監修者のことば
近ごろでは,育児書や,離乳・離乳食に関する本あるいは雑誌の記事などがあふれるほど出ています.お母さん方は,どの本を参考にしたらよいのか,おそらく迷われておられるのではないでしょうか.特に核家族で一人目のお子さんの場合には,それまで育児の経験がないために,その迷いはさらに大きいでしょう.離乳や離乳食に関する本や記事は,微妙にその内容や表現に違いがあります.そのことが,どの本や記事のいうことを聞いて離乳を進めたらよいのかを迷わす一つの大きな原因でしょう.また最近では「食育」ということがいわれるようになり,特に食に関する関心が高くなっていることを感じます.
離乳の開始時期,あるいはその進め方については,従来から体重や月齢から判断してきた経過がありますが,私たちが約30年にわたって研究してきた「口の食べる機能(能力)の発達」からみると,これほ平均的な大筋の道筋と考えるべきで,実は身体の発達と同様に非常に個人差(お子さんによる差)が大きいのです.
それではどうしたらよいかといいますと,一言でいえば,その子,その子の食べる能力の発達の程度に合わせて進めることが最善なのです.どうしてもいわゆる「隣りの子」とっい比べてしまいたくなり,「うちの子はもしかしたら食べる力の発達が遅れているのでは?」と心配して,あわててそのお子さんの能力を越えた食物を無理に与えるのは“百害あって一利なし”なのです.
それから,大分以前から,離乳をなるべく早くから始めたはうがよいということが広まっていますが,これも発達からいえば必ずしもよいことではありません.たとえば,生後2〜3カ月ごろから噛まなければならないような食物を与えても,そのころに持っている能力は「お乳を飲む」能力だけで,まだ「食べる」ための機能が身体にできていません.結局は「お乳を飲む」能力でしか処理できないので,口から出してしまうか,あるいは「まる飲み込み」の癖がついてしまいます.
この本は,日本歯科大学歯学部附属病院 口腔介護・リハビリテーションセンターで,食べることに問題があるお子さんや病弱高齢者などの治療に取り組んでいる歯科医師,言語聴覚士,管理栄養士のチームが,そのような新しい観点から書き下ろしたものです.
なお,Part4は,食べる機能に障害のあるお子さんの食べる機能の訓練法について書いてありますが,それに付随しているCD-ROM中で訓練の対象者モデルとなっているお子さんは障害のないお子さんです.したがって,特に能動的刺激法,抵抗法,バンゲード法IIの訓練中にみられるこのモデルの反応や動きは,障害のない状態の動きになっていますので,そのような反応や動きが出ることを“目標”にして訓練に頑張ってください.
この本が,すべてのお子さんの「食べる行動の発達の助けになること」を心から願っています.
2005年8月 金子芳洋
近ごろでは,育児書や,離乳・離乳食に関する本あるいは雑誌の記事などがあふれるほど出ています.お母さん方は,どの本を参考にしたらよいのか,おそらく迷われておられるのではないでしょうか.特に核家族で一人目のお子さんの場合には,それまで育児の経験がないために,その迷いはさらに大きいでしょう.離乳や離乳食に関する本や記事は,微妙にその内容や表現に違いがあります.そのことが,どの本や記事のいうことを聞いて離乳を進めたらよいのかを迷わす一つの大きな原因でしょう.また最近では「食育」ということがいわれるようになり,特に食に関する関心が高くなっていることを感じます.
離乳の開始時期,あるいはその進め方については,従来から体重や月齢から判断してきた経過がありますが,私たちが約30年にわたって研究してきた「口の食べる機能(能力)の発達」からみると,これほ平均的な大筋の道筋と考えるべきで,実は身体の発達と同様に非常に個人差(お子さんによる差)が大きいのです.
それではどうしたらよいかといいますと,一言でいえば,その子,その子の食べる能力の発達の程度に合わせて進めることが最善なのです.どうしてもいわゆる「隣りの子」とっい比べてしまいたくなり,「うちの子はもしかしたら食べる力の発達が遅れているのでは?」と心配して,あわててそのお子さんの能力を越えた食物を無理に与えるのは“百害あって一利なし”なのです.
