やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

治癒の病理 臨床編第2巻 まえがき

 「治癒の病理・臨床編」シリーズの第1巻『歯内療法-歯髄保存の限界を求めて』に引きつづき,第2巻として「歯周治療-変容する臨床像への対応」を発刊する運びとなった.近年の歯周疾患に関する,めざましい基礎的および臨床的研究によって,多くの知見がもたらされた.その結果,歯周疾患の原因,病態および治療法のいずれについても新しい概念や解釈が確立され,臨床的対応も一応の目標に近づきつつあると考えられている.しかし,このような研究の発展にともなって新たな疑問や問題が生じ,生物学的背景に裏づけされた,さらに確実な診断法や治療法が求められるようになってきた.
 そこで,理論に裏づけされたbiologicalな歯周治療とはなにかを探究するために,臨床家の疑問や問題点を臨床側と基礎側の双方から検証してみようと,本書を企画した.とくに歯周病における診断,プラークコントロール,付着,歯槽骨の再生,歯の移動および咬合に焦点を絞ってみた.これらの課題に対しては,開業医,大学の臨床家,ならびに基礎研究者の方々の協力を得て,それぞれの立場からアプローチしていただくと同時に,最新の情報や近未来を視野にいれた内容の執筆をお願いした.
 その結果,多様な臨床像を呈する歯周疾患を確実に診断するためにはどうすればよいかについては,活動部位の臨床的診断と治療法,そして現在行われている歯周病検査法の基礎的背景について詳細に述べられている<第1章>.炎症の臨床症状を示さないヘルシーなポケットは存在するのかという疑問に対しては,歯肉縁上と縁下のプラークコントロールの重要性および両者の関係が考察されている<第2章>.歯周治療によって付着はどこまで獲得できるのかという問題に関しては,付着の臨床的多様性や上皮性付着と結合組織性付着との相関から,歯周疾患の治癒についての新しい解釈が提示されている<第3章>.さらに失われた歯槽骨を再生させるための条件や方法についての記載は,up to dateな情報が盛り込まれている<第4章>.歯周病と歯の移動との関連から,処置としての固定法の問題点が指摘され<第5章>,終章の第6章では,臨床および血管構築からみた咬合性外傷を検証して,歯周組織に調和した咬合を考察する内容となっている.
 忙しい読者のために,各章の末尾に編集者による要約と展望のページを設け,また文中にも要点をまとめたキャプションをつけるなど,レイアウトにも工夫したつもりである.
 本書が,生物学的裏づけとなり,歯周病の診断,病態の解釈および治療術式の一助となれば幸いである.読者諸賢のご批判を仰ぎたい.
 なお,続巻として,第3巻『歯の移植・再植』,第4巻『インプラント』,第5巻『顎機能との調和』の刊行を予定している.

 学術用語の統一について
 読者の便を考え,付着上皮(接合上皮),骨誘導蛋白(骨形成因子・BMP),形質転換成長因子(形質転換増殖因子・TGF)など,できるだけ用語を統一した.括弧内は同義語である.しかし,同時に著者の意見も尊重した結果,若干不統一な用語も散見されるが,ご容赦願いたい.
 終わりに,ご多忙にかかわらずご執筆いただいた著者の方々に厚くお礼申し上げます.そして,本書発刊にあたってご尽力いただいた医歯薬出版株式会社および編集部の諸氏に感謝いたします.
 1994年4月 下野正基 飯島国好
第1章 活動部位の診断-ペリオの多様性をどう診断するか?……1

臨床編
1 活動部位の臨床的診断
 吉江弘正・原 耕二……1
 1 従来の歯周診査法……1
 2 チェアサイドの診断キット……9
2 活動部位の診断と治療法
 前田勝正・廣藤卓雄・濱地貴文……18
 1 現在考えられるリスクマーカー……19
 2 診断に基づく治療法の選択……24

基礎編
1 歯周病検査法の基礎的背景 梅本俊夫……31
 1 歯周病の進行と歯肉縁下細菌叢の変化……32
 2 歯周病原細菌の病原因子とその作用……32
 3 組織破壊に関与する宿主側の因子……43
 4 再発(バースト)の機序……47
 5 Disease activityとして利用できる細菌学的検査法……49
要約と展望……60

