やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

改訂の序
 日本人の平均寿命は平成15年の調査では,男子78.4歳,女子85.3歳で,男性は世界第2位であり,女性は世界第1位となっている.日本では現在も少子化傾向にあり,高齢者の数は2050年には65歳以上の者が総人口の30%以上を占めるといわれている.全体として高齢者が増えれば,当然,障害をもった高齢者も増えることになるであろうし,障害をもった高齢者が増えることはまた,必然的にその人たちを支える福祉や看護,介護の必要性が増大することになるであろう.
 光陰矢のごとしとはよくいったもので,1994年に本書が出版されてから10年が経過した.その間,まだ障害をもった高齢者のための食事や栄養を対象にした類書が少なかったせいか,毎年のように増刷を重ねてその期待に応えてきた.2000年に,科学技術庁資源調査会により「四訂フォローアップ日本食品標準成分表」が「五訂日本食品標準成分表」に改められた.そのため,献立の数値を計算しなおす必要性が生じた.
 本書の「料理編」に,肉や野菜などをはじめとした,幾種かの素材を使った「1食メニューの栄養価」と「料理の作り方」,「分量について」の記載がある.
 五訂日本食品標準成分表の変更は「メニューの栄養価及び分量」に直接的に影響するところから,できるだけ早い機会に本書の見直しを試みたいと考え,今日まで改訂準備を押し進めてきた次第である.
 今回,「料理編」の数値を五訂日本食品標準成分表に従って見直すとともに,日進月歩の激しい「食事用具・食器」及び「市販補助食品」等も併せて見直し,現在に即応したものに改めることにより,本書がさらに利用しやすいものになることを願ったつもりである.
 2004年5月吉日
 (編集部)


序文
 どの書店にも,華美なグルメ書や料理献立集が溢れていますが,お年寄りの,それもからだの不自由なお年寄りやケアをしている人のための料理書といったものはたいへん少ないようです.
 それには,いくつかの理由があるように思います.お年寄りにとって,毎日の食事を正しくとることがどんなに大切なことなのかが,まだ広く理解されていないこと.家庭や施設でお年寄りの世話をする人々が,忙しさのあまり食事づくりや食事介助に十分な時間をかけていられないこと.そして,お年寄り自身がいろいろな不自由や味覚の衰えなどのために食事を楽しむ意欲を無くしてしまうこと,そのため,とりあえず食べられるものだけですませるといった,その場しのぎになりがちなこと…….
 しかし,からだの不自由なお年寄りにできるだけ快適な生活を送ってもらううえで,適切な食事の管理は大変大きな意味をもっています.
 本書の多くの個所で述べているように,食事づくりや食事介助を正しく行なうことは,まず,病状や症状を安定させたり,別の病気の早期発見を可能にします.また,調理にちょっとした工夫や配慮を加えることで,これまで食べられなかった料理が食べられるようになり,お年寄り自身が食事に楽しみをもつようになります.さらに食事介助がじょうずに行なわれることで,お年寄り自身の自立能力が高められていきます.そしてまた,このような知識と技術を身につけておくことは,ケアする人自身にとっても,余計な悩みや労力に煩わされずにすむことになるわけです.
 このような観点から,本書では,(1) 高齢期のからだと心の特徴および,味覚・嗜好・食欲についての基礎知識,(2) 咀しゃくや嚥下障害のあるときの食事づくりの工夫,(3) 目や耳や手指が不自由だったり,寝たきり,痴呆性などのお年寄りに対する介助の具体的な技術,等々について,専門の医師,栄養士,ケアーワーカーがていねいに解説しています.また「献立編」では,お年寄りに適した料理を,食べやすくするための工夫を加えながら,11の素材別に108食分取り上げています.
 もっとも,このようなお年寄りに対する食事づくり・食事介助の技術は,今日まだ十分に究められているとはいいがたく,今後,多くの関係者によってその理論やハウツウが高められていくものと思われます.本書もその進歩にあわせて版を改め,新しい内容を盛り込んでいく所存ですが,さしあたって今,お年寄りのケアに当たられている多くの方々に,大きな力となることを願ってやみません.
 子どもの姿はいつか来た自分の姿であり,お年寄りはいつか行く自分の姿であるといいます.現在ケアをしている人自身が,いつかケアされる立場にならないとも限りません.長寿社会になればなるほど,予測のつかない高齢期を生きることは,その社会に生きるすべての人々に課せられた宿命といえるでしょう.
 単なる“長寿国家“ではなく,人・心・物に本当に豊かな“高齢大国”を築くために,いま健康に生きている人々が少しでもお年寄りに対する適切な介助の技術を身につける必要があるように思われます.
 なお,高齢期のとくに“病気”の食事づくりについて知りたい方は,弊社刊行の『食事療法シリーズ10/高齢期の病気と食事』を併せてご活用下さい.(編集部)
からだの不自由なお年寄りの食事―つくり方と介助―第2版 目次


