やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

まえがき
 昨今の報道によると,わが国の高齢化率(65歳以上の全人口に占める割合)は25.9%に,さらに75歳以上も12.5%に達したとのこと.さらに高齢化は進み,わが国では今後75歳以上の人口しか増えないとの予測がされている.日本は高齢社会のトップを走っており,世界に先駆けてどの国もいまだ経験したことのない超高齢社会での持続可能な社会を構築する必要に迫られている.医療提供体制もしかりであり,破綻しかかっている現在の医療システムを今後も継続することは不可能で,現在,持続可能な医療提供体制を整えるために病院完結型医療から地域完結型医療へのシフトが急ピッチで進んでいる.地域包括ケアシステムは多職種の連携のもと,とくに高齢者を地域で支える医療の構築を目指している.
 高齢者医療において栄養の問題は健康維持,障害・疾病予防の根幹をなすものであり,その重要性はいうまでもない.多くの疾病を抱え,障害を抱えてなんとか生活を維持している高齢者ではその重要性はさらに増す.また,健康寿命の延長を目指すうえでも,高齢者のフレイル,サルコペニア対策は重要であり,これまた栄養とは密接に関連している.疾病を抱えた患者の包括的な栄養へのアプローチは病院医療でかなり前に取り入れられ,各病院においてNutrition Support Team(NST)が構築され,包括的な評価ならびに介入が行われている.
 さらに,要介護高齢者を取り扱う特別養護老人ホームや老人保健施設においては栄養ケアマネジメントが取り入れられ,定期的な栄養評価ならびに介入が管理栄養士を中心に実施されている.今後,地域包括ケアシステムが実践されるにあたって,自宅にいる高齢者の栄養評価ならびに適切な介入が実施されなければ,入院と同様な医療を提供することを目指す地域包括ケアシステムは不十分といわざるをえない.地域包括ケアシステムではさまざまな医療職,さらには介護職が十分連携を取り合い,適切なサービスを利用者に提供することが必要である.しかし,栄養ケアに関しては誰が評価を実施し,誰が適切に介入するのか,などの問題は実はまだ積み残されていると感じるのは私だけであろうか.
 いずれにしろ,在宅の高齢者に対する定期的な栄養評価は不可欠であり,適切な評価法が浸透する必要がある.今回はMini Nutritional Assessment(MNA(R))を中心に取り上げ,その道のエキスパートの先生に解説をお願いした.本書が,地域の高齢者の栄養評価の指針になれば幸いである.
 2015年1月 編者を代表して
 葛谷雅文
 まえがき(葛谷雅文)
Part 1 在宅高齢者の低栄養予防とMNA(R)
 1.在宅高齢者のQOL向上の重要性と健康寿命延長の試み(佐竹昭介)
 2.在宅高齢者における栄養ケアの重要性(中村丁次)
 3.在宅高齢者におけるMNA(R) の有用性(葛谷雅文)
 4.在宅要介護高齢者の栄養状態・栄養介入の実態およびMNA(R)によるアウトカム予測(榎 裕美)
 5.口腔機能と低栄養(菊谷 武・尾関麻衣子)
  コラム:栄養とサルコペニア(山田 実)
Part 2 ふくらはぎ周囲長(CC)とその有用性
 1.CCメジャーの開発と使い方のポイント(下村義弘)
 2.ふくらはぎ周囲長からのBMIの推定とMNA(R)-SFへの応用(酒元誠治)
Part 3 資料: MNA関連学会等発表より/MNA(R)-SF記載マニュアル
 Mini Nutritional Assessment(MNA(R))の在宅高齢者に対する有用性の検討および栄養状態関連因子の解析(蕪木智子)
 Mini Nutritional Assessmentによる在宅要介護高齢者の栄養状態の検討(井澤幸子・ほか)
 他職種を巻き込んだ訪問栄養食事指導のシステム構築の新たな取り組み―MNA(R)-SFによる栄養評価で得た結果を踏まえて(山本祐子)
 MNA(R)-SFを用いた訪問リハビリ利用者の栄養評価(水野智之・ほか)
 在宅虚弱高齢者における栄養状態と摂食嚥下障害リスクの関連(竹内研時・ほか)
 在宅療養高齢者における口腔の健康状態が生活機能に及ぼす影響(古田美智子・ほか)
 高齢者の健康調査に用いたBMIの算出方法の比較について(棚町祥子・ほか)
 在宅医療支援病棟に入院した在宅認知症患者の総合的機能評価(三浦久幸)
 MNA(R)-SF記載マニュアル

 索引