それから,大分以前から,離乳をなるべく早くから始めたはうがよいということが広まっていますが,これも発達からいえば必ずしもよいことではありません.たとえば,生後2〜3カ月ごろから噛まなければならないような食物を与えても,そのころに持っている能力は「お乳を飲む」能力だけで,まだ「食べる」ための機能が身体にできていません.結局は「お乳を飲む」能力でしか処理できないので,口から出してしまうか,あるいは「まる飲み込み」の癖がついてしまいます.
この本は,日本歯科大学歯学部附属病院 口腔介護・リハビリテーションセンターで,食べることに問題があるお子さんや病弱高齢者などの治療に取り組んでいる歯科医師,言語聴覚士,管理栄養士のチームが,そのような新しい観点から書き下ろしたものです.
なお,Part4は,食べる機能に障害のあるお子さんの食べる機能の訓練法について書いてありますが,それに付随しているCD-ROM中で訓練の対象者モデルとなっているお子さんは障害のないお子さんです.したがって,特に能動的刺激法,抵抗法,バンゲード法IIの訓練中にみられるこのモデルの反応や動きは,障害のない状態の動きになっていますので,そのような反応や動きが出ることを“目標”にして訓練に頑張ってください.
この本が,すべてのお子さんの「食べる行動の発達の助けになること」を心から願っています.
2005年8月 金子芳洋
Part 1 こうやって食べられるようになるのです―唇や舌の動き方を見よう―
(1)発達のきまりごと(田村文誉)
発達の6つのきまりごと/絵で見る発達の6つのきまりごと
(2)食べるための構造(器官)(楊 秀慶)
上顎(口蓋)の変化/のど(咽頭)の変化/歯の生え方(萌出)/コラム:よだれ
(3)おっぱいを飲む(田村文誉)
おっぱいを飲むときの口の動き/赤ちゃんの飲み方
(4)離乳食を食べ始める(楊 秀慶)
離乳開始のサイン/指しゃぶりは大切/食べる準備/食べ物の準備
(5)離乳初期 ―唇で食べ物を取り込む・唇を閉じて飲み込む―(田村文誉)
乳児嚥下と成熟嚥下/食べるときには口を閉じる
(6)離乳中期―押しつぶして食べる―(田村文誉)
動きに注目-舌と上顎で押しつぶす/乳前歯が生えてくる
(7)離乳後期―噛む(咀嚼)機能の基礎が育つ―(田村文誉)
噛む機能の発達/舌が左右にも動くようになる/自食の準備/コラム:フッ化物によるむし歯予防(楊 秀慶)
(8)水を飲む―コップやストローを使う―(田村文誉)
水分を飲む機能は固形食を食べる機能と違うの?/固形食と水分の性状の違い/水分を飲むときの口の使い方-上唇の重要性/スプーンからスタート!
(9)自分で食べる(田村文誉)
自分で食べることへの第一歩/手づかみで食べる/食具を使って食べる
(10)気になること―指しゃぶりとブラッシング―(楊 秀慶)
指しゃぶり/おもちゃしゃぶり/ブラッシング
(11)食べることと話すこと(西脇恵子)
食べる行動とことば/ことばって何でしょう/ことばの発達に必要なもの
(12)声を出す・笑う(西脇恵子)
最初の音声/笑う/人と物の関係も育つ
(13)ことばの発達(西脇恵子)
ことばの発達/構音の発達/ことばの発達の流れ
(14)コミュニケーションとことば(西脇恵子)
コミュニケーションの支援/ことばを育てるために/ことば以外のコミュニケーションの手段
Part 2 どうやって食べさせますか?―どんな食べ物,どんな道具がよいの?―
(1)母乳?ミルク?(大藤順子・楊 秀慶)
母乳で育てる?それともミルク?/母乳やミルクの飲み方
(2)必要栄養量について(大藤順子・田村文誉)
食べてくれない・食べる量が少ない/成長に合わせた必要栄養量/離乳食の例
(3)成長に合わせた食器・食具の選び方(楊 秀慶)
成長に即した食具を使う/哺乳から自食へ
Part 3 上手に食べられないのはどうして? その対処法は?―発達障害があるお子さんへの対応も含めて―
(1)上手に食べられない原因は?(田村文誉)
急がばまわれ/食べる機能を伸ばすには?―食べる機能に障害があったら
(2)あまり噛まない(田村文誉)
歯はそろっている?/食べ物は適当?/噛む動きができている?/自分で食べているとき,手は上手に使えている?/食べる意欲はある?