 改訂の序
 序文
 料理
 メイン料理栄養価一覧

■高齢者に対する食事の捉え方――食事制限はどこまで必要か――(板垣)
 はじめに-高齢者に対する食事介助者の基本的な役割
 高齢者のからだの特徴-いわゆる老化現象について
  生理的な老化とは
  病的な老化とは--生理的な老化が早く進みます
  老化現象と臨床的な問題点
 高齢者に対する食事療法をどう考えるか
  食事療法の必要性
  食事療法を行ううえでの心配り
 高齢者に食事療法はどこまで必要か
  自覚的に健康な高齢者に食事指導を行う場合
  高齢者のかかりやすい病気と,予防のための食事
  からだに障害のある高齢者に食事指導を行う場合
 おわりに――できるだけ個人差への配慮を
■お年寄りの味覚と嗜好(岩谷)
 味覚の種類と特徴
 味覚とは
 塩辛味
 甘味
 酸味
 苦味
 旨味
 味覚の形成
 お年寄りの味覚の特徴
 加齢と味覚の閾値の変化
 お年寄りにおける味覚の変化
 味覚低下を補い,おいしく食べる工夫
 料理の工夫
 食べ方の工夫
 お年寄りの嗜好
 お年寄りの嗜好と個人差
 お年寄りの好きな食べ物と嫌いな食べ物
 お年寄りの栄養・食事指導
 栄養・食事指導におけるお年寄りの特徴
 栄養・食事指導を行う際の留意点
■お年寄りに食欲を出させる工夫(岩谷)
 食欲とは
 食欲を出させる工夫
 盛り付け――目で食べさせる技術を磨きます
 色彩を生かします
 食器は料理に合わせ,軽くて持ちやすいものを
 適温の料理を心がけます
 香り,においを生かします
 季節感を出します――旬の食べ物や行事食で
 食事環境をととのえます
 食欲の衰えたお年寄りに対して
 おわりに-お年寄りの個人差を大切に
■食べやすい食事づくりの工夫-1 料理を軟らかくするコツ(臼井,住田)
 肉
 牛肉 / 豚肉 / 鶏肉
 魚介類
 赤身魚と白身魚 / かき
 卵
 豆類
 大豆 / あずき / 枝豆
 いも類
 じゃがいも / さつまいも / さといも / やまのいも
 野菜(きのこ,海藻類を含む)
 アスパラガス / うど / かぶ
 かぼちゃ / カリフラワー / キャベツ / きゅうり / ごぼう / こまつな / さやいんげん / さやえんどう / しゅんぎく / セロリー / そら豆 / だいこん / たけのこ / たまねぎ / とうがん / トマト / なす / にら / にんじん / ねぎ / はくさい / ピーマン / ふき / ブロッコリー / ほうれんそう / みつば / もやし / レタス / れんこん / きのこ類 / 海藻類
 乳・乳製品
 牛乳 / ヨーグルト / アイスクリーム / チーズ
 ごはん・めん・パン
 ごはん / めん / パン
■食べやすい食事づくりの工夫-2 飲み込みやすくする工夫――介護食(市丸)
 介護食とは
 介護食の目的
 介護食をつくるにあたってのポイント
 介護食の工夫
■お年寄りの食事介助-その技術と配慮(吉田)
 食事介助者とお年寄りとの関わり
 食事介助までの配慮
 食事介助の技術(個別的介助方法)
 寝たきりの場合
 手指に障害のある場合
 嚥下障害のある場合
 咀しゃく障害のある場合
 目に障害のある場合
 耳に障害のある場合
 痴呆性のお年寄りに対する食事介助

