やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
INTRODUCTION

 近年,「インフォームド・コンセント」,「ミニマル・インターベンション」などの概念のもとに,患者との良好な信頼関係に基づいた歯科臨床が要求されるようになってきている.しかしながら,歯科臨床の内実をなす基本のテクニックがおろそかにされたなら,信頼関係の根本から崩壊するのはもちろんであろう.
 本書は,歯科大学を卒業後まだ経験の浅い歯科医師を主な読者対象として想定し,理論や概念的なことについては背景としながら,診査・診断から最終的な装着,メインテナンスにいたるまで,なによりもクラウン・ブリッジの臨床テクニックをわかりやすく解説しようとするものである.
 クラウン・ブリッジの領域自体,旧来の教科書的なテクニックに加えて,歯周組織との生物学的な調和をはかり,また患者からの審美性に対する強い要望に応えていくなど,歯科臨床の質そのもののレベルアップが要求されてきている.一方,接着歯学的な進歩をはじめとして,各種歯科材料や機器は常に新しい進展を遂げ,こうした技術や知識を身につけていかなければならないことを考えるとき,一概に基本のテクニックといっても,かならずしも単純なことでないことが理解いただけると思う.
 本書においては,このような状況とニーズをふまえて,多くの写真を用いたテクニックのわかりやすい解説にまず主眼を置くとともに,現在の機器や材料の幅広い紹介をも意図した.さらに「臨床のワン・ポイント」やコラムなど,テーマに応じた紙面構成のバリエーションを駆使して,より多くの情報が提供できるように心がけた.
 経験の浅い歯科医師のみならず,十分経験を積まれた歯科医師にとっても,クラウン・ブリッジの最も新しい臨床テクニックの解説書としてお読みいただけるものと確信する次第である.
 2003年4月25日
 五十嵐 孝義
1章 診査・診断・治療計画
 患者への対応と治療計画の立案
   1.患者との対応
   2.治療計画の立案について
 残存歯の状態,咬合について─治療計画の立案とのかかわりにおいて─
   1.残存歯の状態
   2.患者の咬合状態の観察
 歯周組織をどうみるか
   1.クララウン・ブリッジ学からみた歯肉形態に影響を及ぼす因子
   2.一般的な審査項目
   3.支台歯形成時の審査項目
 治療計画をどのように組み立てるか
   1.ストレスのコントロール(診断用ワックス・アップ)
   2.細菌のコントロール(ブルー・プリント)
 補綴前処置としてのMTM(minor tooth movement)
   1.整直(アップライト)
   2.転位歯の移動(5 頬側移動後にブリッジにした症例)
   3.挺出(エクストルージョン)
   4.挺出歯の圧下
   5.歯根の離開
   6.MTMを発展させた症例

2章 支台歯形成・支台築造
 マージンの設定位置とそれに伴う配慮
 マージン形態と補綴物の種類・使用する器具(補助器具)
   1.シャンファー(chamfer)
   2.ショルダー(shoulder)
   3.ベベルド・ショルダー(beveled shoulder)
   4.ショルダーレスの辺縁形態はナイフ・エッジ(knife edge)あるいはフェザー・エッジ(feather edge)
 形成のステップ
   1.全部鋳造冠(下顎右側第一大臼歯)
   2.陶材焼付鋳造冠,オールセラミック・クラウン(上顎左側中切歯)
   3.パーシャル・クラウン(/5冠)(上顎右側第二小臼歯)
   4.ラミネート・ベニア(上顎左側中切歯)
   「コラム」支台歯形成はどれだけ大事なのか?
 形成のむずかしい場合の対応方法
   1.短い歯冠長
   2.傾斜歯の形成方法
    支台歯形成の姿勢,ポジション,レスト・ポジション
   1.上顎右側中切歯
   2.上顎右側犬歯
   3.上顎右側小臼歯部
   4.上顎右側大臼歯部
   5.下顎右側大臼歯部
   6.上顎左側大臼歯部
   7.下顎左側大臼歯部
 ブリッジの支台歯形成支台歯の平行性に留意して
   1.ブリッジの支台歯形成を行うにあたっての基本的事項
   2.診療姿勢および形成時のアプローチの仕方による影響
   3.解剖学的形態の影響
   4.ブリッジの支台歯形成(歯質削除)
 歯肉を傷つけない形成法
   1.エンド・カッティング・バーの応用
   2.ラウンドエンド・バーとホワイト・ポイントによる方法
   3.歯肉のプロテクターを用いる方法
   4.圧排糸による歯肉の排除
    「臨床のワン・ポイント」形成後の支台歯の確認
     支台歯のレジン・コーティング
     マイクロスコープ
     ハイスピードコントラ
 支台築造の基本
   1.歴史
   2.破折の原因
   3.支台築造の基本事項
   4.物性について
 根管の印象,キャスト・メタル・コア
 レジン・コアとキャスト・メタル・コアの使い分け
   1.コンポジットレジン・コアの適応症
   2.コンポジットレジン・コア直接法の長所,短所
   3.コンポジットレジン・コアによる支台築造の臨床例
   4.キャスト・メタル・コアの接着法と注意点
 ジルコニア・ポストを使用した支台築造
   1.特徴と適応症
   2.2つの製作法と臨床例
    「臨床のワン・ポイント」継続歯,キャスト・コア撤去法

