やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 近年,歯科医療は高度化し,大学6年間の歯科教育では基礎的な知識を習得するのに手一杯であり,高度な医療知識や技術まではとても習得できる状態ではない.そこで,専門医制度が導入され,また,平成18年度からは1年間の歯科研修制度が法政化されることから,現在,各歯科大学や関連学会では認定医ならびに歯科研修医の教育のあり方について懸命に検討されていると聞く.
 しかし,制度は別として,長年,歯科診療に従事してきたベテランの歯科医師の方がたから,無歯顎補綴,つまり“全部床義歯は奥が深くてむずかしい“と話されるのをよく聞く.実は義歯専門に40年以上も取り組んできたわたくしも同じ意見である.これは,多くの無歯顎患者に接し,いろいろな難症例にも取り組んできた歯科医師にしかいえない表現であって,“全部床義歯はおもしろい”といっているのも同然である.むしろ,経験の浅い歯科医師に対して,“教科書や基礎実習で習ったような方法だけで,無歯顎患者のようなむずかしい補綴診療はできないぞ”という逆説的な忠告かもしれない.
 教科書には全部床義歯のつくり方についてのいろいろな考え方や術式が記載されている.一方,患者側には顎堤形態や顎間関係など,義歯を製作するうえで問題となる要因が口腔内にはいっぱいあり,患者に応じた最善の術式を選択し,診療していかなければ患者の満足する義歯は提供できない.診療の場に義歯に詳しい歯科医師がいれば簡単に問題の解決ができるが,もしいなければ自分自身で努力する以外に道はない.問題の解決ができないまま診療に当たることは,歯科医師にとっても,患者にとっても不幸なことである.
 本書は,研修医制度の導入を見越して4年近く前から企画し,臨床経験の豊富な先生を中心に編集会議をもち,それぞれ得意な分野を受け持っていただいた.しかし,先生方にはそれぞれ独自なお考えがあり,編集段階で意見の食い違いをみたが,全体的な観点から編者の意向に沿うようなかたちに書き直していただき,全体としてすじが通るように整理した.また,図中,診療中にゴム手袋の着用のない写真が数枚認められるが,症例的に再撮影ができないこともあり,そのまま掲載させていただいた.
 上記のような目的で企画した本ではあるが,すべての問題点を取り上げ,解説したとは思っていない.むしろ今後,本書をたたき台に,時代に即応した問題点を取り上げ,新しい本の出版の足がかりにしていただければ幸いである.
 2005年12月吉日
 松本直之
第1章 診察・検査・診断・治療計画・前処置の問題点と対策(平井敏博,石島 勉,越野 寿)
 Q1 わが国における無歯顎患者と全部床義歯装着者の状況は?
 Q2 加齢に伴う咀嚼系の形態的・機能的変化(老化)とは?
 Q3 全部床義歯による咀嚼機能の回復を左右する因子は?
 Q4 全部床義歯における“支持”とは?
 Q5 全部床義歯における“維持,安定”とは?
 Q6 無歯顎補綴治療はQOLの維持,向上に寄与するか?
 Q7 患者の訴えから原因を探るための診察法は?
 Q8 無歯顎補綴治療の診察,検査は?
 Q9 無歯顎補綴治療における診断とは?
 Q10 治療用義歯はどのようなときに用いるか?
 Q11 粘膜調整の方法は?
 Q12 咬合治療の方法は?
 Q13 複製義歯の利用法は?
 Q14 無歯顎補綴治療におけるインフォームドコンセントと患者指導は?
 Q15 全部床義歯の装着によって患者はどのくらい満足するか?
 Q16 全部床義歯装着者の咀嚼機能はどのくらいか?
 Q17 要介護高齢者に対する無歯顎補綴治療の注意点は?
第2章 印象採得時の問題点と対策(松本直之)
 Q1 全部床義歯の特色と無歯顎印象の原則とは?
 Q2 辺縁封鎖の効果とは?
 Q3 義歯を取り巻く筋がどのように義歯床形態とかかわっているか?
 Q4 辺縁封鎖の観点から上顎義歯床の外形線の位置ならびに床翼形態を考えるとどうなるか?
