やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

第7版改訂の序
 医療制度改革の一環として,2008年度(平20)から生活習慣病対策のあり方が大きく変わろうとしている.そのポイントは,生活習慣病有病者・予備群を25%減少するという目標を掲げ,その手立てとしてメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)の概念を導入して医療保険者に健診・保健指導を義務化し,生活習慣病予防施策を強化していることである.
 この改革は,社会保障制度を一体的に改革する中で,年金改革,介護保険改革に続く大改革の仕上げとなるものである.その背景としては,今後,これまでに例のない人口減少社会を迎えるわが国が,明るく活力のある超高齢社会を構築していくためには,治療重視から予防重視へと軸足を移す必要性が緊急の課題であったことがあげられる.
 この経過を公衆栄養の観点からみてみると,2000年(平12)の栄養士法の改正,2002年(平14)の健康増進法の制定,2005年(平17)の介護保険法の改正がベースにあり,一連の流れの中での改革であったことが伺われる.すなわち,栄養士法の改正では管理栄養士業務の改革,健康増進法の制定では“健康日本21”を核とする国民の健康づくりの法的基盤整備,介護保険法の改正では予防重視型システムへの転換である.これらはヘルスプロモーションの概念に基づく住民一人ひとりの自己実現を基本としており,その力量形成を管理栄養士・栄養士が支援していくという構図になっている.
 このような制度改革の激動期を直前にして,今回,本書を大幅に改訂した.公衆栄養学は,地域で生活しているさまざまな人々の健康とQOLの向上に寄与する学問である.管理栄養士・栄養士は,このような激動期の多方面の新しい潮流を敏感に読み取り,新たな健康課題に機敏に対応できる能力を備えておくことが今まで以上に重要となる.
 このため,本書では,管理栄養士養成施設の新カリキュラムで公衆栄養学の基本的考え方として示された,“地域や職域等における保健・医療・福祉・介護システムの栄養関連サービスに関するプログラムの作成・実施・評価を総合的にマネジメントする能力”の涵養を目指すとともに,管理栄養士国家試験出題基準を順守した内容とした.
 管理栄養士・栄養士の業務は応用的・創造的なものであり,それゆえに面白さがある.管理栄養士・栄養士の養成テキストとして,また実務書として本書が活用され,管理栄養士・栄養士が社会に真に求められる存在となることを願ってやまない.
 終わりに,本書の改訂にあたり,多大なるご協力をいただいた医歯薬出版に厚くお礼を申し上げる.
 2007年3月吉日
 編者 沖増 哲

はじめに
 「公衆栄養」が栄養士養成施設での教科目として採用されてから22年を経過し,いま大きな転換期を迎えようとしている.
 それは少子・高齢化社会と環境問題を目前にして,その目的である健康づくりが住民参加型のヘルスプロモーション,さらにはウエルネスへと転換し,それへの地域ぐるみの新しい対応が求められてきたことである.そしてそのためには地域で働く栄養士や栄養ボランティアの意識改革とそれに即した活動が必要で,その体制をどう構築していくかがこれからの大きな課題である.「方法を生み出す栄養士」への期待と併せて,これからの公衆栄養学にそれが求められる.
 本書は現在,栄養士養成施設で公衆栄養学を担当している者と管理栄養士として公衆栄養活動に従事している者らによる共著である.上記のような主旨にそってこれからの「公衆栄養」に大きな期待を込めて,各章を分担執筆している.
 脱稿したうえで読み返してみると,初めの意図がどれだけ達成されたかと反省される点もある.また専門の立場からは行き届かない点や不備の点も指摘されると思う.これらの点については読者諸賢ならびに同学の士のご批判とご叱正を待ちたい.なお執筆に当たっては多くの著書・論文等を参考にしたが,なかでも巻末に記した文献には負うところが多い.これらの著者各位に深く謝意を表する.
