やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文

 イニシャルプレパレーションは,歯周治療のもっとも基本的な部分である.本処置によって,ほとんどの軽度歯周炎と中程度歯周炎の一部は治癒の経過をたどることになる.イニシャルプレパレーションの主たるターゲットは炎症であり,本処置の成否は炎症をいかに軽減させるか,あるいは完全になくすことができるかにかかっている.重度の歯周炎は本処置によって炎症を除くことは困難であるが,軽減させることができ,それはそれで大きな意味合いがある.
 歯周治療は炎症との戦いであるといっても過言ではない.歯周組織破壊の原因は炎症と咬合性外傷であるが,炎症の占める比率は高い.本書は消炎のためにどのようなアプローチがあるのか,それはどの程度効果的なのか,相互関係はどうなのかなどについての現在の考え方と処置をまとめたものである.
 いま,歯周治療にはフォローの風が吹いている.
 1996年4月に社会保険診療報酬改定が行われ,従来のいわゆるI型,II型の歯周治療の方式が一本化された.従来あった多くのいわゆるしばりが外され,各検査,スケーリング・ルートプレーニング,外科処置などに,それなりの診療報酬改定がなされた.イニシャルプレパレーションの根幹ともいえるスケーリング・ルートプレーニングが評価されたことは喜ばしい.
 8020運動が提唱され,その実現のために具体的な手が打たれている.中央社会保険医療協議会歯科小委員会においても,最優先課題として歯周治療の普及の促進の必要が指摘されている.従来ともすればなおざりになりがちであった歯周治療が,医療現場で行える環境は整ったともいえる.
 本書はその意味でタイムリーに炎症に対する基本的戦略をまとめることができたと自負している.各項目を担当された著者にはそれぞれ日常の臨床の成果とその臨床に基づいた研究の成果をわかりやすく述べていただいた.
 本書が,歯周治療に取り組まれている人,また本格的に取り組もうとされている人に役立つことを念願している.
 1996年9月 編者代表 岩山幸雄
I編 炎症軽減の意味合い 1
 1.炎症軽減の意味合い……2
   炎症と歯周治療の目的……2
   歯周基本治療での炎症軽減……3
   炎症軽減の方法……4
   炎症軽減法の相互関係……5
II編 スケーリング・ルートプレーニングの実際 7
 1.スケーリング・ルートプレーニングの意味合いと行う時期……8
   スケーリング・ルートプレーニングの意味合い……8
   スケーリング・ルートプレーニングを行う時期……9
 2.効果的なスケーリング・ルートプレーニングの方法…… 12
   スケーリング・ルートプレーニングをするまえに…… 12
   歯根面の診査法…… 16
   スケーリング・ルートプレーニングを行うための器具…… 18
   スケーリング・ルートプレーニングの方法…… 20
   グレーシー型スケーラーによるスケーリング・ルートプレーニングの術式…… 26
   スケーラーのシャープニング…… 32
 3.変性セメント質への対応…… 35
   変性セメント質とは…… 35
   セメント質はどのように変性するか…… 36
   変性セメント質の為害性…… 37
   変性セメント質の処置…… 38
 4.超音波スケーラーをどう用いるか…… 44
   超音波スケーラーの種類…… 44
   超音波スケーラーの操作法…… 45
   超音波スケーラーの使用時期…… 46
   超音波スケーラーの利点,欠点…… 47
   超音波スケーラーと手用スケーラーによるスケーリングの効果…… 48
   超音波スケーラーによるスケーリングの限界…… 49
   症例 1 超音波スケーラーのみを使用した症例…… 51
   症例 2 手用スケーラーと超音波スケーラーの併用により効果の表れた症例…… 54
   症例 3 手用スケーラーと超音波スケーラーの併用で効果の表れなかった症例…… 56
III編 炎症軽減のための歯周ポケット掻爬の実際 59
 1.炎症軽減のための歯周ポケット掻爬の実際…… 60
   歯周病と歯周ポケット…… 60
   歯周治療における歯周ポケット除去術の位置づけ…… 62
   炎症軽減のための歯周ポケット内の化学的治療法…… 63
   歯周ポケット除去法の種類…… 63
   キュレッタージの目的…… 64
