やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

 本書を手にしてくれたあなたに聞きたいことが3つある.もしあなたがすでに福祉の職場で働く人,あるいは過去に働いた経験のある人ならば,つぎの質問に対してどんな答えが用意できるか,ぜひ考えてほしい.
 (問1)あなたは,プロとしてどんな使命や目的を果たすために,いまの職場で働いているのか(あるいは,かつての職場で働いていたのか).そして,なぜそのような使命や目的を掲げるのか,その根拠を説明できるか.
 (問2)先にあげた使命や目的を果たすために,あなたはどのような努力や工夫をしてきたか.
 (問3)努力や工夫の末に,どのような使命や目的を,どの程度,達成してきたか.
 さて,あなたはどんな答えが用意できただろうか.もしあなたが堂々と胸を張り自信をもって答えられる状況にあるとすれば,こう断言できよう.あなたはもうすでにプロとしてかなりの実績をあげてきた人だ.現状打破を信条とし,サービスの質的向上にこれまで大きな貢献をしてきた人にちがいない.職場のなかでは,誰もが一目置く存在.後輩や部下にとっては,プロとはどうあるべきかを示してくれる憧れの存在となっていることだろう.
 現状打破を信条とする人の姿勢は,常に前向きだ.よりよきサービス実現に向けた努力を怠ることはない.どんなにうまくいっているようにみえるときであっても,「本当にこれでいいのか」「改善すべき点はないか」と,チェックする姿勢をもち続ける.問題や課題が確認できれば,即,改善に向けた行動を起こす.現状に甘んじることなく,常にワンランク上のサービスをめざす.そんなプロフェッショナルな姿勢が身についている.
 注目すべきは,こうした姿勢を示す人は,総じてストレスに強いという点だ.大きなプレッシャーにさらされても,気持ちをうまくコントロールしながら,いつもと変わらぬ様子で業務がこなせる.どんなときもキレずにもちこたえられる強さがある.
 強さを生み出す源泉となったのが,不断の努力によって積み上げてきた実績である.プロとして胸を張れる数々の実績をあげてきたとの思いが,その人の心のなかに揺るぎなき自信を育み,それがストレスに負けない強固な力を生み出していたのである.
 着実に実績をあげ,プロとしての自信を築きあげた人は,失敗への向きあいかたも前向きだ.チャレンジしたことが,たとえ失敗に終わったとしても,「こんな結果になるんだったら,チャレンジなどしなければよかった」と後ろ向きなとらえ方はしない.むしろ,積極的に教訓を学ぼうとする.行動開始から失敗に至るまでのすべての過程を精査し,同じような失敗を繰り返さないためのヒントを探し出そうとする.これまでさまざまな事柄にチャレンジし,いくつもの実績をあげてきたとの自信が,失敗を冷静な視点でみる心のゆとりを生み出しているからである.
 もし本書を手にしているあなたが,福祉の職場で働いた経験はないが,いつかチャンスがあれば就職したいとの思いを抱いている場合は,つぎの質問にトライしてほしい.
 (問1)あなたが働こうとする福祉の職場では,いま,どのような使命や目的を果たすことが求められているのか.そして,なぜそのような使命や目的を果たすことが求められているのか,その理由を説明できるか.
 (問2)先にあげた使命や目的を果たすプロフェッショナルな職員になるには,どのような姿勢,価値観(援助観,介護観,人間観,職業観),知識,技術,資格などをもつことが必要とされるのか.
 (問3)プロとしてもつべき姿勢,価値観,知識,技術,資格などの習得に向けて,これまでどのような努力を積み重ねてきたか(努力の結果,いま,何を,どれくらい身につけられたか,説明できるか).
 これらの質問に対して,スラスラと難なく答えられるようであれば,明日の福祉事業所を担うプロとして活躍する可能性がきわめて大きい.福祉の世界でもてる力を存分に発揮してほしい.
 以上,ここまではうまく答えられるケースについてふれてきたが,問題はこれからだ.万が一,先の質問に対して,頭を抱えるばかりで,答えられない場合はどうすればいいのだろうか.私の考えは単純明解だ.もうすでに福祉の職場で働いている人であろうと,これから就職を考える人であろうと,失望だけは厳禁だ.自分が職員として失格だとか,職員としての適性に欠けるなどと,決めつけてはならない.
