やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 矯正歯科治療は,不正咬合の改善による口腔機能面や審美的問題をも含めた心理面への影響の大きさから,近年,社会に広く認識されるようになっている.また,一般歯科治療に矯正学的配慮を行うことでその治療効果の質的向上が得られることについても理解が得られてきており,矯正歯科治療に関心をもち,積極的にその習得を目指す一般臨床歯科医が増えてきている.
 幼児・学童期(乳歯・混合歯列期)は,身体的にも精神的にも成長発育が最も旺盛で,歯の交換に伴う顎骨の大きさの変化や上下顎の垂直的,前後的,そして左右的関係の変化が生じやすい時期である.したがって,この時期の不正咬合に対して矯正学的アプローチを行うことにより,不正咬合の複雑化を予防でき,非抜歯治療の確率が高まるなど,永久歯の咬合関係の確立に大きな影響を与えることができる.また,将来生じる可能性のある不正咬合の発現予防も期待することができる.
 この時期は,患者さん本人ならびに保護者がはじめて歯ならびの不正を認識し,われわれ歯科医師に相談が寄せられて,対処を求められる機会がもっとも多くなる時期である.治療に際しては,成長発育による変化過程にあるゆえに,同じカテゴリーに所属する不正咬合であっても永久歯列期や成人とは異なった対応が求められ,特別な配慮が必要となる.また,最近では,障害をもつ子どもの不正咬合への対応を望まれる機会も増えてきている.障害をもつ子どもに対しては,障害の程度に応じた対応が必要となり,健常児とは異なる手法で臨むことも大切である.
 本書では,乳歯列期,混合歯列期ならびに障害児の各種不正咬合の治療を行うにあたって必要な基礎知識,診断・治療方針・治療方法の立案,矯正歯科治療の実際について解説を行っている.特に,矯正歯科治療の実際については,日常臨床に即応できるよう実際の治療の流れに重きをおいた内容とすべく治療経過を呈示し,乳歯列期,混合歯列期から永久歯列期までの矯正歯科治療の一貫した流れを理解できるように留意している.また,矯正歯科治療は矯正装置の選択とも密接に関係していることから,矯正装置の使用法もまじえながらビジュアルな誌面となるよう工夫している.
 本書は,矯正歯科専門医を目指す若手の歯科医師はもちろん,矯正歯科治療を積極的に学ぼうとする小児歯科医,一般臨床歯科医を対象にしている.日々の臨床においてすぐに役立つ手引書の1 つとしてご活用いただければ幸いである.
 2012 年2 月
 編著者を代表して 後藤滋巳
第1章 幼児・学童期(乳歯・混合歯列期)の矯正歯科治療を行うにあたって(後藤滋巳)
 はじめに
 幼児・学童期(乳歯・混合歯列期)の不正咬合
 幼児・学童期(乳歯・混合歯列期)の矯正歯科治療
 幼児・学童期(乳歯・混合歯列期)の患者の社会的背景
 患者の協力
第2章 幼児・学童期(乳歯・混合歯列期)の矯正歯科治療の流れ(宮澤 健,後藤滋巳)
 初 診
 診断用資料採得(精密検査)
 資料の分析
 診断と治療方針・方法の策定
 診断内容の説明(インフォームドコンセント)
 口腔清掃指導
 矯正歯科治療の開始
 保定への移行
 経過観察
第3章 幼児・学童期(乳歯・混合歯列期)の矯正歯科治療の実際
  舌突出癖の除去により開咬の改善を行った症例(佐藤友紀,槇 宏太郎)
  吸指癖の防止,上顎歯列の側方拡大により交叉咬合の改善を行った症例(石橋 淳,居波 徹)
  上顎歯列の拡大により交叉咬合の改善を行った症例(中野裕子,居波 徹)
  上顎の成長発育促進により交叉咬合の改善を行った症例(宮澤 健,後藤滋巳)
  歯列の側方拡大と埋伏歯の牽引を行った症例(岩田敏男,後藤滋巳)
  埋伏した上顎中切歯の開窓,牽引を行った症例(中納治久,小野美樹,槇 宏太郎)
  低位の上顎中切歯の牽引を行った症例(阿部朗子,石川博之)
