やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 長寿社会を迎え,いかに楽しい人生を過ごすか,健康長寿をいかに延ばすかが重要な課題となっており,その鍵を握るといっても過言でない歯の重要性が再認識されております.2011年には歯科口腔保健法も制定されるなど,歯科医療のさらなる発展が期待されております.このような背景の中,インプラント治療は欠損のある患者さんにとって,残存歯に負担をかけずに咀嚼改善ができ,顎堤保全にも有利な福音の治療といえるでしょう.しかし多数歯欠損においては,外科的侵襲,経済面,術者の技術面から,多数のインプラント埋入は躊躇せざるを得ない場合が臨床上多くみられ,少数のインプラントで治療可能なインプラントオーバーデンチャーが改めて注目されております.
 インプラントオーバーデンチャーは,2002年に提唱された「下顎無歯顎においては,インプラント2本支台オーバーデンチャーを第一選択の標準治療とすべきではないか」というMcGillコンセンサスをはじめ,世界的に優れた治療として認められ広く使用されております.しかし日本においては,残念ながら普及が遅れているのが現状です.そこで,インプラントオーバーデンチャーの基本事項,そして長期症例をまじえた多くの症例を通して,臨床的活用法についてまとめさせていただきました.無歯顎・多数歯欠損へのアプローチの留意点をはじめ,維持装置の選択,数々の補綴設計指針や無口蓋義歯製作のポイント,すれ違い咬合への対応など解説いたしました.また,インプラントオーバーデンチャーといっても一括りで語ることはできず,設計によりまったく異なる考察が必要となり,リジッドIODとフレキシブル(ノンリジッド)IODの考え方も紹介しています.そして,特に小型でメール・フィメールが平面で支台に優しく,咬合支持の改善が容易で使用に伴う維持力の減衰がないなど,他の維持装置にない磁力という特殊な維持力を利用している磁性アタッチメントについて,詳述いたしました.加えて長寿社会を迎えてユニバーサルサポートの考え方,そして要介護をも考慮したインプラントオーバーデンチャーへの設計変更必要度レベル評価についても検討してみました.
 刊行にあたりましては,本書の執筆の機会と多大なご協力をいただいた米原秀明氏をはじめ医歯薬出版の方々に厚く謝意を表します.また,技工製作をしてくださった協和デンタルラボラトリー様,株式会社杏友会様,長年にわたり共に研究を重ねてきたMACS研究会(http://www.macssystem.jp/)の星野和正先生,資料の準備から整理にいたるまで惜しみない協力をしてくださった長尾晴美氏,服部あゆ子氏,そして,編集を担当していただいた中村 伸氏に心より感謝申し上げます.
 最後になりましたが,世界にも類をみない超高齢社会を迎えた日本においてこそ,QOL向上と健康長寿増進のためにも,少数のインプラントで高い効果のあるインプラントオーバーデンチャーを普及させ,そして,確立させた適切な利用法を世界へ発信していくことが期待されます.本書がその一助となるとともに,欠損で悩んでいる多くの患者さんに恩恵をもたらすことになれば望外の幸せです.
