やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

監修の序

 わが国の透析患者さんは毎年,正味 15,000 人ほど増えており,22 万人を超えました.とくにこの10年では糖尿病による末期腎不全の透析導入が,新規導入の患者さんの 40%と最大の原因になっています.これは世界的な傾向で,エネルギー消費の少ない生活習慣,欧米的食生活,都市化などの影響によるものです.
 一方で,国際的な透析療法の比較試験が行われていますが,それによると日本の透析療法はもっとも成績がよく,質の高い医療が行われていることが示されています.透析にかかわる多くの医療従事者の努力のたまものです.エリスロポエチン,活性型ビタミン Dなどが,透析患者さんの生活の向上に大きく貢献しています.医学は常に進歩しているのです.
 現在,慢性腎臓病患者さんの腎臓機能低下の進行をいかに防ぐかが課題です.血圧のコントロールでは多くの優れた降圧薬が使えるようになりましたが,1980 年代の研究から,とくに腎臓病進行の抑制にはアンジオテンシンの作用を抑止する薬剤の有効性が示され,慢性腎臓病でのこの系の薬剤の使用は必須です.
 また,食事での食塩摂取量とたんぱく質摂取量の制限も必要であるものの,毎日の食生活での実践はなかなか難しいものがあります.とくに糖尿病患者さんの増加は,さらに問題を複雑にしており,医療人,患者さんとそのご家族への食生活の実践は,理論と実践の間に大きな乖離をもたらしています.腎臓機能不全がさらに進行すれば,食事での食塩,カリウム,リンなどの摂取がますます制限され,毎日の生活は「味気のない」ものになりがちです.そのうえ透析になれば,水分,食塩,カリウム,リンなどの制限はさらに強くなります.
 本書は,このような日常的にきわめて不便な食生活を強いられている患者さんとご家族に,わかりやすい食生活への指針としていただくためのものです.初版が昭和 46(1971)年という30年を超える歴史をもっています.これまでの多くの方たちの努力と,腎臓学会,透析医学会を始めとした腎臓病,透析医療にかかわる多くの医師,看護師,管理栄養士など多くの方たちの不断の努力の成果であり,また患者さんとご家族の理解と協力のおかげです.そして,歴代の編集者に感謝するとともに,皆さんのお役に立てていただけることを期待しています.
 平成 15年6月
 東海大学教授・東京大学名誉教授 黒川 清

7版によせて

 本書は昭和46年に初めて出版されてから約30年経過します.今回の改訂の大きな目的は,「五訂 日本食品標準成分表」の発表にともなって,栄養成分と食品の見直し,献立の見直しがなされたことです.さらに,日本腎臓学会「腎疾患の生活指導・食事療法ガイドライン」に準拠したかたちで食事基準を見直しました.収載食品数も150ほど増やし,食品のすべてにナトリウム量を追加表示しました.また,腎臓病治療用特殊食品の進歩にはめざましいものがあり,腎臓病食事療法の実践は以前よりかなり容易となっています.今回の改訂でも質の高い特殊食品を数多く追加しました.さらに,透析食では体格の大きな患者さんのために,たんぱく質 70gの項目を入れました.
 初版から第6版までの本書の充実には,故平田清文・東邦大学名誉教授が非常に大きな情熱を注いできました.今回の改訂は,故平田先生のこれまでの志をもとに改訂作業を行いました.
 この食品交換表は,栄養学的にほぼ等しい栄養価(たとえば,たんぱく質 3gを含む食品を1単位とする)の食品を相互に交換することによって,食事の変化と楽しみを与え,それによって同等な治療効果を期待することを目的としたものです.そのため,食品重量,成分値などは取り扱いに便利なように,一定の約束(凡例;24 頁参照)で丸めて表示してあります.これは食品成分表と大きく異なるところです.ご利用にあたっては誤解や誤った方法でご使用のないようにお願いします.
 腎臓病の食事療法をより効果のあるものにするためには,腎臓病の患者さんご自身と医療スタッフの,質の高い共同作業が必要であることは昔も今も変わりありません.
 今後も引き続き,本書が腎臓病の患者さんや食事療法に携わる医療スタッフの具体的指針として適切に使用され,実際に効果が上がることを願っています.
 平成 15年6月
 編者代表 東京医科大学教授 中尾俊之

