やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

第4版序文
 「栄養食事療法必携」は,1999年8月に誕生した.以前から,病院給食や栄養指導に従事する者のバイブル的存在であった「治療食必携」を改編したものである.改編当時,次の時代の治療食の要望に応える本を目標にした.当時,入院患者に栄養不良が現れ,“Hospital Malnutrition”として社会問題化し,その解決方法として新たに臨床栄養管理という概念が誕生しつつあった.入院患者の栄養不良を放置すると,薬物や手術の治療効果が低下し,治療期間や入院日数が延び,医療費が増大することが明らかにされたからである.疾病の治療と同時に栄養状態の改善が必要になったのである.そこで,栄養アセスメントにより,患者の栄養状態を評価,判定して,治療食を決定する方法が検討され始めた.食事だけではなく,経腸・静脈栄養補給法も含まれ,その効果をモニタリングしていく栄養療法が確立されていった.つまり,従来の治療食に,新たな栄養療法を導入して改編したのが「栄養食事療法必携」である.
 この本は,多くの医療機関や教育養成校で利用され,2002年3月に第2版,2005年3月に第3版を出版した.そして今回は,その改訂第4版として出版することになった.この間,医学,栄養学,さらに医療は変化し,各疾患の予防,治療の方法は進歩し,診療の基本となる各疾患のガイドラインは科学的根拠をもとに何度も改訂された.栄養補給法の改良,栄養剤や特別用途食品の開発,さらにチーム医療が一般化し,NSTや褥瘡チーム,リハ栄養チーム,糖尿病,腎臓病,がん,集中治療等の治療チームも誕生した.そして,2020年3月に厚生労働省は「日本人の食事摂取基準(2020年版)」を発表し,傷病者にも一部活用されるようになった.
 栄養や食事には,親しみがあり,誰でも多少の知識は持ち,世の中には多くの栄養療法や食事法が存在し,栄養,食品,食事に関する情報は,山のように出されている.しかし人々は情報過多の中で,何をどのように食べていいのか解らなくなってきている.本書は,このような問題を解決するために,治療の考え方や指導の根拠となる各疾患の診断・診療ガイドラインなどの情報に基づき,疾患ごとに病気の概要や栄養食事療法の原則と栄養療法の実際や目安となる栄養基準などをわかりやすく,丁寧に解説した.
 この本が,多くの人々の健康と幸福に貢献できることを願っている.
 2020年9月吉日
 中村丁次


推薦のことば
 この数年間,臨床栄養に関する分野の進歩に目を見張るものがある.身体の栄養状態を評価・判定する栄養アセスメントの研究・開発が進み,それに伴うデータの集積,またこれを活用した経腸栄養法や静脈栄養法による効果的な栄養補給の管理・運営が行われている.すなわち,栄養補給を適切に実施することによって患者の生命を維持し,疾病の治療・予防に貢献し,QOLの向上に寄与している.
 一方,現在ではevidence-based medicine科学的根拠に基づいた医療の施行が叫ばれている.栄養の分野においてもevidence-based nutrition care科学的根拠に基づいた栄養の管理・運営が求められている.そこで,従来から実施してきた栄養療法や食事療法は,基本的な立場から,その内容や実施のあり方を見直して,科学的根拠を再検討する必要がある.
 このたび,聖マリアンナ医科大学病院の栄養部長である中村丁次博士が,上記の趣旨に基づいた栄養療法に関する専門書を編集され,出版することとなった.
 本書においては,最近の医学的な進歩を取り入れ,新しい観点から疾病を解説すると同時に,疾病時における栄養素の代謝の特徴,症状との関連などを記述している.また,それに伴う診断基準や治療指針についても,科学的根拠に基づいた証例を示して解説を行っている.さらに,これに関連する栄養素の摂取基準の明示,特別用途食品などの活用法,栄養補給法,治療食のあり方,栄養指導などについて,新しい観点からわかりやすく解説している.また多くの文献も紹介している.
 中村博士は,臨床栄養領域の第一人者であり,また日本の栄養士が臨床栄養領域で活躍することを推進しているパイオニアのリーダーでもある.本書は,こうした観点からも最も活用すべき書籍であり,また医療や介護の領域で活躍することを目指す学生にとっては必須の教科書といえる.本書を有効に活用して,これからの医療や介護の領域で活躍されることを願ってやまない.
 このような趣旨のもとに,科学的な根拠に基づいた臨床栄養の新しい道しるべとして本書を推薦する.
 1999年8月
 東京大学名誉教授 細谷憲政


