やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

巻頭言
 日本が超高齢社会に突入してから早10年以上が過ぎたが,いまだ高齢化率は上昇の一途をたどっている.これまで一般的であった「20年学び,40年働き,20年休む」という「教育・仕事・老後」の3段階での人生設計は,100歳まで生きることも稀ではない社会では年齢による区切りがなくなり,人生における選択肢は多様化すると予想される.「老後」の捉え方も,健康寿命を延ばすことの重要性が叫ばれ,いまや「フレイル予防」という言葉は医療・介護の現場で耳にしない日はなく,一般にまで広く浸透した.
 令和元年版『高齢社会白書』によると,要介護者等の中で介護が必要になった主な原因の上位は「認知症」「脳血管疾患(脳卒中)」「高齢による衰弱」であった.これらはいずれも日常的な栄養と食事への配慮を放置しておくと,あっという間に低栄養状態となりフレイルを進行させてしまう病態である.加えて,持病として糖尿病や慢性腎不全などその他の疾病を複数抱えている人は多く,そのための食事への配慮は一層複雑である.
 日本人の平均寿命は第二次世界大戦後より急速に伸びたため,現在の高齢者は自身らが子どものころには身近に滅多にはいなかった年代を過ごしている.私が普段接している在宅高齢者は「自分がこんなに生きるとは思わなかった」とよく口にされる.そして多くはその言葉を悲しげに発せられる.おそらく彼らは,高齢期をどう過ごすか先駆者として模索している最中であり,その彼らを支える私たちもまた,高齢期になっても心身ともに健康に(けして病気をしないという意味ではない)過ごすにはどのような知識と技術が必要なのかを模索している最中である.
 この『新 在宅訪問栄養実践ガイド』は,2016年に初版を『在宅訪問栄養ハンドブック』(自費出版)という形で発刊した.法改正等による修正を加えて今回内容をさらに見直し,改訂版として発刊されることになった.当初から,訪問栄養指導を始めたいが出来ない方やすでに始めてはいるが行き詰っている方など,在宅訪問栄養指導について模索している方々の手助けとなることを目的として作られた.今回は同様の視点に加えて,具体的な症例を多数紹介することで,より訪問栄養指導の実際をイメージしやすいよう検討を重ねて作られている.症例のなかで用いられているアセスメント法は「スリーステップ栄養アセスメントNA123(エヌエーワンツースリー)」の名称で本研究会より編み出されたものである.この詳細は『スリーステップ栄養アセスメント(NA123)を用いた 在宅高齢者食事ケアガイド』を参照していただきたいが,在宅現場でどの専門職でも簡便に栄養アセスメントが行え,低栄養の早期発見に有用である.
 本研究会はこのガイドブックが在宅療養高齢者へのより良い訪問栄養指導へつながる一助となるよう願っている.
 2020年8月
 在宅チーム医療栄養管理研究会
 代表 村上奈央子
 巻頭言
 本書の使い方
1 ケーススタディで学ぶ訪問栄養指導
 case 01 もう一度口から食べたい・食べさせたい(佐藤悦子)
 case 02 食べることが好きな糖尿病・パーキンソン病の独居高齢者の食支援(川戸由美)
 case 03 糖尿病・腎不全だが「透析したくない」をチームで支援(川戸由美)
 case 04 併診患者における医師間の橋渡しを管理栄養士が担った例(矢治早加)
 case 05 複数の専門医がいるなかで,リハクッキングで信頼関係を得た(佐藤良子)
 case 06 医師に必要性を理解されず指示書を書いてもらえない(村上奈央子)
 case 07 グループホームでの薬剤師が誘導した多職種連携(齋藤拓道)
 case 08 言語聴覚士と連携を図った例(矢治早加)
 case 09 歯科が介入し,管理栄養士と協働で栄養管理を行った例(山川 治)
 case 10 糖尿病で高度肥満があり,脳出血で片麻痺の方の生活支援(市原幸文)
 case 11 栄養療法を含め総合的アプローチを早期から行った在宅褥瘡の例(塚田邦夫)
 case 12 脳梗塞後摂食困難者の「口から食べたい」の希望に訪問看護師とチームで連携(丸山たみ)
 case 13 経管栄養の例(三瓶直美)
 case 14 中心静脈栄養療養者に食べる楽しみを(奥村眞理子)
 case 15 看取りと医師との連携(三瓶直美)
 case 16 終末期の糖尿病性腎症独居男性(奥村眞理子)
2 制度―訪問栄養指導
 1 制度について(宮本真理子)
 2 病院・クリニックに所属する常勤または非常勤の管理栄養士が,医療保険で訪問栄養指導を実施する場合(矢治早加)
 3 病院・クリニックに所属する常勤または非常勤の管理栄養士が,介護保険で訪問栄養指導を実施する場合(矢治早加)
 4 管理栄養士が医療機関と雇用契約をして在宅訪問する場合(村上奈央子)
 5 管理栄養士が栄養ケア・ステーションから在宅訪問する場合(奥村眞理子)
 6 その他(行政)(奥村眞理子)
3 心構え
 1 はじめに(丸山たみ)
 2 安心感と信頼関係をつくるためには(丸山たみ)
 3 在宅で要求されるのは寄り添うこと・よく聞くことから(丸山たみ)
 4 本人から本音や希望を聞き出す(丸山たみ)
 5 在宅利用はずっと続く:ゆったりと接する(丸山たみ)
 6 最初は管理栄養士の専門性はむしろ出さない(市原幸文)
 7 世間話と笑顔が重要(継続支援のために)(市原幸文)
 8 何でも屋に徹することが大切,労を惜しまない(佐藤良子)
 9 現役でなくても子育てや介護を経験した管理栄養士は訪問栄養指導に向いている(影山光代)
 10 医師との接し方(佐藤悦子)
 11 初回訪問前に「基本情報」をまとめる(佐藤悦子)
4 栄養アセスメント
 1 スリーステップ栄養アセスメント(NA123)の使い方(塚田邦夫)
 2 MNA(R)-SF(Mini Nutritional Assessment Short Form:簡易栄養状態評価表)(三瓶直美)
 3 在宅で行う身体計測(三瓶直美)
 4 薬剤チェック(齋藤拓道)
 5 フィジカルアセスメントの実際(蓮村幸兌)
 6 簡単に行える摂食嚥下評価法(山川 治)
 7 日本摂食・嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類2013(学会分類2013)(影山光代)
5 在宅訪問で知っておきたい知識
 1 食事介助の基本(矢治早加)
 2 姿勢調節の方法(村島久美子)
 3 おむつの替え方(三廼利美)
 4 在宅における緊急事態への対応(塚田邦夫)
6 訪問栄養指導の実際
 1 水分摂取法の実際(川戸由美)
 2 エネルギーアップの方法(川戸由美/三瓶直美)
 3 たんぱく付加の方法(川戸由美/三瓶直美)
 4 摂食嚥下訓練法(鈴木 衛)
 5 訪問管理栄養士の携行品(持参するバックの中身)(川戸由美)
7 在宅チーム医療栄養管理研究会について
 (村上奈央子)

 付表