  狭窄歯列の改善により上顎前歯部萌出余地不足の解消を行った症例(植木猛士,石川博之)
  骨格性不調和の改善により上顎前歯部萌出余地不足の解消を行った症例(丹澤 豪,槇 宏太郎)
  上顎側切歯の唇側移動により叢生の改善を行った症例(近藤高正,後藤滋巳)
  大臼歯の遠心移動により上顎側方歯萌出余地不足の解消を行った症例(吉田智治,石川博之)
  上顎側切歯の舌側転位の改善により早期接触の解消を行った症例(新 真紀子,槇 宏太郎)
  埋伏過剰歯の除去と大臼歯の遠心移動により永久歯萌出余地不足の解消を行った症例(友安洋子,槇 宏太郎)
  口腔習癖の除去により開咬の改善を行った症例(不破祐司,後藤滋巳)
  口腔習癖の除去により開咬の改善を行った症例(石橋 淳,居波 徹)
  口腔習癖の除去により開咬の改善を行った症例(丸山 瞳,嘉ノ海龍三)
  上顎前歯部の捻転を改善した症例(長谷川 綾,石川博之)
  大臼歯の遠心移動による萌出余地不足の解消と上顎の成長発育抑制,咬合挙上により上顎前突の改善を行った症例(成冨雅則,石川博之)
  咬合挙上による外傷性咬合の軽減と下顎の成長発育促進により上顎前突の改善を行った症例(石橋 淳,居波 徹)
  下顎の成長発育促進と咬合挙上により上顎前突の改善を行った症例(田口智博,杉浦芙美,槇 宏太郎)
  歯列の側方拡大による萌出余地不足の解消と下顎の成長発育促進,咬合挙上により上顎前突の改善を行った症例(伊集院公美子,槇 宏太郎)
  下顎の成長発育促進により上顎前突の改善を行った症例(近藤高正,後藤滋巳)
  下顎の成長発育促進により上顎前突の改善を行った症例(宮澤 健,後藤滋巳)
  上顎歯列の側方拡大と大臼歯の遠心移動により上顎前突の改善を行った症例(中野裕子,居波 徹)
  上顎歯列の側方拡大により交叉咬合の改善を行った症例(柴田桃子,後藤滋巳)
  態癖の解消と上顎歯列の側方拡大により交叉咬合の改善を行った症例(中納治久,市川雄大,槇 宏太郎)
  上顎前歯部の唇側移動により反対咬合の改善を行った症例(田邊 怜,竹内陽平,槇 宏太郎)
  上顎前歯部の唇側傾斜により反対咬合の改善を行った症例(中納治久,武井久美子,槇 宏太郎)
  低位舌・舌突出癖の解消と下顎前歯部の舌側傾斜により反対咬合の改善を行った症例(藤川泰成,槇 宏太郎)
  上顎の成長発育促進により反対咬合の改善を行った症例(大嶋貴子,槇 宏太郎)
  上顎の成長発育促進により反対咬合の改善を行った症例(友安洋子,槇 宏太郎)
  上顎歯列の側方拡大と成長発育促進により反対咬合の改善を行った症例(佐藤琢麻,後藤滋巳)
  上顎歯列の側方拡大と成長発育促進により反対咬合の改善を行った症例(川口美須津,後藤滋巳)
  上顎歯列の側方拡大と成長発育促進により反対咬合の改善を行った症例(中野裕子,居波 徹)
  先天性欠如に対し対顎永久歯の自家移植を行った症例(丸山 瞳,嘉ノ海龍三)
  上顎の成長発育促進と臼歯部の近心移動により先天性欠如を伴う反対咬合の改善を行った症例(田渕雅子,後藤滋巳)
  埋伏歯の牽引を行った症例(秦 雄一郎,石川博之)
  低位舌の改善と埋伏歯の牽引を行った症例(丸山 瞳,嘉ノ海龍三)
第4章 障害児に対する矯正歯科治療の実際
 ダウン症候群患者の矯正歯科治療(福田 理)
 自閉症患者の矯正歯科治療(福田 理)
 口唇・口蓋裂患者の矯正歯科治療(福田 理)
  上下顎歯列の側方拡大により下顎前突の改善を行った症例(名和弘幸,福田 理)
  前歯部の傾斜移動と上顎歯列の側方拡大,成長発育促進により反対咬合の改善を行った症例(名和弘幸,福田 理)
  上顎の成長発育促進により下顎前突の改善を行った症例(名和弘幸,福田 理)
  前歯部の傾斜移動と上顎の成長発育促進により反対咬合の改善を行った症例(名和弘幸,福田 理)
  唇顎口蓋裂に対応し,上顎の成長発育促進により反対咬合の改善を行った症例(倉林仁美,槇 宏太郎)

 参考文献
 索引