初版序文
 医療現場で治療食を管理し,患者への栄養指導を担当してすでに25年以上の歳月が経過した.この間,常に考え続けてきたことがある.それは,現在の食事療法は本当に治療に貢献しているのだろうか,という素朴な疑問である.つまり,これだけ多くのことに配慮し,細かい作業を日々実施しているけれども,これらのなかで真に意味のあることは何なのだろうか,という疑問である.
 幸いなことに,医歯薬出版から「治療食必携」を新版にしてほしいという話をいただいた.「治療食必携」といえば,大先輩である元東京都立病院・藤本良昭先生が生涯をかけて編集された名著であり,どこの病院に行っても,栄養部門の事務所には座右の友として必ず置いてある本でもある.この「治療食必携」の跡を継ぐ新版の編集・執筆に携わることは大変に名誉なことであり,また以前から考えてきたことを整理するいい機会でもあると考え,お引き受けすることにした.
 新版の編集に当たっては,内容が机上の空論にならないように,さらに最新の知見や方法が盛り込まれるように配慮して,臨床現場の第一線で活躍されている管理栄養士や,臨床経験のある栄養研究者などに執筆をお願いした.
 本書は,次のような特徴をもっている.
 第一は,現在の栄養士の弱点とされている病気についての理解が十分なされるように配慮したことである.各執筆者には,病気の定義,原因,診断,代謝の特徴,治療方針などについてわかりやすく執筆していただいた.とくに最新の知見や情報は見逃さないようにお願いした.
 第二は,栄養療法や食事療法が真の意味をもつよう,栄養指針については病態の栄養状態に基づいたものにしたことである.そして,栄養状態を知るために栄養アセスメントの項目を新しく設けた.また,かつての治療食や食事療法の概念にとらわれず,経腸栄養剤やアミノ酸製剤,さらには特別用途食品などを用いた栄養療法についても解説することにした.
 第三は,科学的根拠のある栄養食事療法とするために,多くの文献を引用し参考としたことである.また,この栄養食事療法を実施するために必要な資料やデータなども豊富に付記した.
 従来にない欲ばった内容としながらも,初学者でも理解できるよう,記述内容については何度も何度も検討した.しかも,刻々進歩する医学や栄養学に沿ったものにしなければならず,出版が予定よりも大幅に遅れてしまった.この結果,読者をはじめ医歯薬出版社には多大なご迷惑をかけてしまうことになったが,忍耐強く完成にこぎつけられた編集担当者には心から感謝を申し上げるしだいである.
 なお,「食事療法」が「栄養療法」に包含されるべきことはいうまでもないが,わが国の現状をみるとき,多くの医療施設においては患者の栄養管理の考え方と実践が栄養療法という概念のもとに行われているとはいいがたい.それゆえ,食事療法から栄養療法への橋渡しとなることの願いも込めて,本書名をあえて「栄養食事療法必携」としたゆえんであるが,本書名が「栄養療法必携」と改題されるべき時代がより早く到来することを切に願うものである.
 1999年8月
 編著者 中村丁次
A 栄養性疾患
 (中村丁次)
 1.肥満
 2.やせ
 3.たんぱく質欠乏症
 4.ビタミン欠乏症
 5.ビタミン過剰症
 6.ミネラル欠乏症
 7.ミネラル過剰症
B 消化器系疾患
 (斎藤恵子)
 1.口内炎,舌炎
 2.食道静脈瘤
 3.急性胃炎
 4.慢性胃炎
 5.胃食道逆流症
 6.胃・十二指腸潰瘍
 7.急性腸炎
 8.慢性腸炎
 9.たんぱく漏出性胃腸症
 10.吸収不良症候群
 11.過敏性腸症候群
 12.機能性ディスペプシア
 13.短腸症候群
 14.潰瘍性大腸炎
 15.クローン病
 16.腸閉塞,イレウス
 17.便秘
 18.下痢
C 肝臓・胆嚢・膵臓疾患
 (寺本房子)
 1.急性肝炎
 2.慢性肝炎
 3.肝硬変
 4.脂肪性肝疾患
 5.肝細胞癌
 6.アルコール性肝障害
 7.胆石症
 8.胆嚢炎
 9.急性膵炎
 10.慢性膵炎
D 循環器疾患
 (戸田和正)
 1.高血圧
 2.低血圧
 3.虚血性心疾患
 4.うっ血性心不全
 5.動脈硬化症
E 腎臓・泌尿器疾患
 (本田佳子)
 1.急性腎炎
 2.慢性腎炎
 3.ネフローゼ症候群
 4.糖尿病性腎症
 5.急性腎不全
 6.慢性腎不全,慢性腎臓病
 7.腎孟腎炎
 8.尿路結石症
F 代謝性疾患
 (川島由起子)
 1.糖尿病
 2.脂質異常症
 3.高尿酸血症,痛風
G 内分泌疾患
 (川島由起子)
 1.甲状腺機能亢進症,甲状腺機能低下症
 2.クッシング症候群
 3.アジソン病
H 血液疾患
 (杉山真規子)
 1.鉄欠乏性貧血
 2.巨赤芽球性貧血
 3.白血病
 4.造血幹細胞移植
I アレルギー疾患
 (杉山真規子)
 食物アレルギー
J 脳・神経・筋疾患
 (杉山真規子)
 1.脳血管障害
 2.認知症
 3.パーキンソン病
 4.筋萎縮性側索硬化症
K 摂食障害
 (杉山真規子)
 摂食障害(神経性やせ症,神経性過食症,過食性障害,他)
L 呼吸器疾患
 (田中弥生)
 1.急性呼吸不全
 2.慢性閉塞性肺疾患
 3.急性(慢性)呼吸器感染症(感冒)
 4.肺炎
 5.肺結核
M 骨疾患
 (田中弥生)
 1.骨粗鬆症
 2.骨軟化症(くる病)
N 膠原病
 (田中弥生)
 1.関節リウマチ
 2.全身性エリテマトーデス
O 食中毒・感染症
 (外山健二)
 1.細菌性食中毒
 2.細菌性以外の食中毒
 3.赤痢
 4.腸チフス,パラチフス
 5.コレラ
 6.エイズ
 7.MRSA感染症
P 歯科疾患
 (戸田和正)
 1.う蝕
 2.歯周病
Q 妊産婦・婦人科疾患
 (寺本房子)
 1.妊産婦の栄養管理
 2.妊娠悪阻
 3.妊娠高血圧症候群
 4.更年期障害
R 乳幼児・小児疾患
 (柴田みち)
 1.乳幼児の栄養管理
 2.低出生体重児の栄養管理
 3.乳児の哺乳困難
 4.乳幼児の鉄欠乏性貧血
 5.周期性嘔吐症(アセトン血性嘔吐症)
 6.乳幼児の下痢症
 7.小児肥満
 8.小児糖尿病
 9.小児脂質異常症
 10.先天代謝異常症
 11.小児腎疾患
S 高齢者の栄養管理
 (中村丁次)
 高齢者の栄養管理
T 手術前後の栄養管理
 (外山健二)
 1.食道がんの手術
 2.胃・十二指腸の手術
 3.胆嚢切除(胆嚢摘出)術
 4.小腸の広範囲切除
 5.大腸の手術
 6.心臓の手術
 7.痔核,痔瘻の手術
 8.重症熱傷の手術
 9.脳外科の手術
 10.耳鼻咽喉科の手術
 11.口腔外科の手術
 12.頸椎の手術
U がん患者の栄養管理
 (杉山真規子)
 がん患者の栄養管理

