やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 糖尿病療養においては,治療に適応した生活習慣の是正または変容が重要となる.なかでも食事療法は,代謝性疾患である糖尿病の治療の要となり,「療養指導」の大きなウエイトを占める.しかし,療養生活の主体となる患者の食にかかわる価値観や食習慣・食環境は多様化し,療養指導の内容も多岐にわたり,療養指導を進めるなかで,「療養指導をどこまですべきか?」「どのようにすべきか?」「はたして治療の成果はあるのか?」など,葛藤や燃え尽きることが,時としてある.
 本書は,日常診療や療養指導にあたり,糖尿病療養を進めようとする患者を主体にした疑問や質問をQuestionとし,これにAnswerしたプラクティカルな解説書である.実践編のQuestion29項目は,食事療法の基本,難渋する嗜好への対応,食事療法と車の両輪の運動療法,そして薬物療法,さらには療養環境の整備に対応した実践的な質問をとりあげた.
 QuestionへのAnswerを導くエビデンスに乏しい実践編では,執筆者による自身のプラクティカルな症例の集積より得られた貴重な療養指導,あるいは療養指導にかかわるエビデンスの検索に苦慮いただき,Answerを解説いただいた.これらのAnswerにより療養指導のノウハウを横断的に示し,「なぜ,このことを指導する必要があるのか?」「患者主体の嗜好に対応してよいのか?」「患者の満足度にどこまで対応するのか?」などについて,療養指導での葛藤や燃え尽きにも応答し,実践へと活用できるようにすることをめざした.
 本書の刊行が,日常の診療,そして,療養指導に役立つものと確信している.幸いにも,糖尿病診療の第一線の医師,各領域で高い専門性をもつ療養指導士の諸先生により,ご多忙ななかでの執筆が叶い,本書の刊行に至った.ここに改めて,深甚の謝意を申し上げる次第である.
 最後に,刊行までに多くのご助言とご厚情を賜った医歯薬出版編集部の各位 に,心より御礼申し上げたい.
 平成26年 雨に映える紫陽花を眺め
 編者を代表して 村上文代・本田佳子
 序文

食事療法の基本と最新の話題
 Q-1 3食の配分を均等にすることや,食事時間を規則正しくすることがなぜ重要なのですか?現実の生活では難しいのですが,どのようにしたらよいでしょうか?(村上文代)
 Q-2 働き盛りの元気な患者に,適正なエネルギー摂取など食事療法の実践について,どのように指導をしていくべきでしょうか?(戸田明代,山本育子)
 Q-3 病識もなく食事療法もしない患者を,どのように指導していったら,うまくいくのでしょうか?(小野百合)
 Q-4 幼児期・学童期の1型糖尿病への食事療法の指導は,どのように進めたらよいのでしょうか?(食育,子ども同士の関係,幼稚園・学校,保護者などへの協力,体制づくりなど)(山本育子,戸田明代)
 Q-5 カーボカウントとは何ですか?低炭水化物食との違いを教えてください(佐野喜子)
 Q-6 カーボカウントはどのような患者に(2型糖尿病,子ども,高齢者など),どのように使うのが効果的でしょうか?(佐野喜子)
 Q-7 70・80歳代発症の糖尿病患者と糖尿病患者が高齢になったのとでは,食事療法は異なるのでしょうか?また,70・80歳代の高齢者に厳しい食事療法をする必要があるのでしょうか?(荒木 厚)
 Q-8 栄養指導の導入のタイミング,初期指導と継続指導のポイントは?(土江節子)
 Q-9 糖尿病の栄養指導にカウンセリングの技法は必要なのでしょうか?また,それにはどのような技法があるのでしょうか?(金内則子)
難渋する嗜好への対応
 Q-10 欧米化した食生活が糖尿病患者の増加の一因とされていますが,洋風料理が好きな患者に,和風料理に変えさせる必要があるのでしょうか?(本田佳子)
 Q-11 糖尿病患者が陥りやすい民間療法・健康食品の多用者への指導・管理はどうしたらよいのでしょうか?(佐久間未季,小野百合)
 Q-12 アルコールは飲んでもよいのでしょうか?なぜ禁酒させられるのでしょうか?どのくらいの量なら許されるのでしょうか?(岸谷 讓)
 Q-13 どのようなアルコールの飲み方ならよいのでしょうか?主食の代わりにアルコールを飲んでもよいのでしょうか?エネルギーの少ない蒸留酒ならよいのでしょうか?(岸谷 讓)
 Q-14 たばこはなぜいけないのですか?やめようとしない患者への指導はどうしたらよいのでしょうか?(中村正和)
 Q-15 宅配食の利用を希望する患者への指導・管理は,どのように行うのでしょうか?(塚田芳枝)
 Q-16 外食を日常的に利用する患者への指導・管理は,どのように行うのでしょうか?(塚田芳枝)
 Q-17 果物が我慢できない患者の嗜好や満足感に対応する方法を教えてください(穴倉弘枝)
 Q-18 菓子が我慢できない患者の嗜好や満足感に対応する方法を教えてください(穴倉弘枝)
運動療法への理解
 Q-19 運動はどのような効果があるのでしょうか?食事療法との併用はどのように指導するのがよいのでしょうか?(本田寛人)
 Q-20 糖尿病患者にはどんな運動療法が適しているのでしょうか?種目,強度,時間などを具体的に教えてください(井垣 誠)
 Q-21 70・80歳代の高齢者にも運動をすすめるのですか?どんな運動なら可能でしょうか?(小池日登美,荒木 厚)
薬物療法への食事療法の対応
 Q-22 薬物療法が始まった患者に,食事療法の内容変更は必要でしょうか?また,薬物の種類により考慮すべきことはありますか?(菅野宙子)
 Q-23 インスリン療法が始まった患者に,食事療法の内容変更は必要でしょうか?インスリン療法の特性と食事療法との関係を教えてください(佐藤麻子)
 Q-24 シックデイでの食事療法はどのようにしたらよいのでしょうか?薬物療法中の患者への対応はどのようにしたらよいのでしょうか?(山下滋雄)
 Q-25 低血糖を頻発する患者への対応はどのようにしたらよいのでしょうか?(山下滋雄)
 Q-26 精神障害を合併した患者への栄養指導はどのようにするのでしょうか?(寒河江豊昭)
療養環境の整備
 Q-27 糖尿病教室の効果的な運営方法について教えてください(土江節子)
 Q-28 調理実習,バイキング体験の上手な指導方法を教えてください.また,それを行うことが,患者指導になぜ有効なのでしょうか?(安原みずほ)
 Q-29 透析予防指導の効果的な取り組みについて教えてください.また,実践に向けてどのような準備が必要ですか?(佐藤敏子)

 索引