やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 栄養ケアマネジメントの実際では,最初の方向性,見定めは非常に重要であり,管理栄養士の基本的なスキルであるといえます.予後を見据えたアセスメントを行うためには,何が重要なのか,どのようなトレーニング(スキル)が必要かを,本書は特集しました.
 スクリーニングが開始され,次いでさまざまな情報によってアセスメントし,問題点の検討が進められます.ときには,検査値や身体データのみの情報でシステマチックに行われる場合もありますが,最初の方向性,見定め,予後の予測が的確であることで,システマチックな迅速性の意義を発揮できます.
 今回の特集では,栄養不良がともなう疾患として,呼吸器疾患,摂食・嚥下機能障害,褥瘡,血液疾患などを取り上げています.これらの疾患の中には予後不良の疾患も含まれ,患者やその家族を取り巻く状況を把握することが求められ,チーム医療(コミュニケーション能力)が必須となってきます.昨今では,電子カルテが導入される施設も増えており,さまざまな情報が居ながらにして入手できる環境となりました.しかし実際には,患者に会って言葉を交わし,ときには身体に触れ,病棟における他職種から情報を得ることが,治療上の問題解決となります.本書の「症例の栄養ケアマネジメント」の項では,このことの実際を理解できると確信しております.
 一方で,本書で取り上げた疾患は,生活習慣病などに代表されるような栄養療法のエビデンスが確立されたものが少なく,編集には苦慮いたしました.しかし,極力,臨床上汎用されている治療法ならびに栄養療法をとらえて整理いたしました.さらに,経過に対応した治療プロセス,治療効果あるいは症状ならびに病態の沈静化,QOLの改善などを解説し,治療への大局的な視点を養えるようにいたしました.疾患の原因や転帰などを解説し,患者がどのような状況にあるのか,そして今後どのような治療が行われ,どのようなことが予測できるのか,管理栄養士の視点,医師や他職種の視点も加えました.
 平成24年4月の診療報酬の改定では,栄養管理実施加算が入院基本料に盛り込まれ,必須項目となりました.特別な栄養管理の有無についても,見極めが重要視されてきます.患者のスクリーニングとアセスメントという基本ラインで土台がある程度築きあげられることになります.栄養の専門家として,さらに選択・集中してケアしなければいけない患者はどのような患者であるのか,一連の診療の中での効率化が求められています.
 本書で取り上げた疾患は,変化する病態に対応したケアプランが重要となります.本書が,その対応への“見極め力”を養う手助けになればと願っています.
 平成24年7月
 本書の編者を代表して 岩川裕美

企画の序
 疾患ごとに治療が異なるように,治療の一つとして位置する栄養ケアも,また異なります.そして,同一の疾患であっても病態や病期,合併症,重複する疾患や,対象となる患者の栄養状態や身体状況,社会経済などの生活環境に対応し,栄養ケアは行われます.
 このような様々な患者への栄養ケアの実践にあたり,症例経験の少ない管理栄養士は,「必要な情報を得るためにカルテから何を読むのか」「栄養評価の手順はどのように進めるのか」「各疾患に特化した治療目標をどのように設定するのか」「栄養ケアのアウトカムは何をめざすのか」,さらには「アウトカムをモニタリングするための留意点」などについて戸惑い,かつ困惑します.
 今回の「栄養ケアマネジメントファーストトレーニングシリーズ」は,様々な患者への栄養ケアの第一歩を踏み出すための実践力を養うべく企画されたシリーズです.
 「1.代謝・内分泌疾患」から始まり,「2.循環器・腎疾患」,そして今回の「3.呼吸器疾患,摂食・嚥下障害,褥瘡,他」「4.消化器癌」「5.消化管・消化器疾患」と続く全5冊で構成されます.栄養ケアが求められ,また期待されている多くの疾患を網羅し,各疾患の治療についての基礎知識,栄養管理上の問題,そして栄養ケアマネジメントの実際について解説しています.