 そもそも私は,本書を手にした人を失意のどん底に突き落とすために,先の質問を投げかけたのではない.気づいてもらうためだ.いまの自分がどんな状況にあるか,等身大の自分と向きあってもらうためである.プロとして十分な実績を示せる状況にあるか.これからプロとして働くにふさわしい状況にあるか.これらの点に気づいてもらうために,質問を投げかけたのだ.福祉の職場を去ってもらうためでも,就職をあきらめてもらうためでもない.本物のプロをめざして,着実に行動を起こす大切さに気づいてもらう.これを目的としていたのである.
 では,具体的にどんな行動を起こせばいいのか.実は,この点について,すぐに実践に移せる数々のポイントを紹介しているのが本書である.プロとしてどのような使命や目的を果たすことが求められるのか.使命や目的を果たす人になるためにはどうすればいいか.よりよきサービスの実現を阻むカベを乗り越えるためにはどのような工夫が必要なのか.福祉職場にみられるさまざまな問題を解決するためにはどうすればいいか.こうした点について,具体的かつ実践的なポイントが記されている.
 本書がターゲットとする読者は,先の質問にうまく答えられなかった人たちだけではない.つぎのような状況にある人にも,ぜひご一読いただきたい.
 ・心のどこかにプロとして成長したいとの思いがあるものの,何をどうすればいいのかわからない.
 ・「このままではダメだ.変わらなきゃいけない」「もっといいサービスをめざさなければならない」などといった思いは強くあるものの,行動が起こせずにいる.
 ・よりよきケアの実現に向けて,いざ行動を起こしてみたが,カベにぶつかりにっちもさっちもいかなくなって困り果てている.
 ・業務改善に向けて動き出したが,同僚(後輩,先輩,部下,上司など)の理解や協力が得られず苦しんでいる.
 ・以前は熱い思いをもって働いていたのに,現在はモチベーションが低空飛行状態.どうすればやる気がアップできるのかわからず,苦悶する日々が続いている.
 ・ストレスをうまくコントロールできず,利用者に自分の感情をぶつけてしまいそうになることがある.このままではいけないと思うのだが,どうすればいいのかわからない.
 ・自信と誇りをもって働くプロになりたいという意欲はあるが,具体的にどうすればいいかわからない.
 ・福祉職員をめざしているが,プロとして働く準備ができているかどうか不安な状態にある.
 もしあなたがこうした状況にあるとすれば,本書をフル活用してほしい.それこそ,表紙や中身がボロボロになるまで,使い込んでほしい.
 本書の使いかたは,簡単だ.小説ではないので,どの章から読みはじめてもいい.ざっと目次に目を通して,「なんだかおもしろそう」「これだ!」と思う章から順番に読み進めていこう.
 「ここは重要だ」と思ったポイントには,マーカーで線を引いたり,付箋{ふせん}紙を貼りつけたりして,目印をつけておこう.こうしておけば,いつでも再確認できる.「あれはどこに書いてあったかな?」と思い出せずに苦労しなくてすむ(ただし,あなたが手にする本書が図書館や職場の蔵書として購入されたものである場合は,目印をつけることは許されない).
 本書の有効活用のためにお願いしたいのは,一度,読み終えたあとに,時間を置いて,繰り返し読む,という点だ.本書に一度目を通し,自己変革や業務改善に関するポイントを参考にしたうえで行動を起こせば,もはやあなたは以前のあなたではなくなる.数か月後あるいは数年後には,ワンランク,ツーランク,スリーランク成長したあなたになるに違いない.飛躍を遂げたあなたが,久々に本書に目を通せば,読む際の視点が変わる.より高いレベルで,「自己変革を図る」「職場の問題解決・課題達成に挑む」などといった姿勢で読み直すことになる.同じ箇所であっても,視点が変わっているので,みえてくるものも違ってくるはずだ.以前,目を通したときとは異なる,新しい「何か」が発見できるはずである.さらなる飛躍に向けたヒントが手にできるはずだ.だからこそ,お願いである.一度,目を通したら終わりではなく,定期的に,繰り返し目を通すことをお勧めしたい.
 あなたが管理職であるならば,あるいは,中堅以上の職員で後輩を指導する立場にあるのであれば,本書を職員育成や業務改善に向けたテキストとして使用することも可能だ.実際に,これまで記した拙著(『伸びる職員実践教室』医歯薬出版,『どうすれば福祉のプロになれるか』中央法規出版など)は,そうした使いかたがなされるケースが少なくない.「先生の本を職員の勉強会で使用し,現在,こうした改善に取り組んでいます」との連絡が直接入ってくる場合もあるし,福祉事業所のホームページなどでは,勉強会で使用している様子が紹介されているケースもある.本書には,これまで記した拙著にはない,新たな改善のヒントを数多く盛り込んでいる.職場内研修のテキストとして使用され,福祉サービス事業所の業務改善に役立ってくれることを期待したい.