   キュレッタージの適応症…… 64
   キュレッタージの禁忌症…… 66
   キュレッタージの種類…… 67
   キュレッタージの利点,欠点…… 67
   BSCテクニック…… 67
   新付着術(ENAP)…… 68
   歯肉切除術との比較…… 68
   キュレッタージの術式…… 69
   キュレッタージの再評価…… 73
   歯周治療の新しい評価基準…… 73
   キュレッタージ後のリコール…… 74
IV編 プラークリテンションファクターの処置 75
 1.不適合修復物…… 76
   症例 1…… 77
   症例 2…… 79
 2.食片圧入…… 81
   原因別処置法…… 81
   症例 1…… 84
   症例 2…… 84
   症例 3…… 85
   症例 4…… 86
 3.歯列不正…… 87
   矯正治療の目的…… 88
   矯正治療の適応症の選択…… 88
   矯正治療の難易度…… 89
   症例 1…… 90
   症例 2…… 92
 4.エナメルプロジェクション,パラトジンジバルグルーブ,オーバーカントゥア…… 95
   エナメルプロジェクション(エナメル突起,エナメル滴)…… 95
   パラトジンジバルグルーブ(口蓋裂溝)…… 95
   オーバーカントゥア…… 95
   症例 1 エナメルプロジェクションを伴った2度の根分岐部病変…… 97
   症例 2 パラトジンジバルグルーブを伴った中等度の歯周炎…… 99
   症例 3 パラトジンジバルグルーブを伴った重度の歯周炎……102
   症例 4 オーバーカントゥアを伴った軽度の歯周炎……104
V編 口呼吸にどこまで対応するか 107
 1.口呼吸にどこまで対応するか……108
   口呼吸に対する解釈……108
   口呼吸の診断……108
   口呼吸の対応策……111
   症例 1 原因が改善されない状態での治療例……113
   症例 2 筋機能療法併用が有効であった治療例……117
VI編 抗生物質療法の位置づけ 123
 1.抗生物質療法の位置づけ……124
   歯周治療の基本……124
   歯周ポケットのプラークコントロール……124
   抗生物質療法の位置づけ――全身投与から局所投与まで……125
   抗生物質療法に伴う細菌検査……126
   抗生物質療法の確立……127
   症例 1……133
   症例 2……135
   症例 3……137
   症例 4……139
VII編 プロフェッショナルトゥースクリーニングの実際 143
 1.プロフェッショナルトゥースクリーニングの実際――歯肉縁上および縁下プラークコントロールの意義と方法……144
   歯肉縁上プラークと歯肉縁下プラーク……144
   歯肉縁上プラークコントロールが歯肉縁下細菌叢に与える影響……145
   プラークコントロールの悪い患者に対するプロフェッショナルトゥースクリーニングの効果……153
   プロフェッショナルトゥースクリーニングの実際……154
   メインテナンスとその頻度……156
   症例 1……157
   症例 2……159
   症例 3……162
VIII編 ノンサージカルトリートメントの限界 167
 1.ノンサージカルトリートメントの限界……168
   ノンサージカルトリートメントの効果……168
   ノンサージカルトリートメントの限界……169
   サージカルトリートメントの効果……171
   実際の症例への対応……174
   症例 1 ノンサージカルトリートメントで歯周治療を行うことが可能であった症例……176
   症例 2 サージカルトリートメントの併用が必要であった症例……179
   症例 3 サージカルトリートメントを行うかどうか迷った症例……182
IX編 サージカルトリートメントが行えない患者への対応 189
 1.サージカルトリートメントが行えない患者への対応……190
   サージカルトリートメントが行えない原因……190
   サージカルトリートメントに代えて行う治療……190
   症例 1 再生不良性貧血によりサージカルトリートメントを行わなかった症例……192
   症例 2 血小板無力症によりサージカルトリートメントを行わなかった症例……193
   症例 3 顎関節症による長時間の開口困難のためサージカルトリートメントを断念した症例……194

索引……197