やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 1996年に発生した病原性大腸菌O157による集団食中毒事件,2000年に発生した低脂肪乳による大規模な食中毒事件は,衛生管理の不手際から起こったものであり,食品の安全性を根底から揺るがすものとなった.また,2001年には国内で初のBSE感染牛が確認された.これらのことが背景になり2003年7月1日に「食品安全基本法」が制定された.
 この法律は,国民の生命と健康の保護,安全性の確保を目的としたもので,「食品安全委員会」の設置が条文化された.この委員会は食品健康影響評価(リスク評価)などを実施する機関として設立されたものである.国が食品安全行政を見直し,食品行政を一元的に管理し,科学的な見地から安全性の確保に関する対策を総合的に行えるようにしたのである.また,食品の安全性確保に関連して「食品衛生法」,「と畜場法」,「健康増進法」なども改正された.
 食品安全委員会の活動の一例として,2004年6月18日に国立医薬品食品衛生研究所は,既存添加物である「アカネ色素」について,ラットを用いた発がん試験などで腎臓に対して発がん性があることを報告した.これを受けて2004年7月2日に食品安全委員会が食品健康影響評価をした結果,「アカネ色素」の製造および使用は禁止されることになった.
 ところで管理栄養士国家試験は1987年に第1回目が実施され,それ以後毎年継続的に行われている.また,2002年4月には栄養士法の一部を改正する法律が施行され,新しいカリキュラムに基づいた管理栄養士の養成が始まっている.これに伴い管理栄養士国家試験出題基準(ガイドライン)改定検討会が設置され,本検討会の下に各試験科目別に作業部会が設けられ,出題基準の検討が行われた.この出題基準は2006年(第20回)国家試験から適用される.本書は上記の出題基準に対応して,コーデックス,内分泌攪乱化学物質,食品衛生管理,無(減)農薬栽培食品,遺伝子組換え食品などの項目も記載した.
 管理栄養士養成課程の学生は卒業時に栄養士免許を取得でき,同時に多くの学生は食品衛生監視員や食品衛生管理者の任用資格が与えられる.食品の専門家として,流通から消費までの諸問題を解決あるいは解決に努力する資格と権限が得られるのである.
 今後も食品の安全や信頼を取り巻く環境は,毎年移り変わっていくものと考えられる.また,編者の力不足により本書には不備なところもあると思われる.読者諸氏のご批判を賜り,本書を一層充実させていきたいと願っている.
 本書の刊行にあたり,ご多忙の中ご協力をいただきました執筆者各位に厚く御礼申し上げます.
 2004年9月 編者
食べ物と健康 食品の安全性と衛生管理 目次

 序文

■Chapter.I 食品衛生行政と法規
 ●序 論
 1.食品衛生とは
  1)食品衛生の意義
  2)食品の安全性確保
 2.食品衛生監視員と食品衛生管理者
 3.安全性の考え方
  1)有毒成分を含む動植物
  2)病原微生物
  3)食品の生産,製造,貯蔵等に伴う危害
  4)工業生産の廃棄物等によるもの
 4.食品の安全性……4(川井英雄)
 5.食品衛生関連法規
  1)食品安全基本法
  2)地域保健法
  3)健康増進法
  4)と畜場法
  5)食鳥処理の事業の規制及び食鳥検査に関する法律
  6)薬事法
 6.コーデックス(CODEX)
  1)コーデックス委員会とは
  2)国際組織……8(角田光淳)
■Chapter.II 食品の安全性と微生物
 ●序 論
 1.微生物の形態
 2.細菌の形態と構造
  1)細菌の形態
  2)細菌の構造
 3.細菌の(物理的)増殖条件
  1)水分(湿度:humidity)
  2)温度(temperature)
  3)遊離酸素(free oxygen)
  4)二酸化炭素(CO・・・・2)
  5)水素イオン濃度(pH)
  6)浸透圧(osmotic pressure)
 4.殺菌
  1)物理的作用による殺菌
  2)化学的作用による殺菌法……17(奥脇義行)
■Chapter.III 食中毒
 ●序 論
 1.食中毒の分類
  1)細菌性食中毒
  2)ウイルス性食中毒
  3)自然毒食中毒
  4)化学性食中毒
 2.食中毒発生状況
  1)年次別発生状況
  2)病因別発生状況
  3)原因食品別発生状況
  4)月別発生状況
  5)原因施設別発生状況
 3.マスターテーブル法……25(小林秀光)
 4.微生物性食中毒
  1)細菌性食中毒
  2)ウイルス性食中毒
  3)原虫による食中毒(クリプトスポリジウム,ジアルジア,サイクロスポーラ)……44(小林秀光,池田隆幸)
 5.自然毒食中毒
  1)植物性自然毒
  2)動物性自然毒……49(角田光淳)
 6.化学性食中毒
  1)有害元素
  2)有害化学物質……51(川井英雄)
■Chapter.IV 食品による感染症・寄生虫症
 ●序 論
 1.主な消化器系感染症
  1)コレラ
  2)細菌性赤痢
  3)腸チフス・パラチフス
  4)A型肝炎・E型肝炎
  5)急性灰白髄炎(ポリオ)
 2.人畜共通感染症
  1)炭疽
  2)ブルセラ症
  3)Q熱
