やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

改訂の序
 平成14年度から実施されている管理栄養士・栄養士の改正カリキュラムにおいて,これまでの“給食管理”が,管理栄養士養成施設では“給食経営管理論”として改称され,その内容も経営意識をもつ管理栄養士であるように,教育の幅が広がった.
 本書では,13年前の初版の序文で述べたとおり,新カリキュラムに沿うように,関連する各種資料に基づき,管理栄養士の日常業務に必要と思われる“経営”に関する内容を網羅して,いち早く出版した.その後においても,増刷の都度に管理栄養士国家試験や管理栄養士の業務と給食経営管理とのかかわりなどについて新知見を取り込み,部分的な見直しを行ってきた.
 このたび,給食を取り巻く社会環境の変化と,給食現場における管理栄養士の業務と職責の拡大への対応などを考慮し,さらに適切な内容と新しい知見を加えて改訂第4版を出版することとした.本書は,“給食運営や関連の資源を総合的に判断し,栄養面,安全面,経済面全般のマネジメントを行う能力を養うこととし,マーケティングの原理や応用について理解するとともに,組織管理などマネジメントの基本的な考え方や方法を修得する”という教育目標に沿った内容であることをより一層明確にするために,「給食のトータルマネジメント」をサブタイトルに付している.
 改訂第4版の出版要旨は,次のとおりである.
 1.給食経営管理論の教科内容と厚生労働省の「管理栄養士国家試験出題基準」(ガイドライン)を比較検討して目次構成を整理し,変更したこと.これにより,出題基準に示されているすべての学習項目を担保していること.
 2.給食経営管理論の教科内容と最新の管理栄養士の業務内容の実際(食材の開発や流通,生産と提供,品質管理,安全・衛生,人事・事務管理,会計・原価管理等)を勘案し,本書内容をより充実するように努めたこと.
 3.「日本人の食事摂取基準(2015年度版)」,健康増進法等に関連する箇所の訂正をはじめ,最新の情報・資料に基づく加筆・修正(食品表示法,食育基本法,学校給食,介護保険制度,医療制度,事故・災害時対策,食中毒統計等)を行い,より一層の充実を図ったこと.
 4.付表を整理して,より理解しやすいようにしたこと,などである.
 本書は,管理栄養士の教科書を意図して執筆しているが,管理栄養士国家試験の受験対策や,管理栄養士・栄養士を問わず,現場の業務を行うにあたっての参考書として,改訂第3版に引き続きご活用いただければ幸いである.
 2016年3月
 編著者 富岡和夫・冨田教代


はじめに
 21世紀は前世紀に引き続き,コンピュータや情報通信技術の急速な発達,交通機関の整備や流通機構の充実に支えられて,国際関係は緊密の度合いを増していくものと予測される.このことは政治・経済だけではなく,人間生活も伝統的思想は重要であるが,それを背景にした考えだけでは物事が解決する時代ではなくなっている.このような時代性を背景に,人間の生活活動の様式は加速度的な技術革新とグローバリゼーションが進んでいる.もはや一国主義的発想は,成り立たない時代になった.
 今回,管理栄養士・栄養士養成のカリキュラムが全面改正されたことは,前述のような背景があって,将来の管理栄養士・栄養士の栄養指導・教育活動に対する期待と重要性が現実のものとなってきている結果と判断される.これに対応するには,管理栄養士・栄養士を志すものは,カリキュラム改正の意義を理解し,今後ますます変革が予想される社会の期待に応えられるように,より高度な知識と技術の習得について,積極的に取り組む必要があると判断される.
 本書は,平成14年度から実施されている,栄養士法の一部改正(平13.6 法87)による管理栄養士・栄養士の改正カリキュラム,(社)全国栄養士養成施設協会のカリキュラム試案(平13.12),厚生労働省の管理栄養士国家試験出題基準(ガイドライン)改訂検討会報告書(平14.8),(社)全国栄養士養成施設協会発表「管理栄養士各科試験の主たる項目(例示)と出題問題数(試案)」(平14.8)などの,給食経営管理論に関する部分と,このなかに規定されてはいないが,実務上必要と判断される事柄を含めて,執筆の骨子とした.