 2012年9月
 田中 譲治
 序文
I インプラントオーバーデンチャーの現状
 ・治療法としての位置づけ
II 無歯顎インプラント補綴の分類とその留意点
 ・クラウン・ブリッジ・タイプ
 ・ハイブリッド・タイプ
 ・オーバーデンチャー・タイプ
 ・無歯顎・多数歯欠損における固定性インプラント補綴の設計指針
III インプラントオーバーデンチャーの必要性
 ・固定性インプラント補綴の限界および注意点
 ・総義歯VSインプラントオーバーデンチャー
  1.咀嚼力の限界
  2.予知性と有用性〜McGillコンセンサス
  3.顎堤保全〜 Biological Costの抑制〜
 ・固定性インプラント補綴VSインプラントオーバーデンチャー
  1.水平的吸収(リップサポート,切歯乳頭の位置,上下顎関係)
  2.垂直的吸収(顎間距離,上唇の長さ,スマイルリップライン)
  3.口蓋の吸収(発音障害)
IV インプラントオーバーデンチャーの利点
 ・インプラント植立本数を少なくできる
 ・審美回復
 ・リップサポート(顔貌の回復)
 ・適切なアーチフォームの回復
 ・発音機能の回復
 ・スムーズな食事
 ・メインテナンス
V インプラントオーバーデンチャー施術上の注意点
 ・外科における注意
 ・免荷期間中の注意
  1.ガーゼ法
  2.埋入後の義歯の取り扱い
  3.インテグレーション後の義歯の取り扱い
 ・維持装置のスペース確保
VI インプラントオーバーデンチャーの設計指針(リジッドIOD,フレキシブルIOD)
 ・インプラントオーバーデンチャーの支持様式による分類
  1.インプラント支持様式
  2.インプラント粘膜支持様式
  3.粘膜支持様式
 ・長期安定とニーズから考えた設計(リジッドIOD,フレキシブルIOD)
  1.リジッドIOD,フレキシブル(ノンリジッド)IOD
  2.両側性バランスの利用
  3.義歯と顎骨間の粘膜の存在
  4.機能回復と支台の保全
VII 維持装置の選択
 ・バーアタッチメント
 ・スタッドアタッチメント
 ・磁性アタッチメント
 ・維持装置の選択
VIII 磁性アタッチメントの利用
 ・磁石の臨床応用
 ・磁性アタッチメントの利点
  1.支台の保護
  2.義歯のバリアフリー
  3.審美補綴
 ・各種国内磁性アタッチメント
 ・磁性アタッチメントの文献的考察
  1.長期経過観察比較研究
  2.クロスオーバー比較研究
  3.下顎インプラントオーバーデンチャーによる下顎臼歯および上顎への影響
  4.高性能磁性アタッチメント使用研究
  5.ユニバーサルサポート
 ・インプラントの難点を克服する磁性アタッチメント
  1.インプラントからの視点
   1)植立方向,着脱方向に制約が少ない(外科的侵襲を抑える) 2)植立位置に制限が少ない 3)支台の負担を軽減 4)天然歯との併用が容易 5)メインテナンスが容易(高齢者に有利)
  2.有床義歯からの視点
   1)顎堤の保全に有利 2)咬合支持の改善に優れる 3)残存歯に負担をかけない 4)少ないクリアランスにも適応 5)審美的に優れる部分床義歯への応用も簡便(審美性向上および残存歯の保護)
 ・磁性アタッチメントを用いた補綴設計
  1.磁性アタッチメントの使用目的による分類
   1)Type R使用(ソフト・デザイン) 2)Type SR使用(サポート・デザイン) 3)Type BSR使用(リジッド・デザイン)
  2.全部床義歯における具体的設計
   1)上顎全部床義歯 2)下顎全部床義歯
  3.部分床義歯における具体的設計
   1)ユニバーサルサポートへの応用 2)咬合支持の改善および顎堤保全
 ・磁性アタッチメントの注意点と術式
  1.磁性アタッチメントの注意点
   1)取り付けの際のマグネットの位置ずれ 2)即時重合レジンのアンダーカットへの流れ込み 3)後日のマグネットの脱落 4)マグネットの加熱 5)MRIへの影響 6)鋳接によるキーパーの劣化
  2.磁性アタッチメントの術式
 ・磁性アタッチメントの安全性
 ・磁性アタッチメントのさまざまな応用
  1.片側処理への応用
  2.即時荷重への応用
  3.フラップレスサージェリーへの応用
  4.その他臨床テクニック
   1)トンネリング法,即日治療,移行症例,併用症例 2)可撤式クラウン・ブリッジへの応用 3)印象採得への応用
IX 無口蓋義歯の製作ポイント
 ・インプラントポジション
 ・人工歯排列
 ・義歯装着後の調整
X すれ違い咬合への対応について
 ・すれ違い咬合の悪循環
 ・インプラントによる受圧・加圧の改善
XI コンビネーションシンドロームについて
 ・コンビネーションシンドロームの予防や悪化抑制
 ・下顎インプラントオーバーデンチャーによる誘発への疑問
XII インプラントオーバーデンチャーのメインテナンス
 ・メインテナンスのポイント
 ・磁性アタッチメントの具体的注意
XIII インプラントオーバーデンチャーへの設計変更必要度レベル評価
 ・長寿社会における優れた補綴法
 ・設計変更必要度レベル評価
XIV インプラントオーバーデンチャーの展望

 参考文献
 索引