 最後に,本書の刊行に貢献してくれた恩人のみなさんに感謝の意を表したい.まず最初にあげたいのが,『月刊総合ケア』(医歯薬出版)編集部のみなさんである.本書の大部分は,2004年4月号から2006年3月号までの2年にわたる連載を再構成し,加除筆修正して仕上げたものだ.連載のチャンスをいただけたことと,書籍としての刊行をすすめてくれたことに御礼申しあげる.
 第9章「ストレスマネジメントのスキルを身につけ,どんなときも最善のサービスが提供できる人財をめざそう」については,『介護人財育成』(日総研出版)の連載で執筆した原稿(「マンネリ打破の仕事術:第4回ストレスマネジメントのスキルを身につけどんな時も最善のサービスが提供できる人財を目指そう」,『介護人財育成』Vol.2No.4・47〜55頁2005年)を微調整したものだ.また,第1章に示した福祉職員としての使命遂行に関するチェックリスト,第3章の一部分も,同誌に執筆した原稿を加除筆修正したものである.本書掲載を快諾してくれた同誌編集部のみなさんに心から感謝申しあげる.
 本書刊行にあたり,とりわけお世話になったのは,医歯薬出版『月刊総合ケア』編集部の山中裕司氏である.同氏の暖かな励ましと数々の貴重な助言によって,最後まで書きあげることができた.ある意味では,本書は山中氏との共同作品といっても過言ではない.
 本書が,夢と希望をもって働く福祉職員のみなさんの一助となること,さらには,利用者本位サービスの実現に役立つことを願ってやまない.
第1章 プロとして果たすべき使命を把握し,行動を起こそう―変革の時代を担うのはアナタである
 時代の変化を的確にとらえよ/サービスの質が問われる時代の到来/要注目,使命感を抱くだけではよい仕事はできない/使命の理解がなければ,使命感は空回りするだけ/使命は掲げるためにあるのではなく,遂行するためにある/プロとして果たすべき8つの使命
第2章 職場のなかで十分に評価されない,と嘆く前に考えるべきこと―プロに求められる本物の力と「5Kの心」を身につけ,組織の発展に寄与する真の職業人となろう
 増えてきた嘆きの声―職場のなかで正しく評価されていない!/どこを評価してほしいのかあなたが把握していなければ,他者もあなたを評価できない/厳しい現実を受けとめよ―自分が思っているほど職場に貢献しているとは限らない/「役に立っているに決まっている」との思いこみと決別せよ/欠かせない「福祉の心」/「福祉の心」を解くカギは「5K」にあり/「感謝する心」は“利用者に学ばせていただく”ための必須要素/「感激する心」「感動する心」で喜びを分かちあい,利用者のニーズに気づき行動を起こす/本物のプロは「謙虚な心」「共感する心」を忘れない
第3章 伸びる人と伸びない人はどこが違うのか―スマートな発想で6無主義職員との決別を図ろう
 「伸びる人」と「伸びない人」―その違いはどこにあるか/伸びない人は“犯人捜し”を得意とする無主義職員の罠にはまるな/情熱が悪しき行動パターンと決別するエネルギーとなる/目標達成型職業人となるための秘訣は「スマート」にあり
第4章 サービス向上を図るには“出る杭”職員の出現が欠かせない―“出る杭”は打たれておしまいではない,打たれて強くなるのだ
 職場内の“常識”を見直し,問題点を指摘する職員をめざせ―中堅職員向け研修で伝えた,福祉専門職の役割と使命/出る杭は打たれます!とのメッセージは何を意味するのか/「打たれるから沈黙する」との判断は危険である/あなたを低レベルな職員に落とし入れる「不完全燃焼症候群」に気をつけろ/出でよ,真の「出る杭」!―時代はあなたの出現を待っている
第5章 レベルダウンをもたらす“パラサイト職員”の蔓延を阻止せよ―その知られざる特徴を把握し,増殖防止に着手しよう
 レベルが高い職場は,個人ブランド力の高い職員が大勢を占める/低空飛行状態の職場では“パラサイト職員“と“オイソガ氏職員”が跳梁跋扈する/“パラサイト職員“の特徴/“パラサイト職員”に特有の行動パターン/“パラサイト職員“の一類型である“オイソガ氏職員”の存在に気をつけろ/管理職も油断をすればオイソガ氏症候群の毒牙にかかる/“オゴリスト職員“の恐怖/利用者からプラスの評価だけを求める姿勢に陥れば,驕りの罠へと落ちていく/“オゴリスト職員”の存在は福祉業界の専売特許ではない/増殖阻止の決め手は早期対応にあり/“パラサイト職員“蔓延阻止のキーポイント/“オイソガ氏職員”蔓延阻止のキーポイント/オイソガ氏症候群根治に向けた5つの取り組み/“オゴリスト職員”蔓延阻止のキーポイント
