やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

まえがき

 大学病院と開業の場で臨床医として歯科医療に携わり21年目になった.歯周科に8年,開業医として13年である.この間,研究や学生教育そして臨床とさまざまな経験をつむことができた.そのあいだ多くの学生や卒直後の先生方から,「どのような本を見たらペリオがわかるようになりますか?」とよく聞かれ「一冊ですべてを書いた本なんてないよ」と答えるのが常であった.しかし,今までの自分の経験や調べたことをまとめると,この問いにかなり答えられるのではないかと思うようになり,この本の構想を練りはじめた.実際に調べてみると,筆者の研究テーマである“日本人歯槽骨の形態や歯根の形態”について書かれている教科書はほとんどなく,日常の臨床に必要な基本的データでさえかなり不足していることがわかった.
 本書は,教科書といわれる成書と実際の臨床に必要な知識とのへだたりが大きいため,このギャップを埋めるべく企画されたものである.したがって,一般的な歯周領域を越えた内容も含んでいる.この本から得た知識によって,臨床家が明日からのレベルアップがはかれることを願ったからである.4年前の秋に,この企画を医歯薬出版の編集者に打診したときには,すでにこれまで歯周疾患に関する書籍が数多く存在するため,“何を今さらという感があり,著者に会ってなんとか出版をあきらめさせようと思った.“と後になって打ち明けられた.しかし,この本の詳細を直接聞いた二人のベテラン編集者は,考えを変えた.その理由は,“基礎から,臨床まで幅広くカバーし,今まで聞いたことのないような話題が多く,歯周領域だけでなく補綴を含む臨床に直結した多くの情報を含んでいたため”であったと言う.完成まで3年間という長い時間がかかった本であるが,なにぶんにも一開業医が,こつこつ調べまとめたものである.したがって,文献について解釈の違いなどがあるかもしれない.そのような点があれば,ぜひ御叱正を賜り,さらに勉強させていただきたいと願っている.
 この本は,章単位で構成されているので,どこから読んでもよく,図表が多いため短時間で理解できるはずである.より詳しく調べたい場合は,章ごとの文献によってさらに知識を深めていけるようになっている.
 本書は多くの方々の御協力によってできた.そのなかでも終始アドバイスをいただいた日本大学研究所教授 村井正大先生,筆者を歯周の道にいざなってくださった日本大学教授 伊藤公一先生,この企画を出版社に橋渡ししていただいた酒田の熊谷 崇先生にこの場をかりて深く御礼を申しあげたい.さらに,当初より筆者を理解し,3年の長きにわたり辛抱強く励ましつづけてくれた,医歯薬出版の水島健二郎,鈴木トキ子の両氏に感謝したい.二人がいなかったらこの本は上梓できなかっただろう.
 平成13年2月 江澤庸博
基礎知識編

第1章 歯周治療の歴史と流れ
 はじめに……3
 歯周治療の夜明け……3
 GTRの登場……6
 エナメルマトリックスデリバティブ(エムドゲイン○R)……7
 基本になるものは?……8

第2章 歯周疾患はどう分類するか
 はじめに……9
 歯肉炎(Gingivitis)……9
 歯肉の炎症(Pubertal gingivitis)……10
 萌出性歯肉炎(Eruptive gingivitis)……10
 思春期性歯肉炎(Pubertal gingivitis)……10
 妊娠性歯肉炎(Pregnancy gingivitis)……10
 白血病性歯肉炎(Leukemic gingivitis)……11
 剥離性歯肉炎(Desquamative gingivitis)……12
 壊死性潰瘍性歯肉炎(Necrotizing ulcerative gingivitis:NUG)……14
 口唇ヘルペス(Herpes labialis)・ヘルペス性歯肉口内炎(Herpetic gingivostomatitis)……16
 咬合性外傷(Occlusal trauma)……16
 薬物による歯肉増殖(Medication-induced gingival over growth)……17
 歯周炎(Periodontitis)……18
 早期発現型歯周炎(Early-onset periodontitis)……18
 成人型歯周炎(Adult periodontitis)……21
 難治性歯周炎(Refractory periodontitis)……21
 壊死性潰瘍性歯周炎(Necrotizing ulcerative periodontitis)……22
 全身疾患に伴う歯周炎(Periodontitis associated with systemic disease)……22
 口腔癌(Oral cancer)……25
 まとめ……26