初版によせて

 人間はもともと,他の動物と同じように,長いあいだ食を得ることに専念し,そのときどきに得た食物で生活オてきた.その食事形態は今でも残っているといえよう.べつにカロリーを計算するのでなく,たんぱく質を推定するのでもなく,自分の好みに合ったうまそうな食物を習慣的にとっているのが多くの人であろう.健康な人ならこの方法で通常なんらの障害も起こらないが,病気になって食事上の制限が強くなると,体を保つためには大切な栄養の原則があることを知る.
 腎臓病で腎機能が低下し窒素排泄が不良になるとたんぱく質を制限し,浮腫や高血圧があると食塩を制限するのを原則とする食事療法を行う.これは体の出口で代謝を調節する腎臓が病気のために,医師が体の入口で調整することである.その調整が合理的にできるか否かは毎日のことであるから,患者自身の知識に関係するところが大きい.
 医師が各栄養素を何 gという食箋を指示しても,それがどのように実施されているかは,家庭にいる患者ではきわめてわかりにくい.毎日の食物であるから,変化が必要であり,しかも合理的でなければならないので,実際これに当たる患者や家族には決して容易でない.
 このような困難を除いて誰にでも良い腎臓病治療食を作ってもらい,腎臓に病気のある人の食生活を向上したいというのが,この食品交換表の目的である.しかし,その細部は個々の患者の腎臓の病態にしたがっていちじるしい差があるので,食品交換表を利用するに当たっては,まず,腎臓病食のうちのどれであるかを知り,その食事の原則をよく理解し,制限すべきものと制限の不要なものとを知り,そのうえで,各食品を交換することが大切であろう.
 昭和46年5月
 慶応義塾大学教授 浅 野 誠 一

 腎臓病の治療のうえから,食事が大切であることはむかしからいわれてきたことである.ところが多くの患者やその家族の方々にきくと,要するにたんぱく質と食塩を減らしなさいといわれたにすぎないようで,具体的にはどうしていいのかわからないのが現状である.ある人は肉をとらないで魚をとることだと解釈しているし,動物食品はよくなく野菜がよいといわれたという.これでは何のための食事療法かわからなくなってしまう.
 最近,腎臓病の食事療法が改めて見なおされつつある.そして,尿毒症患者に人工透析を長期間行う際に,食事上の注意がうまく守られているかによって,その成績が非常にちがうものであることもわかった.外国ではさらに今までよりもずっときびしくたんぱく質の制限を行う人が多くなり,それに応じた食品もつくられるようになった.
 そこで,日本人にあった腎臓病食事ということが極めて重要なことになり,しかもそれを何とか簡便化したいのである.糖尿病学会では,糖尿病食事について食品交換表をつくり,これが多くの患者,栄養士の実際上の調理に大きな役割を果たしている.腎臓病でもこの食品交換ということを応用して,何とか正しくしかも容易に腎臓病の食事療法を行えるようにしたいのが多くの人の念願であった.
 このたび,その方面のエキスパートである医師と栄養士が共同して,新しい腎臓病食事の食品交換表をつくることになった.これが一人でも多くの腎臓病になやむ患者のために役立つことを期待したい.その経験をもとにして今後も手を加えよりよきものにしたいと考えている.今後の改訂のためのご意見をおよせいただけるようお願いして序文とする.
 昭和 46年5月
 東京大学教授 吉 利 和
腎臓病とその治療食のあり方
腎臓病食品交換表のしくみ
腎臓病食品交換表の使い方
 調味料の計量目安
 調味料に含まれる食塩量
食品交換表(食品分類)
 凡例

カラー 食品(表 1〜表 6)の目安

表1 ご飯・パン・めん
表2 果実・種実・いも
表3 野 菜
表4 魚介・肉・卵・豆・乳とその製品
表5 砂糖・甘味品・ジャム・ジュース・でんぷん
表6 油 脂
別表
 別表 1 きのこ・海藻・こんにゃく
 別表 2 嗜好飲料
 別表 3 菓 子
 別表 4 調味料
 別表 5 調理加工食品
特殊 治療用特殊食品
 治療用特殊食品を使った一品料理

カラー 献立例

たんぱく質の単位別にみた食事のとり方
 たんぱく質 60g・20 単位の食事
 たんぱく質 50g・17 単位の食事
 たんぱく質 40g・13 単位の食事
 たんぱく質 30g・10 単位の食事
 たんぱく質 20g・7 単位の食事
糖尿病性腎症の食事
 糖尿病性腎症:たんぱく質 40g・13 単位の食事
長期透析療法の食事
 透析:たんぱく質 70g・23 単位の食事
 透析:たんぱく質 60g・20 単位の食事
 透析:たんぱく質 50g・17 単位の食事
小児腎臓病の食事
 小児腎臓病:たんぱく質 50g・17 単位の食事
 小児腎臓病:たんぱく質 40g・13 単位の食事
 小児腎臓病:たんぱく質 30g・10 単位の食事
 小児腎臓病:たんぱく質 20g・7 単位の食事
食事を豊かにする工夫
 エネルギーを高める調理法
 「ゆでる」「煮る」「焼く」でどのくらい減るか

 食品名さくいん
 治療用特殊食品の問い合わせ先