究者の数,研究の数だけ異なる疑問や不安がありますので,すべての疑問に答えられているわけではありません.よって,皆様が抱えているケースをすべて取り扱うことはできませんが,できるだけヒントになるような情報が得られるように配慮しました.
本書の序章や各Caseの解説等の記載は,「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」や個人情報保護法,その他現行の関連法規制等に基づいた内容となっています.よって,将来それらの関連法規制等が改正されるなどした場合,本書の内容(用語の定義も含め)とは異なる可能性もありますが,その時々で混乱がないように,どの時点の資料のどの部分を根拠とした記述か,丁寧に注釈をつけています.また,看護学研究の分野はその方法や倫理的な配慮の見解が研究者や機関によって異なる場合もあり,本書の解説のみが唯一正しいものではありません.今後も多くの研究者や倫理審査委員会の委員の皆様,事務局の皆様等と交流を重ね,研究倫理に関する視野や知識を深め,より適正なものにしていきたいと思います.
看護の研究を行っている方をはじめ,看護研究倫理教育や指導に携わる方,倫理審査委員会の委員,倫理審査委員会事務局のスタッフ,これから研究を始めようとしている看護師や学生の皆様にも本書を参考にしていただければと思います.皆様の研究に関する悩みや疑問を解決する糸口を見つけたり,看護学研究倫理の基本的な学習の参考とするなど,さまざまな目的で本書を活用していただければ幸いです.
執筆者一同を代表して
有江文栄
※1:Holzemer WL(2003):Ethical Guidelines for Nursing Research.International Council of Nurses,ICN.
本書は,令和4年度科学研究費助成事業(学術研究助成基金助成金)基盤(C)(一般)課題番号:22K10650,研究課題名:「看護研究倫理コンサルテーションを活用した研究倫理教材の作成及び教育の実施と評価(研究代表者:有江文栄)」における研究活動の成果の一部です.
はじめに
序章 研究倫理の基本理念と倫理的配慮に関する概論
(有江文栄)
1 社会的及び学術的な意義を有する研究を実施すること
2 研究分野の特性に応じた科学的合理性を確保すること
3 研究より得られる利益および研究対象者への負担その他の不利益を比較考量すること
4 独立した公正な立場にある倫理審査委員会の審査を受けること
5 研究対象者への事前の十分な説明を行うとともに,自由な意思に基づく同意を得ること
6 社会的に弱い立場にある者への特別な配慮をすること
7 研究に利用する個人情報等を適切に管理すること
8 研究の質および透明性を確保すること
9 研究対象者およびコミュニティが関与できるよう努めること
1章 実践成果の報告
Case 1 事例報告(有江文栄)
1 「事例報告」は研究なのか?
2 倫理審査を行う必要があるか?
3 本人が特定できないようにすれば,同意は不要となるのか?
4 本人同意以外に必要な手続きは? ─記録の作成
5 看護記録の利用に伴うプライバシーや個人情報保護の問題は?
Case 2 業務改善の実践報告(有江文栄)
1 業務改善の実践として報告すべきか,研究へと切り替えるべきか?
2 倫理審査が必要になる場合とは?
3 自分の病院の報告であることから関係者が特定されてもよいか?
Column 研究内容が倫理審査委員会で審査されるわけ(大西香代子)
Case 3 前向き看護介入の成果報告(箕輪千佳)
1 通常の看護実践の範疇でも介入研究とされるのか?
Column ランダム化(無作為化)は可能か? 留意点は?(箕輪千佳)
2 研究の科学的妥当性はいかに判断されるか?
3 匿名性への配慮はどのようなことが必要か?
4 研究目的を明かさないで,介入を実施してはいけないか?
Case 4 学生レポートの分析(大西香代子)
1 データ収集は終わっているのに倫理審査は必要か?
2 学生と教員の立場でどう自由意思の同意を得るか?
3 匿名性への配慮はどうすればよいか?
4 既存情報の使用のみの研究でも研究対象者への謝礼は必要か?
Column 卒業生のレポートを対象とする場合(大西香代子)
2章 研究方法から見た倫理的配慮
Case 5 侵襲,リスクを伴う介入研究(有江文栄)
1 通常行っている看護介入と同等の行為であっても,侵襲ありと判断しなければならないのか?
2 研究で得られる利益と研究対象者への負担等をどのように考えるか?
3 有害事象への備えと発生した際の対応はどのようにしたらよいか?
4 研究に関する情報公開や研究対象者への情報提供はどのようにするか?
5 同意撤回が躊躇なく行われるにはどうしたらよいか?
Case 6 フォーカス・グループ・インタビュー調査(大西香代子)
1 倫理審査は必要か?
