やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 「介護なくして人生なし」
 これが,現代を生きる私たちの姿です.
 老後生活は,“人生二毛作”と言われるほど長くなり,その幸せとともに,介護問題が浮上してきました.介護期間は長くなり,介護する人もされる人も高齢化し,病は重度化し,さらに症状が重複化しています.認知症の方も大量にあらわれました.人生の最後の時期,個人差はあるものの,多くの人,とくに女性は「誰にどのように介護されるのか」と,不安感を抱いています.
 いつの時代にも,新しい風,古い風が吹いています.
 人生の様相が変わり,社会の実態は変わったのに,個人や家族の意識は変わらないまま,古い風が長らく吹き荒れました.その結果,大きくなった身体に,古くて小さい上着を着せようとして,さまざまな家族の葛藤や,悲劇が生まれました.家族が介護と向き合うときには,介護の専門家集団によるバックアップ体制が必要な時代になったのです.
 しかしながら,介護労働の現場もまた,古くて小さな上着です.命の最前線で働く人々の幸せが,守られておりません.
 「きつい仕事,安い賃金」
 いまや,介護職にはこのイメージが定着しています.介護保険の給付制限によるさまざまな問題,とりわけ介護現場で働く人々の志に報いない低賃金,将来への希望のなさ,それらによる離職などは,多くの高齢者や家族を不安に陥れています.
 「介護人材不足から介護保険が崩壊する」
 と,今たくさんの市民団体が応援に立ちあがっています.介護をする人が幸せでなければ,利用者も幸せになれないからです.
 男女を問わず,およそ人間にとって,自分らしく力を発揮して生きる,そんな職場と収入を得た人ほど幸せな人はおりません.介護は魅力のある仕事,こう語る幸せ者でいっぱいにしたい,その願いでこの本を書きました.さらには高齢者や家族,家族が暮らす地域のありよう,社会全体の働き方や女性の生き方支援にも目を向けました.生涯を通してゆたかな幸福感に満ちた生活が送れるような,そんな日本であって欲しいからです.
 グループホームで働く友人はこう言っています.
 「介護職の低賃金が改善されたら,介護の仕事はすばらしいと伝えていきたいですね.若い人が優しく,排泄,入浴,食事の介助をしているのを見ると,ご苦労様と声をかけたい.ほめてあげたい.でもいまは,自分をいたわってね,と言うしかないの」
 本書のタイトルには,“天晴れ“を“あっ晴れ”として,あらっと気がついてみれば,介護に携わる人がみんな元気,おかげで日本中が晴れ渡っている,そんなメッセージをこめてみました.
 「介護を元気にしよう.それでこそ日本は天晴れの国.あらっと,あっ晴れ」
 いま,人生の最晩年にいる方をいかにお守りするのか,そこにこそ日本人の質が問われています.この国の未来もかかっています.
 介護の世界全体が元気になることで,すべての人が安心と希望を持って生きることができるように.その願いをこめてこの本をお贈りします.
 はじめに
第1章 家族が介護に向き合うとき
 家族の病が介護問題の原点に
  船…乗っても乗らなくても/運命としての家族/母もまた病に倒れた/父がふたたび病に/改めて知った介護問題/介護の現場で働いてみたい/社会的親孝行の道を探して
 やっぱり介護は女性問題
  家族といっても,結局,嫁や娘じゃないですか/嫁の立場のくやしさ/実の親子でも介護感情はさまざま/母親のために人生を犠牲にしない/老いたる妻はやるっきゃない/夫を特養ホームにお願いしたけれど…/優しいお別れが家族の未来に
 子どもに迷惑かけられない
  子どもに張りたい見栄もある/わしにもメンツちゅうもんがあるんじゃ/わが夫,滅ぼすべき罪ありやなしや/いい加減にしてよ,大家族ロマン/祖母賛美も危険
 “老い構え”は人生の作法
  老いは突然にやってくる/じわじわやってくる老いもある/自分の老いをどう認めるか/“まさかの坂”の愛情住宅
 あいさつ上手は生き方上手
  “血縁“から“結縁”へ/花咲爺さん介護職/終の棲家も二段構え/わが家がナーシングホームの一室
第2章 介護の社会化と介護遺産
 介護は専門家に,愛は家族に
  この三十年の3S(スピード・スケール・シニア)/介護保険がはじまった!/家庭内の虐待にみる愛と憎
 生活に密着した介護サービスを
  二〇〇六年改正の波紋/メリハリ改正と言われたけれど/利用抑制をくらった“生活援助”/人情無視の机上論/生活の中の重介護予防作戦/軽度で生きるための五大介護/利用者の品格も大切
 介護職を魅力ある職業に
  人材難から介護保険は崩壊する?/どうくい止める離職/働く人が幸せになること/介護職の教育と,どうする労働鎖国
 訪問介護の充実は国民との約束
  ホームヘルプという仕事/働けど働けど評価されず/ホームヘルパーの悩み/セクハラやらお言葉問題やら/同性介護の必要性/働く人の気持ちになって
 介護保険時代の経営者
  コムスン事件の教訓/経営者に求められる高い理念/ケアマネジャーは“連携”の機関車
第3章 介護の元気,支える社会
 介護元気で,明日も晴れ
  介護職は笑顔がいっぱい/冷たい頭と熱い胸/人権を学ぶ若き仕事師たち
 わが家から三途の川へ
  訪問看護師さんの看護魂/三途の川のクリストファー・看取り専門介護福祉士/看護と介護の連携に花束を
 少子高齢社会の切り札
  前例のない高齢社会/少子高齢社会の背景にあるもの/性別役割分業を見直そう/次世代育成支援に総力をあげて
 “仕事と生活の調和”が介護をゆたかに
  女性の生き方支援を/男女平等度を先進国なみに/仕事と生活の調和憲章/美しい村

 用語の説明