 Q5 上顎の床後縁の位置はどのようにして決めればよいか?
 Q6 上顎の顎堤弓は骨吸収に伴って狭小化していくが,印象域も狭小化させてよいのか?
 Q7 辺縁封鎖からみて下顎義歯床の外形線の位置ならびに床翼形態はどうなるか?
 Q8 上顎印象よりも下顎印象がむずかしいといわれる理由は?
 Q9 下顎印象のなかでも,とくに舌側床翼部の印象がむずかしいといわれる理由と印象のポイントは?
 Q10 舌の位置で口腔底の高さが変わるなら,舌側床縁はどのときの口腔底の高さを印記すればよいか?
 Q11 下顎の床後縁はどこまで延ばせるか?
 Q12 全部床義歯装着者のための舌の位置の指導は?
 Q13 無歯顎用印象材の物理的特性と有効的な使用法は?
 Q14 最終印象時,どのような状態の義歯床下粘膜を記録したいのか.そのときの印象法に違いはあるか?
 Q15 臨床で見受けられる全部床義歯にはどのようなものがあるか?
 Q16 モデリングコンパウンドを用いた概形印象採得時の正しい操作手順は?
 Q17 概形印象でアルジネート印象材を用いたときのアルジネート積層2回印象法とは?
 Q18 個人トレー製作時の問題点と対策は?
 Q19 フラビーガムがある患者の個人トレーで注意すべき点は?
 Q20 辺縁形成用印象材としてのトレーコンパウンドの問題点と辺縁形成時の要点は?
 Q21 トレーコンパウンドに代わる簡便で,正確に辺縁形成できる印象材とその術式は?
 Q22 最終印象時の要点は?
 Q23 最終印象を義歯に再現するためのボクシングのあり方とポイントは?
第3章 咬合採得時の問題点と対策(川口豊三)
 Q1 全部床義歯の咬合採得を下顎の動きからみるとどうか?
 Q2 全部床義歯の咬合採得ではどこに問題がおきやすいか?
 Q3 どのような基礎床を使うのがよいか?
 Q4 咬合面からみる咬合堤の形,位置はどのようにして決めるか?
 Q5 咬合床で咬合堤の高さはどう決めればよいか?
 Q6 仮想咬合平面の設定法の違いは咬合採得に影響するか?
 Q7 カンペル平面を決めるときの後方の基準点はどこにおくか?
 Q8 人工歯の排列方法が違うと仮想咬合平面の決め方も違うか?
 Q9 有歯顎時の上下顎の前後的な位置関係と咬合採得時の注意点は?
 Q10 咬合高径の最終的な判断はどうするか?
 Q11 咬合床を用いて水平的な下顎位を正確に求める方策はあるか?
 Q12 上下顎の咬合床を固定するときの注意点は?
 Q13 標示線を決めるときの注意点は?
 Q14 ゴシックアーチ描記装置を口内法と口外法に分けて比較するとどうなるか?
 Q15 ゴシックアーチ描記の前準備とは?
 Q16 ゴシックアーチ描記装置の製作法は?
 Q17 描記板を装着するときの問題点と対策は?
 Q18 ゴシックアーチの描記法と描記図の読み方は?
 Q19 タッピングポイントから顆頭安定位を決められるか?
 Q20 コア採得時と模型再装着時の問題点と対策は?
第4章 模型装着と咬合器選択ならびに咬合器調節時の問題点と対策(小出 馨,佐藤利英,近藤敦子)
 Q1 咬合器を選択するときの問題点は?
 Q2 調節性咬合器にはどのような調節機構が備わっているか?
 Q3 全部床義歯製作にはアルコン型とコンダイラー型のどちらの咬合器が適しているか?
 Q4 全部床義歯製作にはスロット型とボックス型のどちらの咬合器が適しているか?
 Q5 フェイスボウレコードとフェイスボウトランスファーの意義は?
 Q6 前方基準点の求め方と,その違いによる影響は?
 Q7 フェイスボウレコードを行うときの注意点は?
 Q8 フェイスボウにはどのような種類があるか?
 Q9 平均値法で模型装着するときの問題点は?