 付表(伊藤彩香(1〜16)/飯田綾香(17〜33))
  1.エネルギーの高い主な食品
  2.エネルギーの少ない主な食品
  3.たんぱく質を多く含む主な食品
  4.たんぱく質の少ない主な食品
  5.脂質を多く含む主な食品
  6.コレステロールを多く含む主な食品
  7.炭水化物を多く含む主な食品
  8.食物繊維を多く含む主な食品
  9.食塩を多く含む主な食品
  10.カリウムを含む主な食品
  11.カルシウムを多く含む主な食品
  12.リンを多く含む主な食品
  13.鉄を多く含む主な食品
  14.マグネシウムを多く含む主な食品
  15.亜鉛を多く含む主な食品
  16.銅を多く含む主な食品
  17.ナイアシン当量を多く含む主な食品
  18.レチノール当量を多く含む主な食品
  19.ビタミンB1を多く含む主な食品
  20.ビタミンB2を多く含む主な食品
  21.ビタミンB6を多く含む主な食品
  22.ビタミンB12を多く含む主な食品
  23.ビタミンCを多く含む主な食品
  24.ビタミンDを多く含む主な食品
  25.ビタミンEを多く含む主な食品
  26.ビタミンKを多く含む主な食品
  27.葉酸を多く含む主な食品
  28.水分を多く含む主な食品
  29-1.主な高脂質食品の脂肪酸組成(常用量当たり)
  29-2.主な高脂質食品の脂肪酸組成(100g当たり)
  30.アルコール量表
  31.栄養と関連疾患に関係した代表的な生化学検査
  32.手術後食進行一覧表
  33.栄養食事療法関連の主な医学用語略語

 資料(飯田綾香)
  日本人の食事摂取基準(2020年版)の各指標を理解するための概念

 索引