やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序にかえて

 恩師,北海道大学教授,内山洋一先生が平成9年3月末日をもってご退官されることとなった.1967年,新進気鋭の助教授として,東京医科歯科大学から33歳の若さで,新設された東北大学歯学部に赴任され,1971年,北海道大学教授として転任されるまでの4年間,私は,朝から晩まで,東北大学歯学部の学生としてファントム実習,臨床実習など,先生の熱心なご指導を受けた.
 その当時から,内山先生は天才的な臨床家として名を馳せ,学生にも評判であった.先生の臨床と教育に対する熱意はわれわれ学生でさえ,容易に察することができた.また先生のご研究は,つねにその視点が臨床に基づいたものであり,歯科医療の発展に貢献するものであった.
 これらの先生のご経歴は,歯科医学の大学教育の幕開けと目される時期から,現時点の進歩した歯科医療までを包含し,貴重なご体験としてもちあわせておられる.私は,先生から歯科に関する手ほどきを受け,いまなお先生と同じ道を歩む者として,数え切れないほど先生と接する機会に恵まれ,先生の貴重なご体験を折にふれてご教授いただいた.
 こうしたご経験は,いまとなっては今後の歯科医学における教育・研究・臨床にとって貴重なものであり,ご退官とともに忘れ去られてしまうことは,門弟の一人としてあまりに口惜しい.歯科の教育・研究・臨床に関する先生のお考えを,後世に記録としてとどめ,伝えていくことがわれわれの門弟の責務であると痛感した.
 折しも,医歯薬出版の協力により,先生との対談の企画を行うことができた.この対談を通して,先生のお考えの一端を引き出すことができたと思っている.この対談から,研究・教育・臨床に関して,未来に向けたヒントをおつかみになられた読者諸賢は,是非,先生のご著作にも目をお通しくださることをおすすめして,対談の序にかえたい.
 1997年3月吉日 東北大学教授 渡辺 誠
東京医科歯科大学の時代―1954〜1967年―
 教育をめぐる二つの立場… 2
 基礎教育は医学部の学生とともに… 2
 歯科の特殊性… 2
 医師になりたかった歯学生… 4
 日本には長らく歯科軍医がいなかった… 6
 なぜ補綴をめざしたか… 8
 物作りが好きだった… 8
 石原教室での9年半… 9
 すぐれた臨床医に学ぶこと――中沢 勇教授の言葉… 10
 ベーシックリサーチとクリニカルリサーチ… 12
東北大学の時代―1967〜1971年―
 東北大学歯学部の創世時代… 16
 教育に情熱を燃やした4年間… 16
 教育目標の設定… 17
 教える人のレベルが大切… 19
 学生数の教育への影響… 20
 技術教育のあり方… 20
北海道大学の時代―1971〜1997年―
 教室の理念・医局員の教育… 24
 講座を主催するにあたって… 24
 技術レベルの低下… 25
 技術教育の転換――これからは教育プログラムの研究が急務… 29
 生活の変化と歯学教育… 30
 使い捨て時代の歯学教育… 30
 実習のあり方――基本を理解させるための方法論… 31
 生活体験の少なさをふまえた実習のやり方… 32
 名人芸から,考える歯科医への転換… 35
研究の過去・現在・未来
 共同研究をめぐって… 40
 他分野の人とチームを組んでの研究… 40
 工学部の研究者の「もの」のとらえ方… 41
 工業製品の値段はかぎりなく素材の値段に近づく… 42
 頭蓋の骨格モデルの実体化… 43
 共同研究をスムーズに進めるためには… 46
 共通の言語を得る… 47
 人的要素が大切… 47
 研究の未来… 49
 CAD/CAMのゆくえ… 49
 「見えない物」を「見える」ようにする… 52
 名人芸からの脱却… 53
 アプリケーションの研究… 55
 研究へのサポートのあり方… 56
臨床40年の歩みから
 歯冠修復をめぐる変化… 58
 バンド冠から鋳造冠へ… 58
 エナメル質を守る――削除量を少なく… 58
 接着性レジンの活用… 60
 不潔域の消滅… 62
 新しい材料を導入する際には… 63
 印象材および印象法… 66
 顎関節症への取り組み… 68
 クラウンの外側精度について… 69
 臨床あれこれ… 72
 支台歯形成時の注意点… 72
 体軸・歯軸を意識して削る… 74
 フードインパクションへの対処… 75
 切削器具の進歩――マイクロモーターを使う臨床… 78
 個性排列について… 81
臨床で考えたこと
 臨床で大切なこと… 86
 次の一手を考えておく… 86
臨床は一人前になるのに20年かかる――
 最初の10年はなんでもやってみる時期… 89
 自分の手がけた事例に学ぶ… 90
 臨床で大切なのは,現状より悪くしないこと… 91
 生体の変化に対応できることが必要… 92
 オーダーシステムとセミオーダーシステム… 93
 製品の開発について… 94
 評価の基準… 96
 咀嚼の意味… 97
 これからの歯科治療… 99
 高齢者の治療――その日そのときを大切にする治療… 99
 予防主体の治療体系と,発生学的な面での研究…100
 技工について…101
 生体親和性ということ…102
 全身咬合…103
 診療の質…105
いいというのはどういう状況なのか――
 評価の方法を確立する…107
 社会へのPRが大切…108