2 リクルートの際に強制力がはたらいていないか?
3 インフォームド・コンセントをどう受けるか?
4 同意撤回の機会の保障は,実際は可能か?
5 機密保持のために,研究協力者に求める事項はあるか?
6 データの保管・廃棄にはいかなる配慮が必要か?
7 研究協力者の所属施設の許可も必要か?
Case 7 ウェブでのアンケート調査(箕輪千佳)
1 インターネットを調査に使用するのに適した研究か?
2 対象者を偏りなく,信頼性も担保できるか?
Column インターネットを利用した調査研究の方法(箕輪千佳)
3 インフォームド・コンセントの方法や,同意の撤回についてはどうか?
4 ウェブ調査会社との契約における留意事項は?
Case 8 アクション・リサーチ(大西香代子)
1 利益が不利益を上回っているか?
2 計画変更に際しての倫理審査手続きは?
3 研究目的とプロジェクトの目的を考えたリクルート方法は?
4 研究の各段階でどのように説明し同意を得るか?
Column 倫理の審査?(服部俊子)
Case 9 SNSの投稿を用いて行う研究(有江文栄)
1 投稿内容は事実を語っているか?
2 研究倫理上,SNSの公開情報を投稿者の同意なく研究に使用してよいか?
3 著作権法上の観点からはどう考えるか?
4 SNSサービスを運営する企業の利用規約はどうなっているか?
3章 自施設の職員対象の研究
Case 10 所属機関の看護師を対象としたアンケート(箕輪千佳)
1 倫理審査は必要か?
2 研究参加に強制力がはたらいていないか?
3 匿名性は確保されているか?
4 同意の撤回についてどう規定するか?
5 看護部の倫理審査委員会の位置づけは?
Case 11 看護師を対象に看護実践を聞き取るインタビュー調査(大西香代子)
1 リクルートに強制力がはたらいていないか?
2 研究対象者にも研究目的にも配慮された同意手順は?
3 インタビューで語られる患者の個人情報への配慮は必要か?
4 どんなデータをいつまで保管したらよいか?
Case 12 スタッフ教育の成果分析(前向きのケース)(箕輪千佳)
1 研修内容が同じであっても倫理審査は必要か?
2 研修参加時に学会発表への同意を受ければ問題ないか?
3 強制力の排除と匿名性の確保へどのように配慮するか?
Column 所属機関に倫理審査委員会がない場合(大西香代子)
4章 社会的に弱い立場にある者を対象とする研究
Case 13 子どもを対象とするアンケート調査(大西香代子)
1 中学生本人からのインフォームド・コンセントを受けることだけでよいか?
2 学校で実施することに問題はないか?
3 関係機関(学校,教育委員会)の同意も必要か?
4 センシティブな情報をどう聞くか?
5 調査結果を学校に伝えてよいのか?
6 量的研究のサンプルサイズは? ─研究倫理の科学的観点
Case 14 精神障害のある人びとを対象とする研究(大西香代子)
1 負担を考えて対象から外すことがつねに当事者のためになるか?
2 リクルートに強制力をはたらかせない工夫は?
3 意思決定能力をどう査定するか?
4 精神障害者のインフォームド・コンセントにおける配慮は?
5 要配慮個人情報をどう取り扱うか?
6 害が生じたときの対応は?
Case 15 学生を対象とする介入研究(大西香代子)
1 不利益に見合った利益が期待できるか?
2 介入を受けられない対照群の不利益への配慮は?
3 自分の勤める大学の学生を対象にしてもよいか?
4 説明の際の留意点は?
5 謝礼をどのように設定するか?
6 介入研究としての登録が必要か?
Column 学生の授業レポートはリッチな研究データか―学生の研究参画,学生が研究に関わること―(有江文栄)
5章 研究者の所属から生じる課題
Case 16 国内での多機関共同研究(箕輪千佳)
1 研究に協力してもらったら「研究協力機関」か?
Column 以前と違う「研究協力機関」の意味(有江文栄)
2 多機関共同研究ではどの機関で倫理審査を受けるか?
3 インタビューデータを多機関で取り扱う際の注意は?
Column 外部の倫理審査委員会への委託(箕輪千佳)
Column 企業との共同研究で,モノづくりに挑戦(福井幸子)
Case 17 海外の機関との共同研究(有江文栄・大西香代子)
1 研究実施体制をどうするか?
2 倫理審査において国内研究との違いは?
3 インフォームド・コンセントはどの国の基準に従うか?
4 海外との情報の授受の手続きは?
Column 海外から生物試料を入手して共同研究を行う場合の注意点(堀田 博)
Case 18 所属機関が変わる場合の対応(有江文栄)
1 他機関に異動する前にしておかなければならないことは?
