やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 「食コーチング(R)」は,食を通して,人々のモチベーションを高めたり,生きがいを強化したりするコミュニケーションスキルです.それによって,健康の向上を図り,さらに,それが持続することを目指します.
 人は健康になるためだけに生きているわけではなく,それぞれの人に,それぞれの目標がたくさんあるはずです.けれども日々の生活の中では,ともすれば,それらの生きがいや将来への目標などを見失うこともあります.
 食コーチングは,「問いかけ」や「肯定的指摘」を基礎的スキルとします.なぜなら,人のライフスタイル(価値観,人生観,生活信条など)には,健康を左右する要素が隠れているからです.ちょっとした声かけで,そうしたライススタイルの一端をうかがうことができますが,同時に,問いかけられた人も,ご自分の発言からご自身のモチベーションや生きがいに気づくことは珍しくありません.
 私は,国内線の客室乗務員を経て,栄養士になるために栄養士養成大学に社会人入学をしました.栄養士となって就職したのは病院でした.病院勤務を始めて強く感じたのは,患者さんへのサービスマインドの低さでした.患者さんのように,健康に関して不安や悩みがある人にこそ,数時間の空の旅をするお客様以上の思いやりと,心からのサービスマインドが必要ではないか,と強く思いました.
 その後,機会があって「コーチング」の研修を受けたことにより,そのコンセプトをもとに「コーチングの食生活バージョン」の必要を感じるようになりました.そこで発想したのがこの「食コーチング」というコミュニケーションスキルです.2005年のことです.以後,研究と開発を続けていますが,その過程でわかったのは,このスキルは,対象者となる人の健康度をあげるだけではなく,それを支える健康支援者自身のモチベーションや健康度をもあげるということです.表情が和やかになり,身だしなみも人間関係もよくなる傾向があるのです.このような健康的なライフスタイルは,「健康のカタチ」となり,あなたの周囲の健康度をあげることになります.この本の内容を実践しようと思われた方は,5年後10年後のご自分と比べるためにも,この本に接する直前の状態を記憶するか記録するかして,「変化」を後日,ぜひ確認していただきたいと思います.
 本書は,2007年に『臨床栄養』の別冊として発行されて以来,多くの健康支援者の方々のご支持をいたたき,このたび書籍として刊行されることになりました.別冊の発行に続いて,今回の書籍化に当たっても,マイコーチの大橋禄郎先生から貴重なアドバイスをいただきました.また,「別冊」として発行されて以来の10余年に加え,今後も拙著にエネルギー補給を続けてくださる医歯薬出版の関係者のみなさまに,深い感謝を申しあげます.
 2018年9月 影山なお子
第1章 なぜ「食コーチング」なのか
 1 「食コーチング」はこうして生まれた
 2 「栄養指導」から「食事相談」への脱皮
 3 食事相談は何を目指すのか
 4 クライアントの自発性をどう引き出すか
 5 「問いかけ」には,どんなバリエーションがあるか
 6 サポート(支援)とは何をするのか
 7 モチベーションをどう見極めるか
 8 食事相談を担当する人の資質とは
 9 「健康とは何か」の認識を持つ
 10 調理技術や食シーンへの理解を深める
第2章 食事相談の基本とコミュニケーション力
 11 コミュニケーションとは何か
 12 非言語表現と言語表現の見直し
 13 あいさつと自己紹介のスキルアップ
 14 異性や,年齢差のある人との食事相談
 15 仕事や生き方の違いを理由にする人との食事相談
 16 「栄養のバランス」の根拠となる基準を持つ
 17 食事摂取の目安と活用の仕方
 18 俗説を前提とした食事相談にならないようにする
 19 「食育」についても考えをまとめておく
 20 グループを対象とする食事相談
 21 食事相談の料金はどのように設定するか
 22 ほかのセクションとの連携
 23 「食コーチ」自身がコーチをつける意味
第3章 初回の食事相談
 24 食事相談をおこなう場所の条件
 25 医療施設での食事相談室のあり方
 26 食事相談専用の施設がない場合
 27 最初のあいさつ,自己紹介,タイムスケジュール
 28 最初に聞いておきたいこと
 29 終了時のフィードバックと次回の予定
第4章 食事相談に使う用紙,資料,器具,図書
 30 食事相談に先立って聞いておきたい項目
 31 食事記録をどのようにつけてもらうか
 32 「食コーチング」の記入書類の例
 33 食事相談に活用したい資料,図書
 34 食事相談に活用したいグッズ
第5章 健康な人との食事相談
 35 「スリムになりたい」という人との食事相談(1)
 36 「スリムになりたい」という人との食事相談(2)
 37 「標準体重」をどう考えるか
 38 食品に健康効果を求める人には
 39 「頭がよくなる食品」について意見を聞かれたら
 40 スポーツ選手との食事相談
 41 栄養士や医師,食事相談担当者などとの食事相談
 42 サプリメントについての食事相談
 43 外国の健康法に関心を示す人への対応
第6章 症状のある人との食事相談
 44 症状のある人にはどう接するか
 45 肥満の正しい定義とBMIの説明
 46 メタボリックシンドロームの人との食事相談
 47 塩分制限が必要な人との食事相談
 48 糖尿病の人との食事相談
 49 脂質異常症,痛風の人との食事相談
 50 便秘症の人との食事相談
 51 下痢を繰り返す人との食事相談
 52 胃潰瘍,胃がんなどの術後の人との食事相談
 53 更年期障害の人との食事相談
 54 「間食がやめられない」という人との食事相談
 55 「お酒を飲みすぎる」という人との食事相談
第7章 非対面の食事相談
 56 電話による食事相談をおこなうには
 57 電話食事相談はこのように進める
 58 Eメールで食事相談をおこなうには
 59 手紙,文書で食事相談をおこなうには
第8章 自分自身を磨く「セルフ食コーチング」
 60 食事相談担当者の資質をセルフチェックする
 61 自分の環境を見直してみる
 62 自分をアピールするためのメディアづくり
 63 自分のまわりから「マイコーチ」を探す
 64 食コーチのネットワークづくり