 Q10 スプリットキャストは利用目的や顆路調節法の違いによってその形態を自由に変えてもよいか?
 Q11 フェイスボウトランスファーを行うときの注意点は?
 Q12 下顎模型を咬合器装着するときの注意点は?
 Q13 全部床義歯製作のための下顎運動記録法にはどの方法が適しているか?
 Q14 チェックバイトを用いた種々な顆路調節法の利点と欠点は?
 Q15 咬合器の顆路調節はどの時点で行うか?
 Q16 作業側顆路の調節機構を一部備えた半調節性咬合器の効果的な調節手順とは?
 Q17 切歯路指導板の種類と設定基準は?
第5章 人工歯選択と排列時の問題点と対策(河野文昭,岡 謙次,大栗孝文)
 Q1 前歯人工歯の選択法にはどのような方法があるか?
 Q2 前歯の大きさはどのように決めればよいか?
 Q3 上唇線,下唇線を笑線というが,微笑線とどう違うか?
 Q4 前歯の色調および材質はどのように選択すればよいか?
 Q5 人工歯のとめ板に示されている番号はなにを表しているのか?
 Q6 下顎前歯の大きさは被蓋関係によってその大きさを変えるのはなぜか?
 Q7 模型上に前歯人工歯排列の参考となるものはあるか?
 Q8 上下顎の被蓋はどのように決定すればよいか?
 Q9 上下顎前歯人工歯を接触させないのはなぜか?
 Q10 下顎後退型の下顎前歯の排列位置と被蓋はどうするのか.正常被蓋を与えた場合に生じる問題点は?
 Q11 個性的な排列を行うときの参考になるものは?
 Q12 臼歯人工歯の選択基準は?
 Q13 臼歯人工歯の材質はどのように選択するか?
 Q14 解剖学的人工臼歯と非解剖学的人工臼歯との機能的な違いは?
 Q15 全部床義歯の咬合を咬合様式で分類するとどうなるか?
 Q16 上顎に比べて下顎の咬合堤が低い場合の排列で疑われることは?
 Q17 前歯部排列と臼歯部排列の移行はどのように行うのか?
 Q18 頬舌的な排列位置はどのように決めるのか?
 Q19 平衡咬合を得るための前方咬合の法則とは?
 Q20 平衡咬合を得るための側方咬合の法則とは?
 Q21 平均的な顆路角と切歯路角はどのくらいか?
 Q22 患者によって咬合様式はどのように選べばよいか?
 Q23 反対咬合患者の人工歯排列時に注意することは?
 Q24 無咬頭歯の排列時に注意することは?
 Q25 下顎後退患者(2級)の人工歯排列法と問題点は?
 Q26 リンガライズドオクルージョンとはどのような咬合様式か?
第6章 歯肉形成とろう義歯試適時の問題点と対策(市川哲雄,永尾 寛,石川正俊)
 Q1 上顎義歯を維持,安定させるための唇側と頬側の床翼形態は?
 Q2 上顎義歯を維持,安定させるための口蓋および後縁部の形態は?
 Q3 下顎義歯を維持,安定させるための唇側と頬側の床翼形態は?
 Q4 下顎義歯を維持,安定させるための舌側の床翼形態は?
 Q5 下顎義歯を維持,安定させるための後縁部の形態は?
 Q6 発音を考慮した口蓋の形態は?
 Q7 審美性を高めるための歯肉形態は?
 Q8 デンチャープラークコントロールを考慮した歯肉形成は?
 Q9 ろう義歯試適時になにをみるか?
 Q10 ろう義歯試適時の義歯床外形線および粘膜面との適合の点検は?
 Q11 ろう義歯試適時の咬合関係の点検は?
 Q12 ろう義歯試適時の人工歯排列の点検は?
 Q13 ろう義歯の審美性の点検は?
 Q14 ろう義歯試適時の歯肉形成の点検は?
 Q15 ろう義歯試適時の発語機能の点検は?
 Q16 床後縁ならびにポストダム設定位置の決定は?
 Q17 上顎義歯の場合,フィニッシュラインの設定で,内側と外側のフィニッシュラインがあるのはなぜか? また,ポストダム域を網状にするのはなぜか?
