やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 「のどちんこ」という言葉は,皆さんが日頃使い,聞き慣れている言葉ですが,「のどちんこ」について記載された書物は専門書を含めてもあまり存在しません.「のどちんこ」という口の中の奥にある身体の小さな一部分が何のためにあり,どういう重要性を持つのかについて一般の皆さんはほとんど知らないと思います.
 本書は長年口蓋裂という「のどちんこ」の病気の治療を専門としてきた大阪大学名誉教授歯学部附属病院前病院長松矢篤三先生の数多くの経験をもとに,一般の皆さんに向けて松矢先生と私こと古郷が「のどちんこ」について語りかけたものです.
 「のどちんこ」は呼吸・嚥下・発音といった重要な機能にかかわっていますが,位置的に大きく口を開け,また覗き込まないかぎり外からは見えないために,ほとんど話題になることもありません.
 しかしながら「のどちんこ」の存在する位置は,後方は鼻咽腔という呼吸の際の空気の流れや消化管として食物の流れを考えるうえで重要な所であり,前方の軟口蓋はその鼻咽腔を調節するヒトの生命にかかわっている部分なのです.
 本書はその器官がいかに大切であるか,いかに日頃皆さんがよく使っているかを知っていただくことを目的としています.専門的な内容に偏らないよう心がけ,平易な文章にしてありますのでご一読くださり,「のどちんこ」の重要性について認識していただきたいと存じます.
 平成18年1月
 古郷 幹彦
1 軟口蓋と「のどちんこ」
2 「のどちんこ」はなぜあるのか
3 「のどちんこ」がなくてもキスができるのか
4 パパとママ 口の形は同じ
5 「のどちんこ」を自分で動かせますか
6 「のどちんこ」の感覚
7 ガラガラうがいは喉の奥まですっきりするか
8 捕食と呼吸は別道
9 くしゃみは鼻に,なぜ
10 咳は口に,なぜ
11 鼻から水は飲めない
12 人は誤嚥しやすい動物
13 哺乳類の嚥下の特徴
14 お年寄りはなぜ誤嚥しやすいのか
15 誤嚥を起こしやすい姿勢
16 なぜ,いびきは寝ているときに出る
17 眠っているときにも呼吸を忘れないのは,なぜ
18 睡眠時無呼吸症候群
19 咀嚼から嚥下に自然移行するのは,なぜ
20 咀嚼や嚥下の方法を忘れることはあるか
21 咀嚼は快楽か
22 カエルの呼吸,人とこんなに違う
23 哺乳類はオッパイが吸える
24 直立歩行で激変した人の口の構造
25 犬はなぜ「イー」と言えないのか
26 人の口呼吸と音声
27 母音と子音
28 発音時の軟口蓋運動
29 濁音を強く発音できないのは,なぜ
30 早口ことば,練習すればどこまで早くなる
31 聴覚と構音
32 カエルが一気に虫を飲み込むのは,なぜ
33 人と犬と馬 呼吸の違い
34 マラソンのあとの「のどちんこ」
35 「のどちんこ」の病気
36 胎児の「のどちんこ」のつくられ方
37 「のどちんこ」と脳
 「のどちんこ」と運動神経
 「のどちんこ」と呼吸
 「のどちんこ」と嚥下
 「のどちんこ」と咀嚼
 「のどちんこ」と発音