(3)口にためたまま飲み込まない(田村文誉)
飲み込まない? 飲み込めない?/「飲み込まない」のは意欲や生活習慣の問題/「飲み込めない」のは口の機能と食べ物の形・硬さとのふつりあい
(4)前歯でかじれない(田村文誉)
食べるための歯の役割/大き目の食べ物を前歯でかじれますか?
(5)手で押し込む・食べこぼす(田村文誉)
どうして手で押し込むの?/手づかみ食べの重要性/食べこぼす原因は?
(6)むせる(田村文誉)
こんな状態になっていない?/コラム:用語の解説
Part 4 食べる機能に障害のあるお子さんへの支援―CD-ROM付―
<食べるための介助>
(1)介助を始める前に(田村文誉)
食べることって難しい?/発達のために/専門家のアドバイスを受けましょう
(2)姿勢(田村文誉)
姿勢を正しく/抱いて食べさせるときの注意/座って食べるときの注意
(3)スプーンを使って介助する(田村文誉)
スプーンの使い方はとても大事/クイズ:唇が使えているってどういうこと?
(4)唇と顎の動きを出す(田村文誉)
筋肉の動きを邪魔しない/前方からの介助/横または後方からの介助
(5)自分で食べられるように(田村文誉)
はじめは手づかみから/食具を使う/自助具
<訓練法の実際・CD-ROM付>
(6)訓練を始める前に(田村文誉)
必要な訓練を適切に行うために/摂食機能訓練/呼吸の大切さ/間接的訓練法の注意点
(7)脱感作・鼻呼吸の訓練(田村文誉)
過敏を取り除く訓練-脱感作/鼻呼吸の訓練
(8)筋刺激訓練法―バンゲード法―(田村文誉)
バンゲード法とは/バンゲード法I/バンゲード法II/トレーニングを始める前の注意点
(9)バンゲード法I(田村文誉)
受動的刺激法―介助者が一方的に行う訓練法/能動的刺激法―本人が主体的に行う訓練法/抵抗法―本人の積極的な協力が必要な訓練法
(10)バンゲード法II(田村文誉)
吸う訓練/吹く訓練/舌訓練
(11)その他の訓練法(田村文誉)
咀嚼訓練/嚥下動作の誘発訓練/味覚刺激法
・CD-ROMについて
・参考文献
・さくいん
・監修者・著者略歴
(1)発達のきまりごと(田村文誉)
発達の6つのきまりごと/絵で見る発達の6つのきまりごと
(2)食べるための構造(器官)(楊 秀慶)
上顎(口蓋)の変化/のど(咽頭)の変化/歯の生え方(萌出)/コラム:よだれ
(3)おっぱいを飲む(田村文誉)
おっぱいを飲むときの口の動き/赤ちゃんの飲み方
(4)離乳食を食べ始める(楊 秀慶)
離乳開始のサイン/指しゃぶりは大切/食べる準備/食べ物の準備
(5)離乳初期 ―唇で食べ物を取り込む・唇を閉じて飲み込む―(田村文誉)
乳児嚥下と成熟嚥下/食べるときには口を閉じる
(6)離乳中期―押しつぶして食べる―(田村文誉)
動きに注目-舌と上顎で押しつぶす/乳前歯が生えてくる
(7)離乳後期―噛む(咀嚼)機能の基礎が育つ―(田村文誉)
噛む機能の発達/舌が左右にも動くようになる/自食の準備/コラム:フッ化物によるむし歯予防(楊 秀慶)
(8)水を飲む―コップやストローを使う―(田村文誉)
水分を飲む機能は固形食を食べる機能と違うの?/固形食と水分の性状の違い/水分を飲むときの口の使い方-上唇の重要性/スプーンからスタート!