第6章 人脈は困ったときにあなたを救う命綱になる―ワンランク上のプロになるために,ヒューマンネットワークの拡大に努めよう
 ストレスマネジメント研修の場で学んだこと/職業人としての悩み解決には,職場外の人脈拡大が欠かせない/外部に人的ネットワークをつくることがどうして大切なのか/人脈づくりの達人になるための5つのポイント
第7章 変化をためらう姿勢はどこから生じているのか―変革を担う人財になるためには
 変化に対する根強いとまどいの声/変化への抵抗感―組織レベルの要因/変化への抵抗感―個人レベルの要因/変化を避ける姿勢を変えるには
第8章 “ダメ上司”とどう向きあうか?―要注意!その存在を放置すれば,あなたの職場は失望と人財流出とサービス低下という3つの危機に直面する
 ご用心―“ダメ上司“は職場に失望感を蔓延させる/“ダメ上司”の放置は人財流出の危機につながる/組織をダメにする上司の特徴を把握せよ/経営改革とリーダー論の知見をもとに,“ダメ上司”との向きあいかたを検討する
第9章 ストレスマネジメントのスキルを身につけ,どんなときも最善のサービスが提供できる人財をめざそう
 福祉の実践現場で働く人に向かって私がもいま最も強く訴えること/ストレスマネジメント不在の職場には人財喪失の魔の手が忍び寄る/あなたの事業所が「ストレッサーが蔓延する職場」の特徴を示していないか,チェックせよ/ストレスマネジメントへの職場レベルでの取り組み/ストレスマネジメントへの個人レベルでの取り組み
第10章 逃げの姿勢で転職を繰り返しても職業人として明るい未来は手に入れられない―よりよき転職の決め手はあなた自身の姿勢にある
 「もう耐えられない」―ある介護職員の憂鬱/転職がすばらしい門出になるとは限らない/逃げの姿勢から生じた転職では,理想の仕事は手に入れられない/転職を志すのであれば,「攻めの転職願望」によって行動する人をめざせ/自分自身が「逃げの転職願望」に陥っていないか自己チェックせよ/「攻めの転職願望」に基づく行動パターンを習得し,どこの職場に行こうとも必要とされる真の職業人となろう
第11章 リフレクション・スキルを習得し,マンネリ打破を実現する真のプロフェッショナルとなろう
 漫然と日々を過ごせばマンネリに陥るだけ/マンネリは実質的にはレベル低下を意味する/マンネリ打破の第一歩は,強い危機意識と使命感を兼ね備えたあなたからはじまる/マンネリ打破を推進する真の職業人となるために,「振り返り力」の習得をめざそう
第12章 要注意!その言動が職場内に不信の連鎖を引き起こす―信頼を得るためには“職員間コミュニケーション力”の向上が欠かせない
 よき援助者がよき職業人とは限らない/要注意!その一言が人の心を遠ざける/不遜な言動の放置が悪影響をもたらす/負の連鎖を断ち切るにはどうすればよいか/こんな言動が不信感を招く/“職員間コミュニケーション力”向上の基本原則
第13章 記録の魅力と偉大なるパワーに注目せよ―要注意!低レベルな記録が放置されれば,プロに必要とされる5つの力の喪失を招く
 記録はサービスレベルを映し出す鏡である/記録とサービスは比例関係にある/ダメな記録の典型例/記録が不十分な職場では,プロとして保有すべき5つの力が失われる!/時間がないから十分な記録が書けないというのは本当か?/必見,これが記録の意義と目的である/適切な記録を書くために留意すべきこと
 
ひと目でわかる!簡単チェックリスト
 ・組織の発展と業務向上に寄与する福祉職員に求められる能力チェックリスト
 ・6無主義職員簡易チェックリスト
 ・パラサイト職員増殖可能性チェックリスト
 ・オイソガ氏症候群簡易チェックリスト
 ・オゴリスト職員簡易チェックリスト
 ・あなたの職場のストレス蔓延度チェックリスト
 ・逃げの転職願望度チェックリスト
 ・職員間コミュニケーション&人望力チェックリスト