やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 本書の内容は,18年間にわたり在宅医療を行ってきた筆者が,介護するご家族やホームヘルパー(ケアワーカー)のみなさんと対話するなかで生まれたものです.ですから本書は,ホームヘルパーやご家族にとって,すぐに役立つ,実用的な内容であると確信しています.
 この本は,大きく分けて3つの部と付録で構成されています.
 第1部は,「急性疾患への対応」です.これを読んでいただくことにより,これまで手探りでやっていた「医療との連携」を,読者の方はより確信をもって行えるようになるはずです.
 第2部は,ふだんのケアにおいてホームヘルパーやご家族が知っておくと便利な,「医療に関連した知識」を説明しています.とくに,なにかと話題になる感染症への対応には多くのページを割きました.
 第3部は,2005(平成17)年より,ホームヘルパーに認められるようになった「医療関連行為」の具体的な内容や考え方について説明しています.
 また付録では,筆者が福祉従事者を対象に伝えてきた,「高齢者虐待への対応」について述べています.この問題は,直接的には医療の話題ではないので「付録」として掲載しています.在宅ケアにおける「こんなときどうする?」というホームヘルパーの方々の疑問に答えるものなので収録しました.筆者は高齢者虐待の問題に対しても,在宅医療を通じて多くのかかわりをもってきました.ですから,ホームヘルパーの方々に十分活用いただける内容だと考えています.
 また,この本を読んだみなさんからのご批判やご意見もお待ちしています.もとより本書は,「筆者とご家族・ホームヘルパー(ケアワーカー)との対話」から生まれたものをもとにしていますから,読んでくださったご家族・ホームヘルパー(ケアワーカー)の方々からいただくご意見は大切にしたいと考えています.

 2008年8月 和田忠志
 はじめに
 本書の使い方

第1部 こんなときどうする?〜ホームヘルパーと家族のための医療講座
 第1章 まず覚えてほしい,医療対応の「基本のき」〜とりあえずこれだけ知っていれば,医療に強いホームヘルパー&家族になれる!
  1.「今日病院にかかるべき状態」とは
   (ふだん歩ける人が)苦しくて歩けないとき/数時間のうちに病状がどんどんわるくなるとき/口や肛門から血が出たとき/「意識」や「体の一部の動き」に異常があるとき/嘔吐が続くとき(2回以上)/食べられないとき(1日以上)
  2.そのとき病院にもっていくべきものは何か?
  3.あなたは救急車をよんだことがありますか
 第2章 バイタルサインとは
  1.バイタルサインを把握しよう
   体温を測る/脈拍の回数を数える/呼吸の回数を数える/血圧を測る/水分摂取量を推測する
  2.バイタルサインをどうみるか
   熱をどうみるか/脈拍をどうみるか/呼吸回数をどうみるか/血圧をどうみるか/水分摂取量をどうみるか
 第3章 よりくわしく知りたい人のために〜ホームヘルパーのリーダーや管理職は覚えよう!
  1.食欲不振・嘔吐・下痢への対応
   食欲をどうみるか/嘔吐をどうみるか/下痢をどうみるか
  2.頭痛とめまい
   頭痛をどうみるか/めまいをどうみるか/頭痛とめまいのまとめ
  3.血が出るとき
   血が出ることは基本的に「こわい」/手袋を使用する/高齢者・障害者では血が止まりにくいことが多い/いろいろな出血への対応
  4.痛み
   痛みの基本原則/胸痛について/腹痛について/打撲・転倒の痛みについて
  5.病院・医院にかかるとき
   保険証の場所を把握/かかりつけの病院・医院をふだんから把握/かかりつけの医師に相談する/かかりつけの病院・医院への電話の方法/受診をするときに何をもっていくか/夜間・休日の場合/救急車を利用する場合/救急車のよび方/入院にならなかったとき
第2部 利用者に接するとき,知っておきたい医療知識
 第1章 感染症対応の「基本のき」
  スタンダードプリコーション
  手を洗う/手袋をする
 第2章 感染症対応について知ろう
  1.感染症対応の基本的な考え方
   感染症とは/「感染症」と「保菌状態」は違う/内因性感染症とは/伝染病とは/対応の基本原則/マニュアルの遵守と医療従事者との連携
  2.介護現場で問題となる感染症を知ろう
   インフルエンザ/疥癬(かいせん)/MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)/結核/ノロウイルス(ノーウォークウイルス)/血液媒介感染症など
 第3章 在宅ケアにおける入浴・リハビリテーションへの対応
  在宅ケアにおける連携
   入浴/リハビリテーションなどをさせてよいか
 第4章 ターミナルケアへのかかわり
  増えてきたターミナルケア(緩和ケア)へのかかわり
   ターミナルケア(緩和ケア)における自己決定/「治療を受ける権利」を保障すること/苦しみに対する認識/がんの痛みについて/ホームヘルパーの力により実現する希望場所での最期
第3部 「医療関連行為」の考え方と対応の仕方
 第1章 ホームヘルパーに認められた「医療関連行為」とは
 第2章 医療関連行為をよりくわしく知るために
  1.それぞれの医療関連行為を理解しよう
   腋窩あるいは外耳道での体温の測定/自動血圧計で測定する血圧測定/パルスオキシメーターで測定する動脈血酸素飽和度/軽微な切り傷・すり傷・やけどの処置/(医師・看護師の判断により)状態が安定した患者に対する以下にあげる処置
  2.現実の「医療行為」と「そうでない行為」
   「どの職種がケアをすべきか」は利用者の状態で制約される/軟膏や坐薬や内服薬といえど,内容はまちまち/医療・看護・介護はオーバーラップしている/医療従事者との連携がカギ
付録 高齢者の虐待に対応する
 第1章 これだけは知っておきたい,虐待問題の「基本のき」
  1.虐待とは何か?〜「虐待の定義」を覚えよう
  2.対応の基本的な考え方
  3.感性をみがく〜虐待はふつう隠されている
 第2章 虐待対応[初級編]
  1.虐待の定義をよりくわしく学ぶ
  2.虐待があるかないかは,本人や加害者の自覚は問わない
  3.最大の虐待者は家族
  4.虐待している人をサポートする視点をもつ
  5.さまざまな社会資源を活用しよう
 第3章 虐待対応[中級編]
  1.介護熱心な家族による虐待
  2.認知症に対する理解が困難な場合
  3.家族そのものが崩壊して放置されている
  4.社会的に自立しない子どもによる,金銭などの請求行為
  5.過去の家庭内虐待の継続,あるいは地位の逆転
  6.精神障害者・知的障害者の子どもによる介護の労苦
  7.アルコール常用者による介護とその疲労
 第4章 虐待対応[上級編]
  1.グレーゾーンケースへの対応
  2.困難ケースの見守り
  3.分離の方法論
  4.成年後見制度の利用

 巻末資料
  医師法第17条,歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について(通知)/平成17年7月26日 医政発第0726005号
  高齢者の虐待の防止,高齢者の養護者に対する支援等に関する法律/平成17年11月9日 法律第124号
 さくいん