(9)自分で食べる(田村文誉)
自分で食べることへの第一歩/手づかみで食べる/食具を使って食べる
(10)気になること―指しゃぶりとブラッシング―(楊 秀慶)
指しゃぶり/おもちゃしゃぶり/ブラッシング
(11)食べることと話すこと(西脇恵子)
食べる行動とことば/ことばって何でしょう/ことばの発達に必要なもの
(12)声を出す・笑う(西脇恵子)
最初の音声/笑う/人と物の関係も育つ
(13)ことばの発達(西脇恵子)
ことばの発達/構音の発達/ことばの発達の流れ
(14)コミュニケーションとことば(西脇恵子)
コミュニケーションの支援/ことばを育てるために/ことば以外のコミュニケーションの手段
Part 2 どうやって食べさせますか?―どんな食べ物,どんな道具がよいの?―
(1)母乳?ミルク?(大藤順子・楊 秀慶)
母乳で育てる?それともミルク?/母乳やミルクの飲み方
(2)必要栄養量について(大藤順子・田村文誉)
食べてくれない・食べる量が少ない/成長に合わせた必要栄養量/離乳食の例
(3)成長に合わせた食器・食具の選び方(楊 秀慶)
成長に即した食具を使う/哺乳から自食へ
Part 3 上手に食べられないのはどうして? その対処法は?―発達障害があるお子さんへの対応も含めて―
(1)上手に食べられない原因は?(田村文誉)
急がばまわれ/食べる機能を伸ばすには?―食べる機能に障害があったら
(2)あまり噛まない(田村文誉)
歯はそろっている?/食べ物は適当?/噛む動きができている?/自分で食べているとき,手は上手に使えている?/食べる意欲はある?
(3)口にためたまま飲み込まない(田村文誉)
飲み込まない? 飲み込めない?/「飲み込まない」のは意欲や生活習慣の問題/「飲み込めない」のは口の機能と食べ物の形・硬さとのふつりあい
(4)前歯でかじれない(田村文誉)
食べるための歯の役割/大き目の食べ物を前歯でかじれますか?
(5)手で押し込む・食べこぼす(田村文誉)
どうして手で押し込むの?/手づかみ食べの重要性/食べこぼす原因は?
(6)むせる(田村文誉)
こんな状態になっていない?/コラム:用語の解説
Part 4 食べる機能に障害のあるお子さんへの支援―CD-ROM付―
<食べるための介助>
(1)介助を始める前に(田村文誉)
食べることって難しい?/発達のために/専門家のアドバイスを受けましょう
(2)姿勢(田村文誉)
姿勢を正しく/抱いて食べさせるときの注意/座って食べるときの注意
(3)スプーンを使って介助する(田村文誉)
スプーンの使い方はとても大事/クイズ:唇が使えているってどういうこと?
(4)唇と顎の動きを出す(田村文誉)
筋肉の動きを邪魔しない/前方からの介助/横または後方からの介助
(5)自分で食べられるように(田村文誉)
はじめは手づかみから/食具を使う/自助具
<訓練法の実際・CD-ROM付>
(6)訓練を始める前に(田村文誉)
必要な訓練を適切に行うために/摂食機能訓練/呼吸の大切さ/間接的訓練法の注意点
(7)脱感作・鼻呼吸の訓練(田村文誉)
過敏を取り除く訓練-脱感作/鼻呼吸の訓練
(8)筋刺激訓練法―バンゲード法―(田村文誉)
バンゲード法とは/バンゲード法I/バンゲード法II/トレーニングを始める前の注意点
(9)バンゲード法I(田村文誉)
受動的刺激法―介助者が一方的に行う訓練法/能動的刺激法―本人が主体的に行う訓練法/抵抗法―本人の積極的な協力が必要な訓練法
(10)バンゲード法II(田村文誉)
吸う訓練/吹く訓練/舌訓練
(11)その他の訓練法(田村文誉)
咀嚼訓練/嚥下動作の誘発訓練/味覚刺激法
・CD-ROMについて
・参考文献
・さくいん
・監修者・著者略歴