やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

特集にあたって
 ご存じの通り,痙縮(spasiticity)は,Lanceら(1980)によって「腱反射亢進を伴った緊張性伸張反射(tonic stretch reflex)の速度依存性増加を特徴とする運動障害で,伸張反射の亢進の結果生じる上位運動ニューロン障害の一徴候」であるとされている.この定義によると,痙縮は,筋緊張そのものの異常をとらえた神経学的な症候である.
 しかし,リハビリテーション医療の臨床で問題になるのは,神経学的症候の1つである痙縮そのものではなく,痙縮によって患者のさまざまな運動や動作が妨げられることである.痙縮のある状態で,運動療法を行うと上肢の屈曲や内反尖足等が生じ,それが長期間続くと関節拘縮,関節変形をきたし,結果的にさまざまな日常生活活動に支障が出てしまう症例や,安静時には痙縮はないか,あっても軽度なのに,更衣をしようとすると上肢の痙縮が増強し肘・手・手指関節が屈曲し更衣ができない症例,起立や歩行を始めると同時に,痙縮が増強し内反尖足となり,起立や歩行ができなくなる症例をよく経験する.
 こうした痙縮に起因する運動障害は,Spastic Movement Disorder(SMD)とよばれており,筋痙縮という神経症候のみをとらえたものではなく,それに伴う運動機能の障害を含み,日常生活活動への障害を含めた広範な概念でもあり,「活動を育む」リハビリテーション医療にとって重要な概念である.痙縮治療は,2010年にわが国においてA型ボツリヌス菌毒素製剤の承認がなされて以来,大きく進歩した.また,その効果を最大限に引き出していくためには,リハビリテーション医療が不可欠であり,運動療法,装具療法,その他の治療法を組み合わせることが重要である.今回は,痙縮のみに留まらず,痙縮をSMDという概念から捉えなおし,長期的なケアや多角的な治療を含めて,総合的なリハビリテーション治療の道筋を解説する企画である.
 この企画をきっかけにして,わが国のリハビリテーション医療の中に,Spastic Movement Disorder(SMD)という考え方が広く浸透することを願っている.
 (編集委員会 企画担当:川手信行)
特集 Spastic Movement Disorder(SMD)に対する総合的リハビリテーション治療
 特集にあたって(川手信行)
 痙縮の病態(佐々木信幸)
 痙性運動障害(SMD)とは(山口智史)
 SMDに対するボツリヌス療法(勝谷将史)
 SMDに対する運動療法と装具療法(髙橋忠志)
 SMDに対する拡散型圧力波治療(中島勇二 菅原英和)
 生活期におけるSMDの理解と予防戦略(杉山みづき 川手信行)

【新連載】Muscle Health―多職種連携で拓く包括的介入の最前線
 1.世界が合意した「Muscle Health」新概念:三本柱の統合的理解と臨床応用(吉村芳弘)

連載
リハなひと
 リハビリ当事者 藤井佳奈さん

巻頭カラー デジタルフロンティア:次世代技術の展望
 5.3Dスキャンと3Dプリンティング(川﨑善徳 篠塚慶介)

支援機器の現在と未来-普及に向けた取り組み
 3.移乗支援~自立支援と二次障害予防 労働安全を考慮して~(下元佳子)

最新版! 摂食嚥下機能評価―スクリーニングから臨床研究まで
 17.咽頭高解像度マノメトリー(P-HRM)(青柳陽一郎)

知っておきたい! がんサポーティブケア
 10.がん治療に伴う口腔粘膜障害(上野尚雄)

おさえておきたい転倒・転落予防の基本知識と現場での応用
 13.セッティング別の転倒・転落時の救急対応(全 剛史 安本有佑)

“こんなときどうする?” リハビリテーション臨床現場のモヤモヤ解決! 令和版
 リハビリテーション科専門医取得後のキャリアアップ編(2)各種指導士(三浦平寛)

回復期リハビリテーション病院・チームでキャリアアップ―私たちの院内研修
 5.リスク管理研修:インシデントレポート,KYT,振り返り研修の実際(永田智子 筒井伸哉・他)

リハビリテーション関連学会に行ってみよう!
 5.日本リハビリテーション医療デジタルトランスフォーメーション学会(川上途行 近藤国嗣)

臨床研究
 大腿骨頚部骨折に対する短外旋筋共同腱温存法による人工骨頭置換術後の回復期リハビリテーションの検討(伊藤匡佑 丸木秀行・他)

臨床経験
 歩行アシスト機器により歩行自立を獲得した頚椎硬膜外膿瘍手術後の1例─回復期病床での臨床経過(福田和浩 氷室直之・他)

 開催案内
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