第2章 プラークコントロール-ヘルシーポケットは存在するか?……62

臨床編
1 歯肉縁上プラークコントロールの重要性
 三上直一郎……62
 1 患者・部位を考慮したプラークコントロール……62
 2 縁上プラークコントロールの歯周組織への影響……70
 3 ポケットとのつきあい方……72
2 歯肉縁下プラークコントロール
 福田光男・野口俊英・天埜克彦……79
 1 歯肉縁下のブラッシング……80
 2 歯肉縁下のイリゲーション……80
 3 DDSによるプラークコントロール……82

基礎編
1 歯肉縁上プラークと歯肉縁下プラークの関係
 奥田克爾……93
 1 プラーク細菌の歯周病原性……93
 2 プラーク細菌の数……94  3 プラーク細菌の付着メカニズム……94
 4 プラークの環境……98
 5 プラーク細菌発育阻止物質……101
 6 プラーク細菌の種類と実験的歯肉炎……102
 7 プラーク細菌と歯石……103
 8 歯肉縁上プラークコントロールによる歯肉縁下プラークの質的変化……104
要約と展望……107

第3章 付着-付着はどこまで得られるか?……109

臨床編
1 付着の臨床的多様性 丸森英史……109
 1 臨床的付着の判断基準……110
 2 再発と付着様式……121
2 上皮性ならびに結合組織性付着獲得の条件
 小川哲次・岡本 莫……125
 1 歯周病罹患歯と付着形態……125
 2 付着の阻害因子と促進因子……127
 3 ルートプレーニングと付着構造の再形成……134
 4 上皮性付着と結合組織性付着との関係……139
 5 付着の獲得法……143

基礎編
1 上皮性付着と結合組織性付着
 橋本貞充・下野正基……150
 1 ポケット上皮……150
 2 上皮性付着……152
 3 結合組織性付着……156
 4 治癒形態……158
要約と展望……165

第4章 歯槽骨の再生-失われた骨は作られるか?……167

臨床編
1 歯槽骨再生の条件 吉江弘正……167
 1 骨再生の症例検証と理論的背景……168
 2 骨移植手術……172
 3 骨形成の促進因子……177
2 GTRの基礎と臨床 山田 了……183
 1 GTRの理論……183
 2 GTRに関する基礎的研究……185
 3 GTRに関する臨床応用……197

基礎編
1 骨再生の生物学 井上 孝・下野正基……208
 1 骨誘導と骨伝導……215
 2 骨細胞の分化とサイトカイン……226
要約と展望……229

第5章 歯周病と歯の移動-固定の功罪?……231

臨床編
1 歯の移動と固定 北川原 健……231
 歯の移動にみる生体の治癒能力……231
2 歯周病と矯正 池田和己……248
 1 歯周病患者に対する矯正の適応と限界……248
 2 成人矯正の留意点……256

基礎編
1 外力に対する歯周組織の応答
 森田修一・江尻貞一・花田晃治……266
 1 歯槽骨,歯根膜における生理的な改造現象……266
 2 矯正力と外傷性の力による組織反応……268
 3 歯根膜腔が拡大することの意義……272
要約と展望……274

第6章 歯周病と咬合-歯周組織に調和した咬合とは?……276

臨床編
1 歯周病患者に付与すべき咬合
 宮田 隆・荒木久生……276
 1 歯周疾患患者に対応した咬合の基本概念……276
 2 咬合からとらえた歯周疾患と補綴治療の原則……289
 3 歯周疾患患者の咬合挙上と顎関節・筋への影響……295
2 咬合性外傷の臨床的観察 飯島国好……304
 1 咬合性外傷の問題点……304
 2 咬合性外傷の選択基準……305
 3 観察方法……306
 4 結 果……307
 5 考 察……309

基礎編
1 咬合性外傷と歯根膜の血管網
 高橋和人・松尾雅斗……314
 1 歯周組織の微小循環……314
 2 歯根膜全体の血管網を立体的にみるために……314
 3 歯周組織における血管鋳型法……315
 4 歯根膜血管網の正常構造
<歯根膜血管網は2層構造>……317
 5 大きな地下室があった……320
 6 歯肉の微小循環……320
 7 顎骨をめぐる血液の循環……327
要約と展望……343

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