 終わりに,本書の出版にご理解を賜り出版の労をとられた医歯薬出版株式会社に深くお礼を申しあげる.
 平成8年1月20日
 編者 沖増 哲
 第7版改訂の序
 はじめに
Chapter 1 これからの公衆栄養学を求めて
 1.公衆栄養学の概念
  1)学際科学としての公衆栄養学
  2)公衆栄養のパラダイム(思考の枠組み)
  3)環境とそのシステムモデル
  4)食生活と環境との関係―公衆栄養の視点から
 2.公衆栄養活動
  1)生態系保全のための公衆栄養活動
  2)ヘルスプロモーションとエンパワメントのための公衆栄養活動
  3)疾病予防のための公衆栄養活動
  4)高齢社会における健康づくりのための公衆栄養活動
  5)地域づくりのための公衆栄養活動
  6)ウエルネスのための公衆栄養活動
Chapter 2 公衆栄養活動の進め方
 1.公衆栄養マネジメント
  1)公衆栄養マネジメントの過程
  2)プリシード・プロシードモデルによるマネジメント
  3)公衆栄養マネジメントにおける管理栄養士・栄養士の役割
 2.公衆栄養アセスメント
  1)社会ニーズの把握
  2)アセスメントの手順
  3)アセスメントの項目
  4)アセスメントの方法
 3.公衆栄養プログラムの計画
  1)計画の策定
  2)運営面のアセスメント
  3)政策面のアセスメント
  4)計画書の作成
 4.公衆栄養プログラムの目標設定
  1)目標の種類
  2)目標の設定
 5.公衆栄養プログラムの実施
  1)地域社会資源の管理
  2)コミュニケーションの管理
  3)プログラム実施と関係者・機関の役割
 6.公衆栄養プログラムの評価
  1)評価の種類
  2)評価の流れ
  3)評価のための情報収集
  4)評価のためのモニタリングシステム
  5)評価結果のフィードバック
  6)評価のデザイン
Chapter 3 栄養疫学
 1.栄養疫学の概要
 2.曝露情報としての栄養摂取量
  1)食物と栄養
  2)食事の個人内変動と個人間変動
  3)日常的な,平均的な食事摂取量
 3.総エネルギー摂取量の栄養摂取量に及ぼす影響
  1)栄養密度法
  2)残差法
 4.食事摂取量の測定方法
  1)食事記録法
  2)思い出し法
  3)食生活調査
  4)食事摂取量を反映する生化学的指標
  5)食事摂取量を反映する身体測定値
 5.栄養疫学の方法
  1)健康問題を発見するには
  2)栄養と健康の関係を探るには
  3)系統誤差とバイアス
  4)交絡
 6.疫学の指標
  1)疾病の頻度,死亡や生存にかかわる指標
  2)曝露要因の効果に関する指標
Chapter 4 公衆栄養の現状と問題点を探る
 1.少子高齢社会の進展
  1)出生率の低下
  2)平均寿命の延長
  3)高齢社会と健康・栄養問題
  4)増え続ける要支援・要介護高齢者
 2.健康状態の変化
  1)感染症の時代から生活習慣病の時代へ
  2)増加する生活習慣病患者数・国民医療費
  3)QOLの低下をまねく循環器疾患の増加
  4)欧米に多くみられるがんの増加
  5)糖尿病および予備群は約1,620万人
  6)男性の肥満,若い女性のやせの増加,メタボリックシンドロームおよび予備群は約1,960万人
  7)歯の本数・喫煙習慣は食生活決定の一因子
 3.栄養状態の変化
  1)米離れ,肉類・油脂類の増加
  2)動物性食品からのたんぱく質・脂質摂取量が増加
  3)食塩摂取量,成人の半数以上の者が一日10g以上
 4.揺れる食行動
  1)若年層に目立つ朝食欠食
  2)増える“コ”食
  3)増えた外食,増え続ける中食
  4)増える栄養補助食品等の利用