 今回のカリキュラム改正において“給食経営管理”という教育内容名から理解されるように,経営管理に相当の力点が置かれている.この趣旨は,これまでのような技術的管理栄養士から,さらに進んで高度な技術と経営を総合した管理栄養士,すなわち,栄養教育に関する高度の専門技術者であると同時に,優秀な経営管理者としての管理栄養士を目標にしていると理解される.このような観点から,これまで取り上げられてきた経営管理をさらに進めて,経営に関するほぼ全体的な事柄について,その基本的な事項を取り上げた.このことは給食業務論においても同様で,給食管理の最新事情に留意して筆をすすめた.その意味においては,従来の給食管理とは大きく異なる内容で,必要と判断される内容は大部分網羅した.
 本書は,管理栄養士課程の教科書を意識して執筆しているが,栄養士は将来,国家試験を経て管理栄養士の資格を取得し,活動することが目標であるから,将来のために,ぜひ本書をもとに学習に励んでもらいたいということが執筆者一同の心からの願いである.
 なお,本書を出版するにあたり,著書や論文などを参考資料として利用させていただいた諸先生,並びに企画から上梓に至るまで,多大なご尽力をいただいた医歯薬出版株式会社の関係者各位に謝意を申し上げる次第である.
 2003年3月
 編著者 富岡和夫
I 総論
 1.給食の概要(冨田教代)
  1−給食の定義
  2−給食の意義と目的
  3−特定多数人への対応と個人対応
  4−給食における管理栄養士の役割
 2.給食の歴史(冨田教代)
  1−病院給食の歴史
  2−学校給食の歴史
  3−事業所給食の歴史
 3.給食システム(冨田教代)
  1−給食システムの概念
  2−トータルシステムとサブシステム
 4.給食施設の特徴と関連法規(菅田仁美)
  1−健康増進法における特定給食施設
  2−行政による特定給食施設の指導と関係法規
  3−各種施設における給食の意義
  4−医療施設
  5−高齢者・介護福祉施設(老人福祉施設)
  6−児童福祉施設
  7−障害者福祉施設
  8−学校
  9−事業所
II 経営管理
 1.経営管理と献立(冨田教代)
  1−献立の意義と目的
  2−献立の機能
 2.経営管理の概要(冨田教代)
  1−経営管理の意義と目的
  2−経営管理の機能と展開
  3−給食の資源と管理
  4−給食運営業務の外部委託
  5−給食運営業務の収支構造
 3.給食とマーケティング
  1−マーケティングの原理(冨田教代)
  2−製品のライフサイクル(片山直美)
  3−プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(片山直美)
  4−給食におけるマーケティングの活用(冨田教代)
 4.給食経営と組織(冨田教代)
  1−組織の構築
  2−給食組織と関連分野との連携
  3−リーダーシップとマネジメント
III 栄養・食事管理
 (冨田教代)
 1.栄養・食事管理の概要
  1−栄養・食事管理の意義と目的
  2−栄養・食事管理システム
  3−給食と栄養教育
 2.栄養・食事のアセスメント
  1−利用者の身体状況,生活習慣,食事摂取状況・給食と給食以外の食事
  2−利用者の病状,摂食機能
  3−利用者の嗜好・満足度調査
  4−食事の提供量
 3.食事の計画
  1−給与エネルギー量と給与栄養素量の計画
  2−栄養補給法および食事形態の計画
  3−献立作成基準
  4−食品構成の意義
  5−個別対応の方法
 4.栄養・食事計画の実施,評価,改善
  1−利用者の状況に応じた食事の提供とPDCAサイクル
  2−栄養教育教材としての給食の役割
  3−適切な食品・料理選択のための情報提供
  4−評価と改善
IV 品質管理
 (曽川美佐子)
 1.給食経営における品質と品質管理の意義
  1−品質管理の定義・目的