第3章 健康な歯周組織をよく見てみよう
 はじめに……29
 セメント質……29
 歯根膜……30
 歯肉……32
 歯槽骨……40
 生物学的幅とは?……41
 インプラントにも生物学的幅があった!!……42
 プラークフリーゾーンってなに?……42
 まとめ……43

第4章 歯肉と歯槽骨の形態―その知られざる世界―
 はじめに……47
 歯槽骨の辺縁形態はCEJに一致している!!……47
 歯間部歯槽骨の形態は凸型が正常なのか?……47
 前歯唇側歯槽骨は紙のように薄い!!……49
 ディヒーセンスとフェネストレーション……52
 上顎第一大臼歯口蓋近心の歯肉退縮の原因は?……54
 歯肉の形態は,歯槽骨の形態と一致しない?……58
 歯槽骨の病的(異常)形態とX線像……59
 意外と知られていない下歯槽神経の実体……61
 まとめ……63

第5章 歯槽骨の吸収は加齢変化か?
 はじめに……65
 年齢とともに歯槽骨は吸収する?……65
 歯種や部位によって加齢変化が違うのか……67
 骨吸収は口腔清掃と密接に関係している!!……67
 歯槽骨の「老化」による吸収はどの程度あるのか……68
 まとめ……69

第6章 歯根の形態
 はじめに……71
 歯の発生と歯根の形成……71
 根間稜ってなに?……71
 エナメルプロジェクションの実体にせまる?……75
 エナメルパールはどこに多いのか?……78
 斜切痕と口蓋溝はどこが違う?……78
 歯根に陥凹(かんおう)や溝があると歯周炎は悪化する!!……79
 上顎第一小臼歯近心面には100%近い陥凹がある!!……80
 下顎第一小臼歯には意外に深い根面溝がある!!……82
 今まで知られているようでわかっていなかった日本人の大臼歯歯根の断面形態……85
 大臼歯は後方にいくに従い小さくなる?……86
 樋状根の頻度はどれくらいか?……87
 歯根分割の予後は?……88
 歯根の表面積は各歯根でどれくらい違うのか?……88
 CEJの走行はどうなっているのか……88
 まとめ……90

第7章 位相差顕微鏡と細菌
 はじめに……93
 顕微鏡の歴史……93
 位相差顕微鏡――暗視野顕微鏡とどう違う?……95
 位相差顕微鏡の意義……97
 位相差顕微鏡で見える細菌はどんな菌?……97
 AaやPgは運動性か?……97
 Bacteroides melaninogenicus(バクテロイデス・メラニノゲニカス)はどこへ行った?……100
 バイオフィルムってなに?……101
 歯周病の病因論……102
 まとめ……103

臨床編

第1章 プロービングを見直そう
 はじめに……106
 プローブでできること……106
 プローブの選択……108
 測定部位――なぜ6点法がよいのか……109
 プロービングの具体的方法……110
 プロービング値に影響を与える因子……111
 プローブの太さと歯肉の炎症について……112
 まとめ……113

第2章 プラークコントロール
 はじめに……115
 日本における一般的現状……115
 ブラッシングは1日何回したらよいのか……116
 コンプライアンスを高める!!……117
 歯ブラシの毛先はどこまで入る?……118
 歯ブラシの選択……118
 プラークスコアは低くても悪くなる?……119
 電動歯ブラシの実力は?……122
 洗口剤は何が効く?……123
 まとめ……124

第3章 スケーリングとルートプレーニング
 はじめに……127
 スケーラーの種類……127
 スケーラーの選択……128
 グレーシーキュレットの特徴……129
 スケーリングとルートプレーニングの定義……130
 スケーリング,ルートプレーニングの原則……130
 まとめ……134