 さらに,各疾患のケースレポートでは,[STEP1]栄養アセスメント,[STEP2]栄養診断,[STEP3]栄養ケア計画と実践,[STEP4]栄養ケアの評価,をフローチャートで示し,疾患への栄養ケアの特性をクローズアップさせ,栄養ケアマネジメントへの思考プロセスのトレーニングとなることを狙いました.
 本書を読み進むと,症例への栄養ケアマネジメントのイメージトレーニングから始まり,緊急性や重要性の優先順位,薬物・運動療法,あるいは外科・化学療法など,集学的治療へとセカンドトレーニングに助走していることに気づかれることでしょう.
 平成24年7月
 シリーズの編者を代表して 本田佳子
1 慢性閉塞性肺疾患の栄養ケアマネジメント(岡本智子)
 カルテを読む 栄養評価 治療目標・治療アウトカムの設定 モニタリング 栄養ケアマネジメントの実際
  Case Report 症例1 慢性閉塞性肺疾患
2 肺癌の栄養ケアマネジメント(川口美喜子)
 カルテを読む前に─治療の基礎知識 カルテを読む 栄養評価 治療目標の設定 栄養アウトカムの設定 モニタリング 栄養ケアマネジメントの実際
  Case Report 症例2 肺癌
3 摂食・嚥下機能障害の栄養ケアマネジメント(巨島文子)
 カルテを読む前に─治療の基礎知識 カルテを読む 嚥下・栄養評価 治療目標・治療アウトカムの設定 モニタリング─リスクマネジメント 栄養ケアマネジメントの実際
  Case Report 症例3 脳梗塞急性期で高次脳機能障害をともなう摂食・嚥下機能障害(今田智美・大和さゆり)
  Case Report 症例4 多発性脳梗塞(偽性球麻痺)による摂食・嚥下機能障害(木村 幸・澤 真澄・大和さゆり)
  Case Report 症例5 ワレンベルグ症候群(球麻痺)による摂食・嚥下機能障害(木村 幸・澤 真澄・大和さゆり)
4 褥瘡の栄養ケアマネジメント(銅山紀江)
 カルテを読む 栄養評価 治療目標・治療アウトカムの設定 モニタリング 栄養ケアマネジメントの実際
  Case Report 症例6 褥瘡
5 ALSの栄養ケアマネジメント(岩川裕美)
 カルテを読む前に─治療の基礎知識 カルテを読む 栄養評価 治療目標の設定 治療アウトカムの設定 モニタリング 栄養ケアマネジメントの実際
  Case Report 症例7 ALS
6 食物アレルギー の栄養ケアマネジメント(高橋美惠子)
 カルテを読む 栄養評価 治療目標の設定 治療アウトカムの設定 モニタリング 栄養ケアマネジメントの実際
  Case Report 症例8 食物アレルギー
7 骨粗鬆症の栄養ケアマネジメント(田中 清)
 カルテを読む 栄養評価 治療目標の設定 治療アウトカムの設定 モニタリング 栄養ケアマネジメントの実際
  Case Report 症例9 骨粗鬆症にともなう多発脊椎圧迫骨折(桑原晶子・高岡宏子)
8 サルコペニアの栄養ケアマネジメント(若林秀隆)
 カルテを読む前に─治療の基礎知識 カルテを読む 栄養評価 治療目標の設定 治療アウトカムの設定 モニタリング 栄養ケアマネジメントの実際
  Case Report 症例10 加齢によるサルコペニア(金杉恵里)
  Case Report 症例11 慢性心不全によるサルコペニア(金杉恵里)
9 血液疾患の栄養ケアマネジメント(鶴見田鶴子)
 カルテを読む 栄養評価 治療目標・治療アウトカムの設定 モニタリング 栄養ケアマネジメントの実際
  Case Report 症例12 鉄欠乏性貧血
  Case Report 症例13 再生不良性貧血
10 認知症の栄養ケアマネジメント(遠藤英俊)
 カルテを読む前に─治療の基礎知識 カルテを読む 認知・栄養評価 治療目標・治療アウトカムの設定 モニタリング 栄養ケアマネジメントの実際
  Case Report 症例14 アルツハイマー型認知症(金子康彦)