やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 わが国はすでに世界に冠たる長寿国の一つですが,私たちの望みは単に寿命が長いことでなく,介護のお世話になることなく自立した生涯を過ごすこと,すなわち健康寿命を延ばすことです.健康寿命の延伸は私たちの生活の質の向上だけでなく,わが国の医療費の削減や労働力の確保に貢献し,持続可能社会の実現に寄与すると考えられています.
 健康寿命の延伸を阻害する要因として,脳卒中や心筋梗塞といった疾患やその要因となるメタボリック症候群(メタボ)が注目され,これまで特定健診・特定保健指導などの生活習慣病対策が取り組まれてきました.さらに近年では,運動器の機能低下であるロコモティブ症候群(ロコモ)や,加齢とともに心身の活力が低下したフレイルの予防・改善も健康寿命の延伸に重要であるといわれています.ロコモやフレイルもメタボと同様,身体活動・栄養などの生活習慣や社会とのつながりなどの生活環境の改善により,予防・改善が可能であることがわかってきました.
 健康寿命の延伸のために,管理栄養士は栄養・食事の専門家としてこれまで以上の役割が期待されています.一方で,栄養・食事の改善だけでメタボとフレイルを予防・改善させることは困難であり,栄養・食事以外の身体活動・運動や生活環境に関する知識と指導技術が求められるようになってきました.また,食事(エネルギー摂取)と体を動かすこと(エネルギー消費)は表裏一体であり,さまざまな医療職の中でも管理栄養士には,身体活動・運動に関する知識がもっとも求められます.
 昨今では,一般生活者の健康づくりへの関心の高まりとともに,多くの情報が氾濫しています.一般生活者は,手軽な方法を求める傾向にあり,このような心理につけ込んだ商業行為も散見されます.しかし,健康づくりには科学的な正しい取り組みの,日々の積み重ねが欠かせません.だからこそ,管理栄養士は一般生活者に対し,正しい知識に基づいた情報提供と指導が求められます.
 本書は,栄養・食事の専門家である管理栄養士が,健康寿命延伸のための正しい情報提供や指導のための身体活動・運動に関する正しい知識と技術について学ぶことを目的としています.内容として,身体活動・運動によるメタボやフレイルの予防・改善効果のエビデンスやその生理・生化学的背景といった理論編と,指導現場における身体活動・有酸素性運動・筋トレ・ヨガなどの指導の実際に役立つ実践編から構成されています.最前線で活躍する専門家の先生方に,わかりやすい言葉と動きの理解を助ける図版を用いて執筆していただきました.本書が読者の皆様のよりよい身体活動・運動指導につながることを祈念しています.
 医薬基盤・健康・栄養研究所
 身体活動研究部長 宮地元彦
 序
おさえておきたい 理論編
なぜ,管理栄養士が身体活動支援を行うのか
 (宮地元彦)
 身体活動・運動の定義と評価法
 管理栄養士に必要な身体活動・運動に関する知識とスキル
 身体活動と食事,両方の指導が必要
 運動生理学・生化学の基礎
 まとめ
メタボ・フレイルと健康寿命
 (津下一代)
 健康寿命の動向と必要な対策
 メタボ・フレイルと健康寿命
 ライフステージとエネルギー収支バランス
 メタボと特定保健指導
 フレイルと保健事業(高齢者の保健事業と介護予防の一体的実施)
 まとめ
メタボとフレイルのアセスメント
 (吉田 司・山田陽介)
 はじめに
 メタボの判定
 フレイルの判定
 ロコモの判定
 サルコペニアの判定
疾患予防と改善のための身体活動のエビデンス
 肥満(中田由夫)
  肥満とは?
  肥満改善に向けて
  まとめ
 高血圧(前田清司・崔 英珠)
  高血圧
  高血圧と心血管疾患リスク
  運動と高血圧
  高血圧の発症機序
  運動による高血圧の予防・改善の機序
  高血圧の予防・改善のための運動プログラム
 認知機能低下(島田裕之)
  健康寿命と認知症
  運動による認知機能向上のメカニズム
  運動と認知機能の関係(観察研究)
  運動による認知機能の向上(介入研究)
  複合的介入による認知機能の向上
  運動による認知症発症抑制
  進行予防としての認知症に対する運動療法
  今後の課題
 サルコペニア(山田 実)
  サルコペニアとは
  サルコペニアの要因
  サルコペニアの判定
  骨量の評価
  筋質の評価
  サルコペニアの筋の特徴
  加齢による影響
  サルコペニアに対する介入
  おわりに
座りすぎの実態・悪影響とその対策
 (岡 浩一朗)
 はじめに
 日本人における座りすぎの実態
 座りすぎの悪影響
 座りすぎ対策の現状
 おわりに
やってみよう! 実践編
さあ,からだを動かしてみましょう
 (宮地元彦)
 わが国の身体活動・運動の現状
 身体活動・運動の重要性
 身体活動・運動支援実施における安全対策
 生活活動を増やすメリット
その気にさせる支援法
 (原田和弘)
 運動・身体活動は習慣化がむずかしい
 その気にさせる支援のポイント1:習慣化を段階的にとらえる
 その気にさせる支援のポイント2:実際面と感情面の両方から支援を行う
 その気にさせる支援のポイント3:その気になる決め手の違いを考慮する
 その気にさせる支援のポイント4:運動・身体活動のよい面に目を向ける
 その気にさせる支援のポイント5:時間的な負担感を考慮する
 その気にさせる支援のポイント6:無理なく上手に続けるコツをつかむ
 その気にさせる支援のポイント7:継続への自信を高める支援をする
日常生活でできる消費エネルギーアップ
 (田中茂穂)
 身体活動によるエネルギー消費量の大きさと内訳
 生活活動の重要性
 身体活動量のアセスメント
 メッツ(metabolic equivalent:MET)
 生活活動の実践例
有酸素性運動―ウォーキングとジョギング
 (坂本 誠)
 はじめに
 自分に合った運動強度の見つけ方と運動処方に役立つメッツ
 ウォーキング
 ジョギング(スロージョギング)
 いろいろなウォーキングとランニング
 安全対策
 Coffee break 楽しむことも一歩一歩!
レジスタンストレーニング
 (谷本道哉)
 レジスタンストレーニング実施の基本と注意点
 器具を使わない10種目のレジスタンストレーニング
ヨガとストレッチング
 (綿本 彰)
 ヨガやストレッチング実施の基本と注意点
 誰にでもできる簡単な10種目のポーズ紹介

 索引