第4章 超音波によるスケーリング,ルートプレーニングの今昔
 はじめに……136
 超音波スケーラーの特徴……137
 超音波スケーラーの歴史……137
 マイクロウルトラソニックの登場……138
 エアスケーラー(音波スケーラー)の歴史……139
 まとめ……140

第5章 スケーラーのシャープニング
 はじめに……142
 研磨の必要時期をどう判断するのか……142
 フィンガーネイルテスト(テストスティックによる判定)……143
 光の反射による方法……143
 砥石の選択……144
 シャープニングの原則……144
 グレーシーキュレットの研磨法……146
 鎌型スケーラーの研磨法……148
 新品のスケーラーにもワイヤーエッジはあった!!……149
 まとめ……149

第6章 歯の動揺と固定―動揺している歯は悪いのか?
 はじめに……151
 歯の動揺の原因……151
 歯の動揺と根の数……152
 多根歯は動揺しにくい?……152
 動揺のある歯は悪いのか?……153
 病的動揺かどうかの判断基準……153
 歯周外科処置後に動揺は増加する?……153
 動揺歯の固定……154
 まとめ……154

第7章 咬合性外傷―垂直型骨吸収は咬合性外傷の判定となりうるか?
 はじめに……156
 歯の動揺……156
 歯槽骨の垂直型吸収の原因――GlickmanとWaerhangの考えかたの違い……157
 X線における垂直型吸収の診断基準……157
 歯槽骨の垂直型吸収は咬合性外傷の判定となりうるか?……157
 咬合性外傷の診断……158
 まとめ……159

第8章 咬合調整
 はじめに……161
 咬合調整の時期……161
 炎症の除去を優先させよう!!……162
 咬合調整のゴールは?……162
 中心位の求めかた……164
 咬合調整の具体的方法……165
 混合歯列期はどのような側方ガイドか?……166
 まとめ……167

第9章 ポケット掻爬とENAP
 はじめに……170
 ポケット掻爬の目的……170
 適応症……171
 禁忌……171
 基本的方法……171
 ポケット掻爬療法を行う時期……172
 ENAP……172
 まとめ―軟組織の除去は必要か?……173

第10章 フラップ手術――歯冠長伸展術をマスターしよう
 はじめに……175
 歯周外科手術の分類と目的,適応症……176
 歯周外科に必要な器材と選択のポイント……178
 フラップ手術に関する基本的用語……184
 Modified Widman flap:モディファイドウィッドマンフラップとは?……186
 クリティカルプロービングデプス……190
 フラップ手術の必要性……190
 歯冠長伸展術をマスターしよう……193

第11章 エレクトロサージェリー
 はじめに……197
 “エレクトロサージェリー(ES)”ってなに?……197
 電気メス使用上の注意……198
 電気メスはどのような処置に使えるのだろうか?……198
 エレクトローデってなに?……199
 切開と凝固はどこが違うのか?……203
 対極板は必要か?……204
 エレクトロサージェリーの練習法……206
 エレクトロサージェリーの治癒は遅いのか?……208
 まとめ……209

第12章 治療計画
 はじめに……219
 診査,診断……219
 予後判定……220
 治療計画の原則……220
 ファーケーションアローってなに?……221
 「28歯病」になっていませんか?……221
 Shortened dental arch(短縮歯列弓)ってなに?……223
 抜歯の基準はアタッチメントロス,動揺度?……225
 補綴処置の原則……225
 治療計画と治療の実際例……227
 まとめ……233

第13章 メインテナンス
 はじめに……236
 SPTとはなに?……236
 メインテナンスの目的……236
 メインテナンスの理論的根拠……237
 メインテナンスの間隔はどう決めるのか……238
 メインテナンスでなにをするのか?……240
 メインテナンスで実際に使用する器材……244
 治療の結果……245
 まとめ……246

コラム:F感度デンタルフィルムとオルソシステム/…242
コラム:歯科用小型X線CT(Ortho-CT)/…243
アメリカ歯周病学会による歯周疾患の新分類(1999年)/…248