2 研究対象者からの再同意は必要か?
3 異動先での倫理審査はどうするか?
4 データは適切に扱われているか?
6章 その他の対応
Case 19 研究対象者に関する研究結果の説明(箕輪千佳)
1 対象者に個人の結果を説明する義務があるか?
2 結果の説明方法について,研究説明書への記載が必要か?
Case 20 外部の研究者が自機関の患者に介入研究を行う場合の受け入れ対応(有江文栄)
1 受け入れる側の病院はどのような立場で研究にかかわるのか?
2 受け入れる病院側の許可や倫理審査は?
3 研究対象者のリクルートやインフォームド・コンセント取得は誰が行うか?
4 有害事象発生時の補償や対応はどうするか?
5 プライバシーや個人情報保護についてどのような配慮が必要か?
Column 看護研究:次の課題は査読の倫理(小西恵美子)
索引
序章 研究倫理の基本理念と倫理的配慮に関する概論
(有江文栄)
1 社会的及び学術的な意義を有する研究を実施すること
2 研究分野の特性に応じた科学的合理性を確保すること
3 研究より得られる利益および研究対象者への負担その他の不利益を比較考量すること
4 独立した公正な立場にある倫理審査委員会の審査を受けること
5 研究対象者への事前の十分な説明を行うとともに,自由な意思に基づく同意を得ること
6 社会的に弱い立場にある者への特別な配慮をすること
7 研究に利用する個人情報等を適切に管理すること
8 研究の質および透明性を確保すること
9 研究対象者およびコミュニティが関与できるよう努めること
1章 実践成果の報告
Case 1 事例報告(有江文栄)
1 「事例報告」は研究なのか?
2 倫理審査を行う必要があるか?
3 本人が特定できないようにすれば,同意は不要となるのか?
4 本人同意以外に必要な手続きは? ─記録の作成
5 看護記録の利用に伴うプライバシーや個人情報保護の問題は?
Case 2 業務改善の実践報告(有江文栄)
1 業務改善の実践として報告すべきか,研究へと切り替えるべきか?
2 倫理審査が必要になる場合とは?
3 自分の病院の報告であることから関係者が特定されてもよいか?
Column 研究内容が倫理審査委員会で審査されるわけ(大西香代子)
Case 3 前向き看護介入の成果報告(箕輪千佳)
1 通常の看護実践の範疇でも介入研究とされるのか?
Column ランダム化(無作為化)は可能か? 留意点は?(箕輪千佳)
2 研究の科学的妥当性はいかに判断されるか?
3 匿名性への配慮はどのようなことが必要か?
4 研究目的を明かさないで,介入を実施してはいけないか?
Case 4 学生レポートの分析(大西香代子)
1 データ収集は終わっているのに倫理審査は必要か?
2 学生と教員の立場でどう自由意思の同意を得るか?
3 匿名性への配慮はどうすればよいか?
4 既存情報の使用のみの研究でも研究対象者への謝礼は必要か?
Column 卒業生のレポートを対象とする場合(大西香代子)
2章 研究方法から見た倫理的配慮
Case 5 侵襲,リスクを伴う介入研究(有江文栄)
1 通常行っている看護介入と同等の行為であっても,侵襲ありと判断しなければならないのか?
2 研究で得られる利益と研究対象者への負担等をどのように考えるか?
3 有害事象への備えと発生した際の対応はどのようにしたらよいか?
4 研究に関する情報公開や研究対象者への情報提供はどのようにするか?
5 同意撤回が躊躇なく行われるにはどうしたらよいか?
Case 6 フォーカス・グループ・インタビュー調査(大西香代子)
1 倫理審査は必要か?
2 リクルートの際に強制力がはたらいていないか?
3 インフォームド・コンセントをどう受けるか?
4 同意撤回の機会の保障は,実際は可能か?
5 機密保持のために,研究協力者に求める事項はあるか?
6 データの保管・廃棄にはいかなる配慮が必要か?
7 研究協力者の所属施設の許可も必要か?
Case 7 ウェブでのアンケート調査(箕輪千佳)
1 インターネットを調査に使用するのに適した研究か?
2 対象者を偏りなく,信頼性も担保できるか?
Column インターネットを利用した調査研究の方法(箕輪千佳)
3 インフォームド・コンセントの方法や,同意の撤回についてはどうか?
4 ウェブ調査会社との契約における留意事項は?
Case 8 アクション・リサーチ(大西香代子)
1 利益が不利益を上回っているか?
2 計画変更に際しての倫理審査手続きは?
3 研究目的とプロジェクトの目的を考えたリクルート方法は?