  4)レプトスピラ症
  5)結核
  6)野兎病……56(川村 堅)
 3.食品から感染する寄生虫症
  1)線虫類感染の寄生虫症
  2)吸虫類感染の寄生虫症
  3)条虫類感染の寄生虫症……60(仁科正実)
 4.トピックス:牛海綿状脳症(BSE)
  1)牛海綿状脳症
  2)伝達性海綿状脳症
  3)牛海綿状脳症プリオンの特徴
  4)わが国での牛海綿状脳症の現状とその対策……63(川村 堅)
■Chapter.V 食品中の汚染物質
 ●序 論
 1.マイコトキシン(カビ毒)
  1)カビの生態
  2)カビの食品,生体に及ぼす影響
  3)アスペルギルス属が産生する毒素
  4)アフラトキシンについて
  5)ステリグマトシスチンとオクラトキシン
  6)ペニシリウム属が産生する毒素
  7)フザリウム属が産生する毒素
  8)麦角菌が産生する毒素
 2.化学物質
  1)残留農薬
  2)有機リン系農薬
  3)有機塩素系農薬
  4)その他のヒトに影響が強い農薬
  5)ポストハーベスト農薬(収穫後使用農薬)
  6)残留農薬基準
  7)抗生物質
  8)内分泌攪乱化学物質
  9)ダイオキシン類
  10)PCB(ポリ塩化ビフェニル)
 3.放射性物質
  1)電離放射線と放射性物質
  2)人体への影響
  3)食品と放射性物質
 4.食品成分の変化による有害化学物質
  1)ヒスタミン
  2)過酸化脂質
  3)発がん物質
  4)フェオフォルバイド……84(川村 堅)
 5.食品中の異物
  1)食品中の異物と苦情
  2)食品衛生上の異物……86(角田光淳)
■Chapter.VI 食品の変質
 ●序 論
 1.腐 敗
  1)腐敗微生物
  2)腐敗(鮮度)の判定法……88(角田光淳)
 2.油 脂
  1)油脂の自動酸化
  2)油脂の酸敗の予防と判定
  3)トランス型不飽和脂肪酸(トランス脂肪酸)
 3.食品の変質防止法
  1)加熱殺菌・滅菌法
  2)紫外線・放射線照射法
  3)冷蔵・冷凍・チルド法
  4)脱水 ・・乾燥法
  5)塩蔵 糖蔵法
  6)くん煙法
  7)真空パック法
  8)ガス封入法
  9)脱酸素剤法
  10)食品添加物を利用した方法……97(打田良樹)
■Chapter.VII 食品添加物
 ●序 論
 1.食品添加物が指定される用件
 2.食品添加物の歴史
  1)古代〜中世
  2)近代
  3)現代
 3.食品添加物の使用目的による分類
 4.食品添加物使用のメリットとデメリット
  1)メリット(benefit)
  2)デメリット(risk)
 5.食品添加物の安全性
  1)毒性試験
  2)無毒性量(最大無作用量)と1日摂取許容量(ADI)
 6.食品添加物の使用基準と成分規格
 7.食品添加物の表示
  1)物質名(品名)による表示
  2)用途名併記による表示
  3)一括名による表示
  4)表示の免除……104(川井英雄)
 8.食品添加物各論
  1)主な食品添加物とその用途……106(角田光淳)
■Chapter.VIII 食品用の器具と容器包装
 ●序 論
 1.素材と衛生
  1)プラスチック(合成樹脂)
  2)ラミネート
  3)プラスチックに表示されているマーク
  4)ガラス,陶磁器,ほうろう引き
  5)金属
  6)その他
 2.素材による環境汚染
  1)プラスチックによる汚染
  2)レジンペレットによる汚染
  3)生態系に影響する環境汚染……125(川井英雄)
■Chapter.IX 食品衛生管理
 ●序 論
 1.食品衛生管理体制
  1)HACCPシステムの導入
  2)食品の安全性確保のための法的施策
 2.HACCPシステムとは
  1)歴史
  2)特徴
 3.総合衛生管理製造過程承認制度
  1)概要
  2)承認基準と手続き
  3)承認の取消し
  4)食品衛生管理者
 4.食品工場における一般衛生管理事項
  1)一般的衛生管理事項の必要性
  2)一般的衛生管理プログラムの要件
 5.家庭における衛生管理
  1)食中毒予防の3原則
  2)家庭で行うHACCP……133(仲 克巳)
 6.国際標準化機構(ISO)
  1)概要
  2)国際規格の作成
  3)ISO規格の種類
  4)要求事項とマニュアル化
■Chapter.X 新しい食品の安全性問題
 ●序 論
 1.有機食品等
  1)食と自然環境
  2)特別栽培農産物
  3)有機農産物とその加工食品
  4)有機食品の安全性……137(村上 譲)
 2.遺伝子組換え食品
  1)遺伝子組換え作物の作成目的と方法
  2)主な遺伝子組換え作物
  3)遺伝子を組換えた微生物の利用
  4)遺伝子組換え作物の開発と栽培
  5)遺伝子組換え作物の安全性審査基準
  6)遺伝子組換え食品の表示義務
 3.放射線照射食品
  1)放射線と放射能
  2)放射線照射の目的と課題
  3)放射線照射の実用化……141(川村 堅)
 4.アレルギー物質を含む食品に関する表示
 SELF CHECK
  問題
  解答・解説
 付表
  食品安全基本法(抄)
  食品衛生法(抄)
  食品・食品添加物等規格基準(抄)
  感染症の定義・類型
 索引