 Q18 下顎義歯にとって金属床の意義はあるのか.下顎義歯にとっての有効な形態とは?
第7章 レジン重合と義歯床研磨時の問題点と対策(清野和夫,山森徹雄)
 Q1 レジン重合法にはどのような種類があるか?
 Q2 精度のよいレジン重合システムを選ぶにはどのような方法があるか?
 Q3 遁路の必要性とその形態は?
 Q4 ポストダムはなぜ必要か,その形成法は?
 Q5 フラスク埋没時に留意すべき事項は?
 Q6 流し込みレジンを用いた常温重合法の問題点と対策は?
 Q7 金属床義歯の場合はどのような方法で埋没するのか?
 Q8 補強線は必要か.強度,形態,埋入位置は?
 Q9 レジン填入前に処理しておく必要がある事項は?
 Q10 レジン床に気泡を迷入させないための注意点は?
 Q11 レジン床はどの程度まで研磨すべきか?
 Q12 義歯床辺縁およびフレンジ部の研磨の要点は?
第8章 咬合器再装着と咬合調整時の問題点と対策(清野和夫,山森徹雄)
 Q1 重合後のレジン床義歯を咬合器に再装着するのはなぜか.その方法は?
 Q2 スプリットキャスト法の操作手順と問題点は?
 Q3 テンチの歯型法の操作手順と問題点は?
 Q4 はじめて完成義歯を装着してチェックバイトをとるときの要点は?
 Q5 フルバランスドオクルージョンの基本が咬合小面学説にあるとする理由は?
 Q6 フルバランスドオクルージョンの削合は―中心咬合位―?
 Q7 フルバランスドオクルージョンの削合は―偏心咬合位―?
 Q8 フルバランスドオクルージョンの削合は―自動削合―?
 Q9 リンガライズドオクルージョンにおける削合は?
 Q10 交叉咬合排列時の削合は?
第9章 義歯装着時の問題点と対策(細井紀雄,椎名順朗)
 Q1 新義歯装着時に痛いといわれたときには?
 Q2 下顎義歯が浮くと訴えられたときには?
 Q3 上顎義歯が吸着しないときには?
 Q4 気持ちがわるいと訴えられたときには?
 Q5 噛みにくいと訴えられたときには?
 Q6 噛み合わせが高いと訴えられたときには?
 Q7 噛むと痛いといわれたときには?
 Q8 噛めないといわれたときには?
 Q9 義歯が浮き上がったり,落ちたりして落ち着かないといわれたときには?
 Q10 発語しにくいと訴えられたときには?
 Q11 食べかすがたまるといわれたときには?
 Q12 頬や舌を噛むといわれたときには?
 Q13 顔つきが変わったといわれたときには?
 Q14 ものが飲みにくくなったといわれたときには?
 Q15 唾液が止まらなくなったといわれたときには?
第10章 長期経過観察時の問題点と対策(平井敏博,越野 寿,池田和博)
 Q1 顎堤吸収に対する対応は?
 Q2 咬合関係の変化に対する対応は?
 Q3 全部床義歯の破折や破損の原因は?
 Q4 破折に対する有効な補強方法は?
 Q5 義歯安定剤の正しい使用方法は?
 Q6 義歯の清掃はどのように行うか?
第11章 特殊義歯の問題点と対策(市川哲雄,友竹偉則,蟹谷英生)
 Q1 部分床義歯から全部床義歯にスムーズに移行させるためには?
 Q2 無歯顎患者に用いるインプラント義歯は?
 Q3 高齢無歯顎者にインプラント治療を行うときの注意点は?
 Q4 オーバーデンチャーにはどのようなものがあるか.また,注意点は?
 Q5 軟質裏装義歯の適応と種類ならびに使用上の注意点は?
 Q6 機能障害,とくに構音障害がおきた場合の義歯による対策は?

咬合器博物館
 1 Galetti-Luongo咬合器
 2 Denar Gnathomatic咬合器
 3 Houseの咬合器
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 7 Hanau University咬合器130-21型
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 11 矢崎式咀嚼運動器
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