■料理編
 肉を使った1食メニュー(市丸)
  鶏ささ身のしょうが炒め
  鶏ささ身のあんかけ
  鶏ささ身のごまだれ焼き
  鶏肉の柳川煮
  鶏もも肉の包み焼き
  鶏肉のみそ漬焼き
  鶏肉のおろしじょうゆ焼き
  鶏もも肉漬焼き
  筑前煮
  ハンバーグステーキ
  鶏肉団子の酢豚風
  牛もも肉の風味焼き
  牛肉とごぼうの炒め煮
  肉じゃが
  すき焼き風煮
  豚しゃぶのおろし和え
  豚肉のみそ漬焼き
  豚ヒレソテーの和風きのこソース
 魚を使った1食メニュー(岩谷)
  刺身盛り合わせ
  あじの包み揚げ
  たいのちり蒸し
  いわしの蒲焼き
  かれいの煮付け
  きんめだいのかぶら蒸し
  寄せ鍋
  さけのマリネ
  さばのみそ煮
  揚げさばのおろし煮
  さわらのみそ漬焼き
  さんまの塩焼き
  たらの卵とじ
  白身魚のグラタン
  ぶりの照り焼き
  ぶりとだいこんの煮物
  すし
  めかじきの香味焼き
  てんぷら
 卵を使った一食メニュー(住田)
  厚焼き卵
  豆腐入り茶碗蒸し
  かきたま
  卵のホイル焼き
  はんぺんの卵とじ
  オムレツ
  ぎせい豆腐
 牛乳・乳製品を使った一食メニュー(阿部)
  牛乳がゆ
  かぼちゃのスープ
  野菜のクリーム煮
  豚肉のチーズフライ
  牛乳入りすいとん
  はんぺんのチーズはさみフライ
 豆・豆製品を使った一食メニュー(住田)
  豆腐の五目煮   納豆豆腐
  凍り豆腐とかきの炒め煮
  豆腐と挽肉の重ね焼き
  豆腐のステーキ
  焼き豆腐のかぶら蒸し
  油揚げと焼き豆腐の煮物
 野菜(海藻,きのこ)を使った一食メニュー(阿部)
  さやえんどうのけんちん煮
  れんこんの磯辺揚げ
  かぼちゃとハムのてんぷら
  なすのはさみ揚げ甘酢あん
  八宝菜
  野菜のメンチカツ
  米なすのしぎ焼き
  巣ごもり卵
  和風ロールキャベツ
  野菜のスープ煮
 いもを使った一食メニュー(住田)
  じゃがいものそぼろ煮
  麻婆じゃがいも
  じゃがいもの小判焼き
  小いも冷やしとろろかけ
  さといもとひじきの煮物
  さといも田楽と肉団子盛り合わせ
  やまかけ
  ながいもと豆腐の蒸し物
  やまといもの磯辺揚げ
  さつまいものおろし和え
 ごはんを使った一食メニュー(臼井)
  かに雑炊
  ミネストローネリゾット
  ドリア
  やまかけどんぶり
  卵雑炊
  もずく雑炊
  中華風ひらめ入り粥
  牛乳入りおじや
  いも粥
  肉団子入り粥
 めんを使った一食メニュー(臼井)
  とろろうどん
  マカロニグラタン
  ワンタン
  卵とじうどん
  みそ煮込みうどん
  小田巻き蒸し
  たいそうめん
 パンを使った一食メニュー(臼井)
  ホットチーズサンド
  蒸しパン
  ジャムのクレープ
  ホットケーキ
  フレンチトースト
  ロールサンドイッチ
 汁物をメインにした一食メニュー(阿部)
  はくさいと肉団子のスープ
  粕汁
  魚のすり流し汁
  つみいれ汁
  焼きさばとせりのみそ汁
  えびしんじょの吸い物
  さつま汁
  ブイヤベース
○介護食の実例(市丸)
 魚・魚練製品を使って
  煮魚のおろしあんかけ / 煮魚 / 魚のゼリー,マヨネーズ添え / さけ缶テリーヌ / ツナ缶テリーヌ / まぐろ缶ゼリー / はんぺんのふわふわ煮
 肉を使って
  牛肉大和煮缶の寒天寄せ,おろし添え / ささみのあんかけ / ささみのテリーヌ / ささみのゼリー,マヨネーズ添え
 卵を使って
  空也蒸しのあんかけ / 巣ごもり卵 / 洋風茶碗蒸し / スクランブルエッグ / むらくもゼリー
 豆腐を使って
  豆腐の旨煮 / 豆腐のそぼろあんかけ / 豆腐のごまみそかけ / 炒り豆腐
 野菜・海藻を使って
  野菜の軟らか煮 / 野菜の寄せ物 / ほうれんそうの軟らか煮 / ほうれんそうのゼリー寄せ / しゅんぎくのごま和え / にんじんゼリー / かぼちゃの旨煮 / かぼちゃの小倉煮 / かぼちゃのミルク煮 / かぼちゃようかん / なすの旨煮 / カリフラワーの甘酢 / ブロッコリーの甘酢 / わかめの寒天寄せ
 いもを使って
  ポテトサラダ / マッシュポテト / やまかけ / さといものそぼろみそ煮 / ながいものたらこ和え / さつまいものミルク煮 / いもようかん / りんごきんとん
 その他
  ポタージュ / 抹茶くず湯
○1日献立の料理のつくり方
○からだの不自由なお年寄りのための食事用具・食器のいろいろ
○付・市販補助食品の利用