やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社



 近年,歯科医学はその技術・材料など広い分野で著しい進歩をとげ,社会のニーズにさまざまな形で対応しているが,社会は高齢化を迎え,21世紀には逆ピラミッド型の人口構成となり,かつて経験したことのない事態を迎えようとしている.
 このような中にあって医療は国民皆保険を中心とした社会化が進み,今日ではその量から質が問われている.厚生省では,この新しい時代を迎え8020運動を提唱し,歯科医療の質の向上と維持を求め,80歳でなお楽しい人生を送れるような目標を設定している.
 こうした時期に,進歩・発展の著しい,また多様化のみられる歯科医療に対応のできる臨床研修医の指導書として,また経験を積んだ一般臨床医の座右の書として,有用性の高い症例集として企画したのが本書である.
 本書の特徴は,歯科診療全般にわたって,あらゆる臨床ケースを選び出し,最新の歯科医学情報を随所に盛り込んだケーススタディを主要な目的としている.そのため,患者が来院時に訴える悩みを細大もらさず分析し,主訴内容を集約して,それぞれシリーズとして5巻にまとめた.
 各巻は,主訴ごとに主体となる発症部位別に症例を区分し目次にしてある.したがって,患者の主訴と発症部位によりページを開くと,その疾患に該当する病歴があり,それに続いて診断,治療方針さらに経過や予後などが理解できるようになっている.いわば臨床症例の事典として活用できる仕組みに構成してある.
 第1巻では咬合問題を中心とした“咀嚼障害と発音障害“について,第2巻では苦痛からの解放を中心とした“疼痛”について症例集として発刊されている.第3巻では社会生活を進めるうえで重要な位置を占める審美性の回復を中心として“審美”のテーマをとりあげた.
 本第4巻では下顎運動をその様々な要因,およびその診断と治療について症例をあげ,解説している.
 各症例はおおむね2ページないし4ページにまとめ,簡潔な解説と数個の図や写真によって構成し,また,全体の理解を深めるのに役立つように,大きなテーマごとに短編の“コメント”を挿入したことも特徴としてあげられる.さらに,巻末には索引をおき,疾患名,検査法,治療法など臨床に必要な項目が引き出せるように工夫してある.
 このように多彩な特徴を備えた本書は,一般の臨床医はもちろんのこと,臨床実習に取り組み,国家試験を目前に控えた学生諸君にも臨床実地試験の模擬ケースとして,大いに参考になるものと考える.さらに卒直後研修や生涯研修のための手引書として,また歯学教育のための最新の臨床指導書として,本書を各年代それぞれの立場で,生きた知識と技術の修得に活用していただきたい.
 本書の出版が歯科医療の向上に役立つことになれば幸いである.
 1995年10月 泉 廣次 腰原 好 斎藤 毅
総説下顎運動障害の要因…(藍稔,吉野敏明) 2

第1章 歯および歯列… 8
  歯列の乱れと下顎運動障害…(瑞森崇弘,丸山剛郎) 8
 1-1 下顎智歯周囲炎に由来する開口障害…(濱村康司,松矢篤三) 12
 1-2 急性炎症に伴う歯痛による障害…15
  歯髄炎(三條大助,笹野高嗣) 15
  歯周疾患の急性発作(三條大助,阪本真弥) 16
 1-3 咬合干渉による下顎運動障害…18
  クローズド・ロック(齊藤力,野沢健司) 18
  前方運動障害(遠藤ゆかり,青木英夫) 22
  側方運動障害(木本克彦,青木英夫) 24
  後方運動障害(玉置勝司,青木英夫) 26
 1-4 歯の欠如による下顎運動障害…28
  前歯部欠如(アンテリアガイダンスの欠如)(橋俊之) 28
  臼歯部欠如(オクルーザルストップの欠如)(齋藤文明) 30
  総義歯装着者の下顎運動障害(小林喜平) 33