4 研究の各段階でどのように説明し同意を得るか?
Column 倫理の審査?(服部俊子)
Case 9 SNSの投稿を用いて行う研究(有江文栄)
1 投稿内容は事実を語っているか?
2 研究倫理上,SNSの公開情報を投稿者の同意なく研究に使用してよいか?
3 著作権法上の観点からはどう考えるか?
4 SNSサービスを運営する企業の利用規約はどうなっているか?
3章 自施設の職員対象の研究
Case 10 所属機関の看護師を対象としたアンケート(箕輪千佳)
1 倫理審査は必要か?
2 研究参加に強制力がはたらいていないか?
3 匿名性は確保されているか?
4 同意の撤回についてどう規定するか?
5 看護部の倫理審査委員会の位置づけは?
Case 11 看護師を対象に看護実践を聞き取るインタビュー調査(大西香代子)
1 リクルートに強制力がはたらいていないか?
2 研究対象者にも研究目的にも配慮された同意手順は?
3 インタビューで語られる患者の個人情報への配慮は必要か?
4 どんなデータをいつまで保管したらよいか?
Case 12 スタッフ教育の成果分析(前向きのケース)(箕輪千佳)
1 研修内容が同じであっても倫理審査は必要か?
2 研修参加時に学会発表への同意を受ければ問題ないか?
3 強制力の排除と匿名性の確保へどのように配慮するか?
Column 所属機関に倫理審査委員会がない場合(大西香代子)
4章 社会的に弱い立場にある者を対象とする研究
Case 13 子どもを対象とするアンケート調査(大西香代子)
1 中学生本人からのインフォームド・コンセントを受けることだけでよいか?
2 学校で実施することに問題はないか?
3 関係機関(学校,教育委員会)の同意も必要か?
4 センシティブな情報をどう聞くか?
5 調査結果を学校に伝えてよいのか?
6 量的研究のサンプルサイズは? ─研究倫理の科学的観点
Case 14 精神障害のある人びとを対象とする研究(大西香代子)
1 負担を考えて対象から外すことがつねに当事者のためになるか?
2 リクルートに強制力をはたらかせない工夫は?
3 意思決定能力をどう査定するか?
4 精神障害者のインフォームド・コンセントにおける配慮は?
5 要配慮個人情報をどう取り扱うか?
6 害が生じたときの対応は?
Case 15 学生を対象とする介入研究(大西香代子)
1 不利益に見合った利益が期待できるか?
2 介入を受けられない対照群の不利益への配慮は?
3 自分の勤める大学の学生を対象にしてもよいか?
4 説明の際の留意点は?
5 謝礼をどのように設定するか?
6 介入研究としての登録が必要か?
Column 学生の授業レポートはリッチな研究データか―学生の研究参画,学生が研究に関わること―(有江文栄)
5章 研究者の所属から生じる課題
Case 16 国内での多機関共同研究(箕輪千佳)
1 研究に協力してもらったら「研究協力機関」か?
Column 以前と違う「研究協力機関」の意味(有江文栄)
2 多機関共同研究ではどの機関で倫理審査を受けるか?
3 インタビューデータを多機関で取り扱う際の注意は?
Column 外部の倫理審査委員会への委託(箕輪千佳)
Column 企業との共同研究で,モノづくりに挑戦(福井幸子)
Case 17 海外の機関との共同研究(有江文栄・大西香代子)
1 研究実施体制をどうするか?
2 倫理審査において国内研究との違いは?
3 インフォームド・コンセントはどの国の基準に従うか?
4 海外との情報の授受の手続きは?
Column 海外から生物試料を入手して共同研究を行う場合の注意点(堀田 博)
Case 18 所属機関が変わる場合の対応(有江文栄)
1 他機関に異動する前にしておかなければならないことは?
2 研究対象者からの再同意は必要か?
3 異動先での倫理審査はどうするか?
4 データは適切に扱われているか?
6章 その他の対応
Case 19 研究対象者に関する研究結果の説明(箕輪千佳)
1 対象者に個人の結果を説明する義務があるか?
2 結果の説明方法について,研究説明書への記載が必要か?
Case 20 外部の研究者が自機関の患者に介入研究を行う場合の受け入れ対応(有江文栄)
1 受け入れる側の病院はどのような立場で研究にかかわるのか?
2 受け入れる病院側の許可や倫理審査は?
3 研究対象者のリクルートやインフォームド・コンセント取得は誰が行うか?
4 有害事象発生時の補償や対応はどうするか?
5 プライバシーや個人情報保護についてどのような配慮が必要か?
Column 看護研究:次の課題は査読の倫理(小西恵美子)
索引















