やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 超高齢社会に突入したわが国では要介護高齢者が増加し,医療・福祉・在宅の場では低栄養や,食事を口から食べられない人への対応が問題になっている.
 介護保険法改正により2005年10月から,介護施設においても管理栄養士による栄養ケア・マネジメントが施行されることになり,要介護高齢者の低栄養状態を早期に発見し「食べること」を通して低栄養を改善し,自分らしい生活の確立と自己実現を支援すること目的に,個別に対応した栄養管理を実施するよう取り組みがはじまった.さらに,2006年4月からは摂食・嚥下困難な施設入居者の“口から食べる”ための取り組みに「経口維持加算」が創設されることになった.しかしながら,現状ではまだ加算をとっていない施設も多いという.その理由として,日常業務の多忙,医療のマンパワー不足,経口摂取への熱意の欠如などの問題があげられるなかで,「具体的な対応の方法がわからない」という切実な悩みがある.
 「なぜ食べられないのか」「なにが食べられないのか」「どうすれば食べられるのか」.その原因や食事内容・食形態を個々に見極め,適切な「食介護」を行うことのできるスキルをもった専門職による多職種協働が必須となる.
 本書では,このような問題に対処できるよう,高齢者施設において実践してきた事例と研究を紹介している.とくに高齢者の摂食機能に対応した食形態を4段階に区分し,テクスチャー面からの検討を行い,あわせて実際の献立と展開法も紹介している.
 「食介護」とは,高齢者が人として尊重され幸せに生きていくために,食を通してよりよい栄養状態・QOLを維持・向上できるように支援していくことであり,たんなる食事介助ではなく,高齢者が個々に保有する食文化・食習慣などをも包含した“食環境”を包括的に理解・把握したうえで「口から美味しく食べられる食によって高齢者を全人的に介護・支援しようとするもの」と著者は定義している.
 著者らは,「高齢者の栄養管理は食介護の視点から」という提案を1999年日本栄養改善学会シンポジウムで発表し,その後,論文や講演などあらゆる機会を通して「食介護」の必要性について提案してきた.一方,歯科医の市川文裕先生も同時期に食介護の必要性を提案し「いわき食介護研究会」を設立された.その後,看護師の田中靖代先生も「豊橋食介護研究会」を設立し,活動されている.また,本年8月には(独)国立健康・栄養研究所栄養教育プログラムに「食介護研究会」(代表手嶋登志子)が発足した.
 時を経てようやく「食介護」の意義と重要性が認知されてきたと思われる.高齢者の介護にかかわるあらゆる人々は,安易なコスト主義に流されることなく,おいしく口から食べることが,いかに高齢者の人生の質を高めるかを十分に認識しなければならないと考える.
 2007年9月
 著者代表 手嶋登志子
第1章 グレード別展開メニュー(増田邦子・大越ひろ)
 (1)日常食
  朝食(和食)
  昼食-1(麺類)
  昼食-2(サンドイッチ)
  夕食(春)
  夕食(夏)
  夕食(秋)
  夕食(冬)
 (2)行事食
  お正月
  ひなまつり
  七夕
  敬老の日
 (3)市販品の活用
  やわらか食-ピースご飯,さわらと根菜の含め煮
  やわらか一口食-シーフードドリア,やわらかミートローフ
  やわらかつぶし食-やわらかご飯梅かつお,白身魚の湯引き
  やわらかゼリー・とろみ食-うめしらすかゆ,白身魚の二色ソース
  自助食器・器具のいろいろ
第2章 グレード別献立と展開のポイント(大越ひろ・増田邦子・高橋智子)
 介護食から段階的な食事へ
 高齢者の咀嚼能力と嚥下能力
  1.咀嚼能力
  2.嚥下能力
 食形態別の調理方法の考え方
 献立の展開方法
  1.やわらか食
  2.やわらか一口食
  3.やわらかつぶし食
  4.やわらかゼリー・とろみ食
 展開献立のエネルギーおよび栄養素の充足状況
 献立の物性(テクスチャー)面からの評価
  1.高齢者の食事と物性
  2.高齢者用食品の試験方法
  3.食べる人の機能と食事のテクスチャーの関係
第3章 食材別調理上のポイント(大越ひろ・増田邦子)
 食形態別の調理の工夫
 調理の科学
  1.主食となる食材
  2.主菜となる食材
  3.副菜となる食材
  4.汁物
  5.間食
  6.飲料
 「やわらかゼリー・とろみ食」(介護食)に用いられるゲル化剤と使い方
  1.ハイロドコロイドとは
 「やわらかつぶし食」や「やわらかゼリー・とろみ食」に用いられる増粘食品と使い方
  1.増粘食品の特徴
  2.調理の過程で使用する増粘食品の使い方
 計量と器具
  1.計量
  2.調理器具
第4章 摂食・嚥下機能の評価と口腔ケア(手嶋登志子・黒岩恭子)
 摂食・嚥下障害の評価
 高齢者の口腔機能の問題点
 口腔機能の評価と口腔ケア
  1.高齢者の口腔内の特徴
  2.口腔内ウォッチングのやり方
  3.短時間で簡単にできる口腔ケアの方法
 おわりに
第5章 食介護アセスメント(手嶋登志子・増田邦子)
 高齢者の食環境をチェックし,問題点を早期に発見する
 食介護・栄養アセスメントの内容
 食介護・栄養アセスメントを行った事例
  1.食事環境,食事内容などのチェック
  2.栄養状態,精神機能,摂食・嚥下状態,心身機能のチェック
 介護施設における経口維持への対応と多職種協働
  1.経口維持のためのアセスメントの方法
  2.経口維持のための計画作り
第6章 市販増粘食品の活用(大越ひろ・高橋智子)
 増粘食品(トロミ調整食品)の使い方と活用
  1.市販増粘食品の特徴
  2.増粘食品の添加濃度と硬さの関係
  3.時間による硬さの変化
  4.加える飲料によって硬さが変化する
  5.増粘食品を添加した場合の飲料の飲み込みやすさ
 市販介護用食品の使い方と活用
  1.市販介護用食品の有用性
  2.市販介護用食品の種類
  3.日本介護食品協議会とユニバーサルデザインフード
第7章 高齢者の食介護と対応のポイント(手嶋登志子・増田邦子)
 水分不足への対応
 食欲が低下したときの対応(低栄養対応食)
 器具や介助
第8章 高齢者の栄養管理は食介護の視点から(手嶋登志子)
 食介護とはなにか
 低栄養をもたらす環境要因を知る
 摂食・嚥下障害と口から食べる意義
 食介護による支援-QOLを高める食環境を作る
 残存能力の活用“昔取った杵柄”を大切に
 介護食とはQOLに配慮した食事
 摂食機能の把握と改善することの重要性

 参考文献
 グレード別展開メニュー(日常食・行事食)材料一覧表
 付録
  市販介護用食品区分別一覧
  食介護Q&A