3章 印象採得
 支台歯の印象採得材
 ゴム質印象材
 シリコーン印象
   1.各個トレーのない場合
   2.各個トレーを用いる場合
 ポリエーテル・ラバー印象材
 寒天印象
    寒天印象の一般的手順
 寒天アルジネート連合印象法
 個歯トレー法―特にマージンが歯肉縁下で印象がむずかしい場合
    方法
 トラスファー・コーピング法
    トランスファー・コーピングの一般的手順
 「臨床のワン・ポイント」アンダーカットのブロック・アウトその材料とコツ
 歯肉圧排
   1.歯肉圧排の目的
   2.歯肉圧排の種類
   3.機械的・薬物的歯肉圧排法
   4.歯肉圧排器
   5.歯肉圧排の方法
   6.歯肉圧排の実際
   「臨床のワン・ポイント」
    自作圧排糸の作製
    ポンティックの形態と設計

4章 プロビジョナル・レストレーション
 プロビジョナル・レストレーションの必要性と経過観察の視点
   1.必要性
   2.経過観察の視点
 口腔内で直接法により即日に作製する方法
    製作の過程
 印象採得により間接法で即日に作製する方法
   1.直接法と間接法の分類
   2.製作の過程
 既製レジン歯を使う方法
    術式
 診断用ワックス・アップによる方法
    「臨床のワン・ポイント」術前の歯冠形態を保存する方法

5章 咬合採得
 咬合採得
   1.咬合採得(咬合間記録=interocclusal record,centric bite)の目的
   2.咬合採得の実際
 フェイス・ボウ・トランスファー
   1.なぜフェイス・ボウを使うか
   2.フェイス・ボウ・トラスファーとは
   3.患者の上顎模型の咬合器への位置付け
   4.下顎模型の咬合器への付着
   5.左・右側方チェック・バイトによる咬合器の角度調節
 ラボとのコミュニケーション―マウントの精確性と形態,顔貌との調和
    ラボに伝達する情報

6章 仮着
 仮着
   1.仮着の目的
   2.過剰咬合と過少咬合のチェック
   3.審美性,周囲組織との調和
 最終合着材の種類に応じた仮着材の選択
   1.リン酸亜鉛セメントおよびグラスアイオノマーセメント
   2.レジンセメント
    「臨床のワン・ポイント」
     仮着材の除去-清掃方法とその特徴
     生活歯仮着材と鎮静法の混合(歯肉への影響)
     撤去用突起がないときの仮着は?
 リマウント
7章 最終装着
 合着と接着
   1.補綴物によるセメントの使い分けと特徴
   2.陶材焼付鋳造冠の臨床例
   3.ハイブリッド・セラミックス・クラウンの臨床例
   「コラム」レジン添加型グラスアイオノマーセメント(RMGI)
 オール・セラミック・クラウン,ラミネート・ベニア
   1.オール・セラミック・クラウン
   2.ラミネート・ベニア
 補綴物の表面処理
    「臨床のワン・ポイント」
     ろう着位置の確定方法
     接触点がなくなったら?
     リムーバブル・ノブの付与形状,位置
     メインテナンスのヒント(工夫)