  2−生産管理における品質管理の位置づけ
 2.給食の品質基準と献立の標準化
  1−栄養・食事管理と総合品質
  2−品質保証システムと標準化─ISO
  3−献立の標準化
 3.調理工程と調理作業の標準化
 4.品質管理とPDCAサイクル
  1−品質評価の指標・方法
  2−品質管理とPDCAサイクル
V 会計・原価管理
 (富岡和夫・片山直美)
 1.財務諸表と経営分析
  1−会計制度と財務諸表
  2−財務諸表
  3−経営分析
 2.給食の原価
  1−給食の原価構成
  2−原価計算の方法
  3−給食における収入と原価管理
 3.損益分岐点分析
  1−損益分岐点
  2−損益分岐点を求める方法
 4.ABC分析
  1−ABC分析の目的
  2−給食におけるABC分析表の作成要領
VI 食材料管理
 (曽川美佐子)
 1.食材料の選択と管理
  1−食材料管理の意義
  2−食材料の種類・分類
 2.食材料の開発・流通
  1−食品の開発
  2−食品の流通
  3−食品の規格
 3.購買方法と検収手法
  1−食材料の発注計画
  2−食材料の購入技術
  3−生鮮食材料の出回り時期
  4−食材料の官能識別
 4.食材料の保管・在庫管理
  1−保管設備
  2−在庫管理(棚卸し)
 5.食材料管理の評価
  1−食材料の購入価格の分析
  2−計数による食材料管理の評価
VII 生産(調理)管理
 (西川貴子・深津智惠美)
 1.生産管理の意義
 2.生産計画と人員配置
  1−作業工程の必要性
  2−作業工程の計画
  3−大量調理の生産計画
  4−「大量調理施設衛生管理マニュアル」の趣旨
  5−調理工程
 3.生産(調理)と提供
  1−給食のオペレーションシステム
  2−大量調理の方法・技術
  3−大量調理の調理特性
  4−生産性とその要因
  5−洗浄・清掃管理
  6−廃棄物処理
  7−配膳・配食の精度
 4.生産管理の評価
VIII 安全・衛生管理
 (太郎良裕子)
 1.安全・衛生管理の概要
  1−安全・衛生管理の意義と目的
  2−給食と食中毒・感染症
  3−施設・設備の保守
  4−危機管理対策
 2.安全・衛生管理の実際
  1−安全・衛生管理に関する法令
  2−給食におけるHACCPシステムの運用
  3−大量調理施設衛生管理マニュアル
  4−献立作成時の衛生管理
  5−食材料,調理工程の衛生管理
  6−検食,検食の保存
  7−衛生教育
 3.事故・災害時対策
  1−事故の種類
  2−事故の状況把握と対応
  3−災害時の給食の役割と対策の意義
  4−災害時のための貯蔵と献立
IX 施設・設備管理
 (木下伊規子)
 1.生産(調理)施設・設備設計
  1−施設・設備の概要
  2−施設・設備の動向
  3−施設・設備の基準と関連法規
  4−作業区域と作業動線
  5−施設・設備のレイアウト
 2.環境関連設備
  1−建築上の設備
  2−給排水設備
  3−熱源・電気設備および照明
  4−換気・空調設備
  5−厨芥処理設備
 3.大量調理機器の種類と機能
  1−調理機器選定の基本
  2−調理機器の種類と用途
  3−什器・食器
  4−施設・設備の保全活動
 4.食事環境の設計と設備
  1−食事環境整備の意義と目的
  2−食事環境の設計
X 人事・事務管理
 (西川貴子・深津智惠美)
 1.人事管理
  1−給食業務従事者の雇用形態
  2−給食業務従事者の教育・訓練
  3−給食業務従事者の業績と評価
 2.事務管理
  1−事務の概要と目的
  2−事務の処理と記録・保存
  3−給食部門における事務処理
  4−情報技術の概要と目的

 文献
 付表
  1.日本人の食事摂取基準(2015年版)
  2.大量調理施設衛生管理マニュアル
  3.医療機関の栄養部門におけるヒヤリ・ハット情報(例)
 索引