  5)食態度の変容・食スキルの獲得
 5.変貌する食環境
  1)重視される食の安全性確保
  2)深刻化する食料自給率の低下
  3)はんらんする食情報
  4)生活環境の変化
  5)変貌する社会・経済・文化的環境
  6)見直したい自然環境
Chapter 5 公衆栄養と栄養行政
 1.わが国の公衆栄養活動の歴史
  1)黎明期と終戦前後・復興期―脚気対策と栄養関係諸制度の確立
  2)経済の成長期・低成長期―住民ボランティア活動と健康づくり対策の始まり
  3)少子高齢期―時代が求める管理栄養士制度と諸制度の大きな構造転換
 2.栄養行政組織とその役割
  1)国レベルの栄養行政
  2)都道府県レベルの栄養行政
  3)保健所(都道府県ブロックレベル)の栄養行政
  4)市町村レベルの栄養行政
 3.管理栄養士・栄養士養成制度
  1)栄養士法,栄養士法施行令および栄養士法施行規則
  2)管理栄養士・栄養士制度の沿革
 4.国民健康・栄養調査
  1)調査の目的
  2)調査の沿革
  3)調査の内容
  4)調査の方法
 5.「健康日本21」と地方計画の策定
  1)健康づくり対策の変遷と「健康日本21」策定の背景・意義・目的
  2)「健康日本21」の内容
  3)「健康日本21」の推進と地方計画
 6.公衆栄養活動のための活動指針
  1)食生活に関する指針
  2)運動に関する指針
  3)休養に関する指針
Chapter 6 食事摂取基準
 1.栄養所要量から食事摂取基準へ
 2.日本人の食事摂取基準(2005)の概要
  1)基本的な考え方
  2)設定指標
  3)エネルギーおよび主な栄養素の食事摂取基準の算定方法
  4)活用方法
  5)使用にあたっての留意点
Chapter 7 公衆栄養プログラムの実際
 1.母子保健対策
  1)現状とその背景
  2)関係法規
  3)主な関係プラン・指針
  4)対策の実際
 2.学童・思春期対策
  1)現状とその背景
  2)関係法規
  3)対策の実際
 3.成人期対策
  1)現状とその背景
  2)関係法規
  3)対策の実際
 4.高齢者対策
  1)現状とその背景
  2)関係法規
  3)対策の実際
 5.給食施設指導
  1)管理栄養士・栄養士の配置
  2)栄養管理指導
  3)指導助言,勧告,命令
 6.食環境づくり
  1)現状とその背景
  2)特別用途食品,保健機能食品,栄養表示基準の各制度
  3)アレルギー物質含有表示
  4)外食栄養成分表示
  5)虚偽または誇大な広告などの禁止
 7.人材育成と活用
  1)公衆栄養と地区組織活動
  2)市町村の管理栄養士・栄養士の確保,教育研修とその活用
  3)職能団体“栄養士会”の活動と連携
 8.健康危機管理対策
  1)現状とその背景
  2)関係指針
  3)対策の実際
Chapter 8 世界の健康・栄養問題の現状と政策
 1.世界の健康・栄養問題の現状
  1)世界の平均寿命は近年急激に延びている
  2)死因の6割が慢性疾患による
  3)生存と健康的な生活のリスクファクター
  4)リスクファクターは地域により異なる
  5)地域別栄養不良の発生状況
 2.世界の健康・栄養政策
  1)国際サミットや国際会議で批准された事項
  2)国際機関の発表した健康栄養指針
  3)各国の栄養政策
  4)諸外国の食事ガイドライン
  5)食事ガイド
  6)諸外国の食事摂取基準
  7)諸外国の栄養士制度
  8)世界およびわが国の課題

 文献
 付表・資料
 付表―日本人の食事摂取基準2005年版
 資料1―関係法規
 資料2―公衆栄養の歴史
 索引