第2章 口腔軟組織…35
  蜂窩織炎(蜂巣炎)の成因と処置方針…(工藤逸郎,堀 稔) 35
 2-1 潰瘍性壊死性歯肉炎・口内炎(Vincent口内炎)…(工藤逸郎,三宅正彦) 39
 2-2 蜂窩織炎…41
  上顎骨周囲の蜂窩織炎による開口障害(工藤逸郎,堀 稔) 41
  下顎骨周囲の蜂窩織炎による開口障害(工藤逸郎,堀 稔) 42
 2-3 放線菌症による開口障害…(新藤潤一) 44
 2-4 唾液腺…46
  唾液腺の炎症,唾石症(泉 廣次,加藤仁夫) 46
  老年者の口腔乾燥症(佐藤雅志) 48
 2-5 舌…51
  舌小帯異常(工藤逸郎,三宅正彦) 51
  舌の機能異常(舌の運動障害,口腔底の大きな嚢胞)(工藤逸郎,三宅正彦) 53

第3章 顎骨…55
 3-1 顎骨骨膜炎・骨髄炎による下顎骨運動障害…(泉 廣次,川名以徳) 55
 3-2 骨折による顎の偏位…(泉 廣次,川名以徳) 57
 3-3 顎骨手術後の偏位および欠損…(湊耕一,泉 廣次) 59
 3-4 顎の変形症…(泉 廣次,加藤仁夫) 61

第4章 顎関節…63
  顎関節の診査法…(大西正俊) 63
 4-1 顎関節炎…67
  全身性顎関節炎による開口障害――顎関節リウマチ(大西正俊) 67
  局所性急性化膿性顎関節炎による開口障害(大西正俊) 71
 4-2 顎関節強直症による下顎運動障害…(柿澤卓) 73
 4-3 顎関節拘縮症による下顎運動障害…(柿澤卓) 75
 4-4 顎関節発育障害…77
  肥大による下顎運動障害(飯塚忠彦,村上賢一郎) 77
  欠損による下顎運動障害(飯塚忠彦,村上賢一郎) 78
 4-5 顎関節部の骨折,脱臼…81
  外傷による下顎運動障害(村上賢一郎,飯塚忠彦) 81
  脱臼による下顎運動障害(村上賢一郎,飯塚忠彦) 82
  亜脱臼による下顎運動障害(村上賢一郎,飯塚忠彦) 83
  習慣性脱臼による下顎運動障害(村上賢一郎,飯塚忠彦) 85
 4-6 顎関節症…87
  顎関節症の分類と治療方針(水谷英樹,金田敏郎) 87
  顎関節症による下顎運動障害(1)――スプリント療法(水谷英樹,金田敏郎) 91
  顎関節症による下顎運動障害(2)――バイオフィードバック療法(水谷英樹,金田敏郎) 93
  顎関節症による下顎運動障害(3)――関節鏡視下手術による治療(大西正俊) 95
  顎関節症による下顎運動障害(4)――ハリ治療(大西正俊) 101
  顎関節症による下顎運動障害(5)――薬物療法(許重人,渡辺誠)103
 4-7 高齢者の変形性顎関節症…(菊池雅彦,渡辺誠) 105

第5章 筋…108
  筋の作用と運動障害…(赤坂庸子) 108
 5-1 全身疾患に由来する筋の拘縮(硬直)…(赤坂庸子) 114
 5-2 重症筋無力症…(赤坂庸子) 118
 5-3 伝達麻酔の後遺症…(赤坂庸子) 120

第6章 歯ぎしり…122
  歯ぎしりに対する治療方針…(加藤,本郷興人) 122
 6-1 歯ぎしり――歯周炎の進行に咬合性外傷がかかわっていると考えられる症例…(加藤,坂上竜資) 126

第7章 神経・精神障害…129
  脳卒中と下顎運動障害…(中澤清) 129
 7-1 神経麻痺…137
  顔面神経麻痺による下顎運動障害(成田令博) 137
  舌神経麻痺による下顎運動障害(成田令博) 139
  咀嚼筋神経麻痺による下顎運動障害(成田令博) 141
 7-2 神経痛(三叉神経痛)による下顎運動障害…(成田令博) 143
 7-3 顔面神経痙攣(顔面チック)による下顎運動障害…(成田令博) 145
 7-4 不随意運動(オーラルディスキネジア)…147
  不随意運動の原因(不随意運動に対する歯科治療)(渡辺郁馬, 石山直欣) 147
  不随意運動に対する歯科的治療法(腰原好) 156

第8章 障害者にみられる下顎運動異常…159
  知的障害者の口腔の特徴と下顎運動障害…(上原進) 159
 8-1 リハビリテーション…163
  摂食機能訓練(中澤清) 163
  発音(山下夕香里,道健一) 168

索引…173